幼馴染の襲来と旅立ちと
「朝だぞ~イング君早く起きて~!!」
……もう朝か、不安と緊張と憂鬱さのあまり寝付きが悪くまったく寝た気がしない
「も~、今日は朝一から一緒に区役所行く約束してたでしょ~なんでまだ準備してないのさ」
引き剥がした俺の毛布を放り投げて腕を組みながら仁王立ち、両頬を膨らませてこちらを睨みつけているこいつは近所に住んでいる幼馴染のアズサだ。6歳から6年間通う義務教育過程である国民学校時代の同級生だった。
卒業してから3年も経つので、ほとんどの同級生達との関係は切れてしまっているがこいつは家が近いということもあって未だに俺の友達で居てくれている、腐れ縁ってやつなのかな?
「もう9時だよ、役所開いてるんだからはやくはやくー」
俺は腕を引かれてベッドから強引に引きずり出された。俺よりチビのくせになかなかのパワーだ。
こいつは結構がっしり、いやむっちりか?していてなかなかの肉付きだからなぁ今も着替えさせようとクローゼットに誘導すべくガッチリと俺の二の腕を両腕でホールドして引っ張っているが、アズサの胸部にあるふたつの膨らみが二の腕に押し付けられていてなかなか重量感がありそれでいてやわらかな感触が……
はぁ、寝起きの健康な男子というものにはただでさえ色々と事情があるのだからデリカシーというものをだなぁ……俺は中腰になりながらひょこひょことクローゼットに赴き時間を掛けてゆっくりと上着から着替えた。
「なぁ、親父と兄貴は?」
「1階のお店でお仕事始めてるよ?見てみて、おじさんからお駄賃もらっちゃったよ10000カネー!」
「そうかよ」
素っ気なく返し、空っぽになったクローゼットを閉めて部屋を出た。そこで立ち止まり左側にある階段を一瞥、下の店に降りる内階段だ。
だが俺は反対側の右に向かって歩みを進めてその突き当たりの玄関にたどり着いて扉に手をかけた。
「おじさん達に声掛けないの?」
「ああ、もういいよ」
「あ、拗ねちゃってるんだ?」
「ちッ」
ニヤニヤと憎らしい笑みを浮かべるアズサを無視して二階の玄関から伸びる外階段を静かに下って裏庭に降り立った。親父達には会いたくないさっさと出て行くに限る。だが、アズサのやつがドシドシと階段の音を響かせて俺に追いついてきた、ガサツな奴だこれじゃあ親父に気づかれる。
アズサに悪態をつこうと口を開きかけたその時に店の勝手口が開いて中から出てきた親父と目が合う。が、俺はサッと目を反らしそのままいそいそと早足で敷地の外へと逃げ出した。
「おい、イング待て。……まったくあいつは」
「おじさん、イング君は僕に任せてよ。しっかりと見張って連れて行くから!行ってきます!」
「ああ、アズサ“君”頼んだよ」
つまりはそういうことだ。朝、甲斐甲斐しく起こしに来てくれる小柄だけど巨乳、トランジスターグラマーでかわいい幼馴染の女の子。そんな上等なものが俺なんかに居るわけがない、こいつはただの小太りでいつも汗臭いチビのデブ“野郎”だ。
俺が今、人生最大の窮地に至って苦しんでいる真っ只中だというのにたった10000カネーぽっちで友達を裏切るクズ野郎だ。
スキルの素養が無かったくせに努力も怠った結果がスキルなしの無能者
たとえスキルが無くとも出来る雑務はあるからと店の手伝いを任されても怠り続け
遂には見放されて放逐されようとしているろくでなし、それが俺だ。
ついでに言えば顔も頭も悪い非モテで童貞でオナニー猿のキモ男
なるほどその友達がクズ野郎なのも道理である。