「セリフはセンス」はウソ。会話をイキイキとさせる基本的な考え方と具体的なテクニック。
こんにちは、こんばんは、ラッコです。
タイトルに書いたように、「セリフや会話はセンス」という文言を目にしたことがある人は少なくないのではないでしょうか。
ラッコはもともとテレビドラマの脚本家を目指していた時期があり、ゆえにセリフについて考える機会が多かったのですが、「構成や人物造形についてはあれこれ教えてくれる人でも、セリフのことになると口を閉ざす」ということが、それはもう、よくあったんです。
しかし、それでは「努力してもムダなん?」となりますよね。ストーリーを考えるのが苦手だったラッコは(今もべつに得意ではないけど)、その言葉がどうしても受け入れられず、個人的にセリフの研究をするようになりました。
その結果、某コンクールで準グランプリを受賞して50万円をもらったり、『相棒』なあの局が開催しているシナリオコンクールでは1500くらいの作品から最終候補の10作品まで残ったりしました。
またそのコンクールでは、審査員のひとりの、キムタク作品をたくさん書いていることで知られる大御所脚本家の方から「セリフがいい」とお褒めの講評をいただけました。
(その後色々あり、原作の権利が大事だと痛感して、なろうに投稿する今に至ります)
さて、長くなりましたが、この記事ではラッコが考える「良いセリフ、および会話を書くテクニック」について、色々あるなかから
①かけ合いについての基本的な考え方
②基本的なテクニックのひとつ「擬人化」
に絞って書いていきたいと思います。
※なお、「なにが良いセリフか、なにが面白いセリフか」には色々な考え方、感じ方があると思います。異論反論もあって当然です。その上で、今回は「心に染みるセリフ」とかではなく「笑えるセリフ」について、お送りします。
①かけ合いについての基本的な考え方
良いセリフについて考えたとき、よく言われる言葉があります。それは「説明セリフはダメ」というもの。
これはもちろん正しいです。正しいんですが、ある程度鍛錬を積んだ作者の皆さんなら、当たり前すぎてもはや学ぶことないですよね?
さて、では「会話」に視点を移したとき、どうなるか。会話というのは概念的に言うと「セリフが繋がった存在」になります。セリフが一個の珠なら、会話は数珠です。
で、改めてそう認識したうえで聞いてほしいんですが、ラッコ的には「説明セリフ」なんかより「英語の教科書に出てくる日本語のような会話」のほうが正直マズイんじゃないかと思ってるんですよね。そして、ここから抜け出すのって意外と簡単ではない。
むしろ、テレビで流れてるアニメとかでも普通にあります。中1の教科書ではないにせよ、高1くらいの洗練度だったり。
では、英語の教科書みたいな会話とはどういうものか? シンプルに言うとこんな感じです。
A「久しぶり、元気だった?」
B「久しぶり、元気だったよ」
少々極端ですが、この2行の段階ですでに会話としての面白さが消えています。なぜなら、これは会話ではなく確認だから。
A「これはペンですか?」
B「はい、ペンですよ」
と、構造としては似たようなものです。
また、そもそも前提として、登場人物はそれぞれ独立した人格を持った別の生き物です。別々のことを考えています。ゆえに、会話をしていても、考えていること、次に話したいことが一致しているとは限りません。むしろ、違ったときのほうが面白いんです。
ということで、変えていきます。(セリフが強調されやすいよう、台本に近い書き方にしてます)
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場所はスタバ。Bが椅子に座っており、入り口からAが来た状況。
A「久しぶり、元気だった?」
B「……これが元気に見える?」
A「え?」
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この時点で、すでにさっきより会話に動きが生まれていませんか?
