1 絶望
【閲覧注意】
これはドロドロ、胸糞悪い系の恋愛小説です。
甘々で正統派な恋愛を求める方はブラウザバック推奨です。
彼女が死んだ——
高校二年生の五月。
日差しの強い、何でもない休日に俺の彼女は死んだ。死因は交通事故。といっても俺は現場に居合わせた訳では無い。俺が現場に着いた時には彼女『夜淵真由』は既に亡骸になっていた。
俺が殺したようなものだ。
死にたくなった。
後追いを何度も考えたが妹が俺を止めた。
「勝手に死ぬなんて絶対許さない」
トイレも、風呂も、寝る時も、四六時中俺に付き纏って自分まで学校休んで、側にいてくれた。
そうでもしなけりゃ俺は死んでいただろう。
不意に聞いた。
「何でそこまでする」
妹は「別に。一回『死なないで』って言って死なれたらこっちが気分悪いから」
素っ気なくそう言うだけ。
昔からそうだった。俺が友達と遊んでいるのに混ざらず、遠くから眺めている感じ。そんな妹だったからこそ俺が「死にたい」と思っていたのに気付いたんだろう。
俺は一週間程で立ち直れた。
「明日は学校に行く」
突然俺がそんなことを言い出しても妹は顔色一つ変えずに、
「あっそ、じゃあ私も明日から行く」
それだけ。
俺がもう自殺なんてする気が無いのを悟ったみたいに。
「ありがとう」とは言わなかった。
ただ俺は、いつか必ず恩返しをしようと自分に誓っただけだった。
5月10日 午前7時
「じゃあ、行ってきます」
俺は重く淀んだ不安を抱えながら学校へ行くことを決めた。
「いってらっしゃい」
母と妹が送り出してくれる。久し振りだからか、その声は妙に優しく俺に「頑張れ」と言ってくれているような気がした。
「……っと」
自転車に跨り、行き慣れた通学路を走行する。
そして出来るだけ何も考えないように目的地の学校を目指す。
何故か。
それは通学途中に彼女の家があるからだ。
通らなくても行けない訳じゃ無いがかなり遠回りになる。だから今日は早い時間に家を出た。
俺の心が折れて遠回りしても遅刻しないように。
自分でも無様だと思う。
軽めに言うと『ダサい』
しかしそうも言ってられない。
真由が死んだことは俺の精神を限界ギリギリまで磨耗させたんだ。余裕が無い。
そんなことを考えていると最悪が訪れてしまった。
「……」
真由の家の前で俺は自転車を停車させている。
何でって?
真由の妹の『夜淵彩』と鉢合わせたからだ。
別に停車する必要は無かった筈だ。
でも俺は止まってしまった。
それをどうしてとか考えても仕方が無い。俺は既に止まっているのだ。これからどうするかを考えなくちゃいけない。
すぐに自転車を漕ぎ直すか?それとも軽く挨拶でもするか?それとも——
「ずっと学校を休んでいたそうですね」
「……」
あっちから話しかけてきた。
話すのは二度目だが相変わらずの冷たくて淡々とした敬語口調だ。
「……あぁ、吹っ切れてはいないけど、何もしなくても仕方ないしな」
彩は俺の目を鋭利な刃物で刺すようにじっと見つめる。
「そうですか。あなたを恨んでいないと言えば嘘ですが、もう終わったことです。私があなたをどうこうするつもりはありません」
それを聞いて少し安堵するがそんなことも言ってられない。以前彼女の鋭い視線は向けられているからだ。
「ですが、もう私には一切関わらないで下さい。私もあなたに接触するようなことは今後絶対にしないので」
だろうな。それが一番平和な終わり方だと俺も思う。そして彼女の言うことに口を出す気も逆らう気も無い。だって悪いのは俺なんだから。
俺が「分かった」と言おうとした瞬間、聞き覚えの無い声が聞こえた。
『キミ達、夜淵真由を生き返らせようとは思わないかな?』
その声は何というか頭に直接語りかけてきた。
「「えっ……」」
俺も彩も同時に疑問の声を上げる。
何なんだこの現象は?そして何を言っているんだこの声は?
『あぁ、驚かせてゴメンね。信じられないかもしれないがボクは悪魔だ。ボクはキミ達二人の夜淵真由に対する愛情の深さに感動して今こうしてチャンスを与えようとしているんだよ』
聞いても理解出来なかった。こいつは何を言っているんだ。話が唐突過ぎる。
俺はこの説明出来ない現象に混乱して頭が回らない。
でももし、本当にこいつが悪魔で真由を生き返らせてくれるというのなら俺はどんなことをしてでもそれを叶えさせるだろう。
『どんなことでも?』
俺と彩の目がギョッと見開く。恐らく二人とも同じことを考えていたのだろう。
『なら、話は早い。分かっていると思うけど、悪魔なんだからそれ相応の代償を要求することになる』
話がとんとん拍子に進んで行く。俺は怯えると同時に、確かに悪魔の言葉を求めて、真由のことを想っていた。
『ボクから提示する夜淵真由を生き返らせるための条件は——』
すると今まで味わったことの無いような寒気と怖気を感じた。
『君達二人が愛し合うことさ』
理解は出来た。でも頭が追いつかなかった。
だってそれはあまりにも残酷なことだとすぐ気付いたから。
『ちなみに偽り愛は不要だよ。さっき分かったと思うけど、ボクは人の心を読める。キミ達が真に愛し合わない限り、夜淵真由が生き返ることは無いよ』
最初に声を上げたのは彩だった。
「どこに……それが出来るという証拠が……」
その声は今まで聞いたどの彼女の声よりもか細く、おぼろげな物だった。
『じゃあ、少しだけ見せてあげようか』
すると目の前に制服姿の倒れた真由が現れた。二人とも駆け寄って触り、しっかりと触れられることを確認した瞬間、彼女の体は消えた。
『これで信じてもらえたかな?』
確かにさっきのは疑う余地なく真由だったし、紛れも無い奇跡だった。
「でも……本当に叶えてくれるのか……」
俺は念押しするように聞く。
そうすると声の主はさっきよりも声を高らかにして言う。
『もちろんさ。何たってボクは悪魔なんだからね』
違う。
こいつは悪魔なんて生温いものじゃない。
ただの怪物だ。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
早速ですが作者はこういう話が大好きです。これから胸糞に拍車がかかってきますので楽しみに(覚悟して)お待ちいただけたらと思います。
Twitterアカウントは@ DoleLaです。作品について呟いたりしています。