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毒息  作者: 天主 光司
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第四話

その日の職場はいつもと違った雰囲気であった。オフィス中は空気が淀んでいるようで息苦しかった。

普通の呼吸の時に、黒い息を吐こうと思うといつでも吐けるようになったが、逆の場合の黒い息しか吐けない状態の時、普通の息には戻せないようだ。

そして今日は朝からずっと吐きまくっていた。どうしても、元に戻らないからだ。周りの人々に対する罪悪感はあったが、自分の中に溜まっていた何かが出て行くようで気持ち良かった。

それとは反対に、周りにいる人間は逆に気分が優れない者が多いらしく、しきりに席を立つ者が多い。その内早退する者も現われ始めた。

それが余計俺の心を締め付ける。俺が早退するべきなのだろうか?

福田部長は窓を開け空気の入れ替えをするように指示した。窓の傍にいた社員が窓を開ける。このような状況でも仕事を続けようとしている。

俺は虚しくなる。すると余計息がどす黒くなっていくようだ。しかし、外から強い風が吹き込み黒い息も吹き飛ばされていく。窓が開いている限り、効果がなさそうだ。それが俺の辛い気分を少し和らげた。


次の日、出社すると半分ぐらいの社員が休みを取っていた。

俺は始業のベルが始まってから三十分後から黒い息を吐き始める。別に吐きたいから吐いている訳ではない。自然とそうなってしまっていた。

今日は昨日より黒い息の広がりが速い様に感じた。

俺はドキッとした。気が付くと自分以外にもお茶汲み係りのOLの佐藤が黒い息を吐き出していた。表情こそ笑顔だが、かなり強力な毒素を含んでいるようだ。

お茶を受け取った社員金田が急に咳き込む。佐藤は背中を摩りながら黒い息を吐きかける。すると更に強く咳き込み。とうとう昏倒してしまった。

黒い息が見えない者にとっては介抱しているように見える絶妙なやり方だ。昏倒した金田は常々佐藤にセクハラをしていたのだ。かなり恨みを買っていたのだろう。

そして、救急車で運ばれて行った。

だいたい社内の女性社員に対するセクハラは目に余るものがある。社長自ら率先してセクハラしているんだからしょうがない。男の俺が見ても気の毒に感じる程だ。

福田は作業を止めないように指示して回る。あくまでも仕事優先なのだ。

俺は息を呑む。何とか黒い息は止まったようだ。

佐藤は俺の所にもお茶を届けに来た。しかし、俺には息を吹きかけない。

「さっき見たことは他人には言わない事。お互いさまなんだから」

佐藤はコッソリそう言うと立ち去った。

やはり、佐藤は黒い息が見えていたのだ。そして意識的に息を吹きかけていたのだ。


佐藤は定時の五時半に退社した。俺も残業をせずに退社した。金曜日と言う事もあり、皆残業をせず早く退社する。

せっかく、見つけた仲間だ。はやる気持ちを抑えきれなかった。

「佐藤さん」俺は呼び止めた。

「なんかよう?」

俺はしまったと思った。何も準備していない。当然用なんかない。

「少し話をしないか?」

「何で?」

「俺が話したいから」

「口説いているつもり?」

「情報交換しないか?」

考えるより言葉か出た。俺は人気のない公園に佐藤をつれて来た。すると佐藤の方から口を開いた。

「できれば馴れ馴れしくしないで欲しいんだけどな」

「いつもの笑顔の佐藤さんとは全く違うねぇ。言葉使いまでも違うし」

俺は内心驚いたが、今まで見たことのない佐藤を見て、嬉しくなった。すこし、にやけてしまったかもしれない。

「職場でもないのに何であんたに愛想よくしなくちゃならないのよ」

俺はドキドキした。何か心が躍るようだ。

「俺は作り笑いをしている顔より今の方が好きだけどな」

考えるより先に口が言葉を紡いだ。

「ふん。勝手に言ってなさいよ」

「あんたの事、結構気に入ったのにな」

「私を口説きたいわけ? 残念だけどあんたはタイプじゃないよ」

「自惚れんなよな。別に恋愛感情はない。口説こうとしているけどな」

「どういうつもり」

「手を組もうぜ」

「何がしたいのよ」

「会社で気に入らない奴らを協力して殺していかないか?」

俺はとんでもない事を提案してしまった。俺が憎んでいるのは福田だけだ。だが、殺したいほどではない。なんでこんな事を言ってしまったのだろう。

俺は彼女の気を引こうとしていた。無意識のうちに。

佐藤は考え込む。

「手を組む気はないわ。でも、お互いの邪魔をしないって所で手を打たない」

俺は少しがっかりしたが、安心もした。彼女が受け入れていたら俺まで誰かを殺さなければならなくなる。金田が死んだかどうかは知らないけど。

「残念。フラレたか。しつこい男は嫌われるって言うからな。今日は諦めるよ。気が変わったら言ってくれよ」

とりあえず今日は引く事にした。すると佐藤がやって来た。

「駅まで一緒に行きましょうよ」

俺は舞い上がるほど嬉しかった。

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