Aをアホでうかつな人物、Bを神経質な人物として転がしてみます。
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Bが自分の下半身を指差す。すると、テーブルに隠れていた脚が見え、右脚はギブスをしていた。横をみると、壁には松葉杖が立てかけられていた。
A「ど、どしたの?」
B「先週、歩いてたらいきなり車が飛び出してきて」
A「それは災難だな……」
B「ほんとだよ。俺営業だし、移動多いから毎日辛すぎてさ」
A「そうなんだ……」
B「……」
気まずい空気。
A「……で、でも、なんていうか上半身は元気そうだね」
B「上半身は元気そうでって」
A「下半身は元気ない感じだけど、上はいつも通りだから」
B「そんなフォローある?」
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現実世界では不用意な発言をする人は嫌われますが、作品のなかではむしろ面白く写ります。
さらに失礼にしていきましょう。
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A「ごめん、フォローの方向性間違えた」
B「ほんとだよ。無理にポジティブに言う意味ないよね?」
A「…」
気まずい空気。
B「てか下半身が元気じゃないって、意味深な言い方よしてよ」
A「ごめん」
B「困るじゃないか、図星だから」
A「図星なんだ」
B「骨が折れたのは1週間前だけど、アレがアレのときに折れるようになってもう3年は経つからね」
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流れで書いた結果、最終的に下ネタに着地してしまいましたが、このように予想し得る返答からズラし、さらにそこから横に横にと広げていくことで、英語の教科書の和訳みたいな会話から脱することができるというわけです。
(また、上のはテキトーに書いてあるので、面白いかどうかはひとまず置いておいてください)
このような考え方のもと…
・質問にはすべて答えさせず、すぐに答えさせずに関係ないことを喋ってから、答えさせたほうがリズム感が生まれる
・相手のためと思ってとった行動・発言は裏目に出たほうが面白い
・キャラによってズレ方は変わるし、喋り相手のキャラにも左右される
などのテクニックをかけ合わせ、かけ合いを生み出していきます。
②基本的なテクニックのひとつ「擬人化」
かけ合いに関する基本的な考え方を紹介した次は、具体的なセリフのテクニックをひとつご紹介します。それは「擬人化」です。
擬人化は、人間ではないものを人間に例えること。そして、このレトリックを使って笑いを生み出すには、「よくある言い回し(前置き)と、想定される答えを裏切る返し」を意識します。
例えば名作ドラマ『結婚できない男』の第1話で、主人公の桑野信介(阿部寛)が不摂生とストレスから腹痛で搬送され、そこで早坂夏美(夏川結衣)とやり合うシーンがあります。お尻を出す大腸検査を嫌がり、桑野は一旦帰宅するんですが、その際、早坂先生は……
「私はあなたのポリープにまだ用があるんです」
と言うんです。「自分はあなたではなく、あなたの◯◯に用がある」というのは、よく聞く言い回しですよね。しかし、秀逸なのはこの後の桑野の返し。
「僕のポリープは用がないって言ってます」
と言うんです。普通だと「あんたには関係ないだろ!」的な面白くもない返しになると思うんですが、桑野はまるでポリープに意思があるように言う。
そこが面白さにつながり、なにより桑野信介というキャラがいきいき描かれていて、受け手はくすっと笑ってしまいます。
別の例を出しましょう。『ドクターX』の第5シーズン第4話にて、森本光(田中圭)が婚約者の命を救おうと、大門未知子(米倉涼子)に助手を頼むシーンがあります。
一度断った末、未知子はオペ室に来るのですが、執刀医の変更命令も「いたしません!」と受け入れず……。
周囲から見れば、まるで森本先生をスパルタで育てようとしているように見えた未知子の行動。しかし、実際は肝臓を再生させるために時間を取っていただけだと判明。すると、海老名先生(遠藤憲一)が……
「あいつが育てようとしたのは、森本じゃなくて肝臓……?」
とつぶやきます。部下と臓器を並列させたこのセリフも、演出方法は違えど、「擬人化」を上手に使ったセリフと言えます。
このように、①のような会話に関する概念を理解した上で、②のセリフのテクニックを組み合わせると、「珠でも面白く、数珠だともっと面白い」会話を作ることができると思います。
かけ合いが面白い作品を好きな方がどれくらいいるかはわかりませんし、ギャグよりもユーモア、ウィットと形容すべき笑いを好む割合もわかりませんが、少なくともラッコは大好きです。
セリフ、会話で悩んでいる作者の皆さんの手助けになれば幸いです。
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『隠れて声優やってます。〜クラスの無口な女子の正体が超人気アイドル声優だと気付いてしまった俺の末路〜』
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