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ギフト~学生異能捜査官~  作者: 雅楽なぎさ
第1章
4/4

第03話

「ああ……。ごめんなさい。無神経な事を言ってしまったみたいね。私、()()()()()()()()()()()()()()()()……。悪気はないのよ……。大丈夫かしら?」

秋真の様子に漸く気がついた白雪が慌てて声を掛ける。


 彼女の説明はイマイチ要領を得なかったが、悪意があって言ったことでは無かったらしい。様子を見る限り本当にただ自分の知っていることを伝えただけなのだろう。初対面の人間に、トラウマである事件をいきなり言い当てられて早鐘を打っていた心臓は、漸く落ち着きを取り戻してきた。あの光景を思い出して胸には不快感があったが、これは自分の問題であって彼女のせいではないだろう。


「大丈夫です……。こちらこそすいません。突然こんな……。それより、椎名先輩どうしてそこまで知ってるんです?」

 落ち着きを取り戻した秋真の一番の疑問はそこだった。確かに調べれば分かることではあるだろうが、白雪とは今日が初対面だ。となると新入生全員を調べたのかも知れないが、それにしては早すぎる。


 もしかして……これが椎名先輩のギフトか……?


 秋真の思考がそこに思い至ったとき、白雪はアッサリと答えを暴露した。


「色々考えてるみたいだけど多分ハズレよ?答えは単純。貴方がここに入学することも、ここに……捜査部に来たがっていることも人に聞いて知っていたというだけよ。神宮寺警部を知っているでしょう?彼、うちの監督というか……なんというか。警察との橋渡し役をやっているのよ。その関係で頻繁にここに出入りしているのよ」


 答えはなんとも簡単なことだった。神宮寺警部は確かに知っている。事件の後、自分にギフトがあることが分かって異能捜査官になることを決めた。その時に対応してくれたのが神宮寺警部だ。


「そうね……。まずは日番谷君に捜査部ついて詳しく話しておきましょうか。入部云々はその後にしましょう」

 そうして、白雪が語り始めたのは捜査部と異能捜査官制度について。


 異能捜査官制度とは犯罪事件の早期解決と、ギフトが犯罪に使われた場合に対応するために生まれた制度だ。18歳以上の異能持ち……ギフトを授かった者が希望をすれば試験を受けることができ、それをパスすればなることができる。だがここで早速問題が起こった。国内に住む異能持ちの人数が少なすぎたのだ。分母が小さければ分子も小さくなるのは当然だ。数少ない異能持ちの中で異能捜査官を希望するものは、極々僅かであった。頭を抱えた政府は、苦肉の策として異能捜査官の年齢制限を考えた。だが、これには当然強い反発があった。数少ない異能捜査官を、従来の捜査でも調べれば何れ犯人にたどり着く事件に使うわけにも行かない。となると早期解決が必要な凶悪犯罪を担当することになる。それを未成年に担当させて良いものか、と。そうして決まったのが未成年の異能捜査官の試験的運用。だが未成年を捜査官として働かせるという試験運用を大っぴらに行うわけにも行かず、これはまだ世間には公表されていない。そうした政治的理由もあって生まれたのが捜査部だ。通常の異能捜査官と同様に警察からの依頼を受けて捜査を行うが、表向きは国立高校の部活、ということらしい。当然、一部の関係者以外は知らされていない。


「さて……これで大体理解してもらえたと思うわ。だからこそ私は日番谷君。貴方に聞いておかなくちゃいけないことがあるわ」

 ここまで一気に語った白雪が、ふいに真面目な顔をしてこちらに向き直る。


「実はね、ここの入試は異能捜査官として受ける試験も兼ねていたの。つまり貴方は既にギフトを授かっているし、入試をパスして入学を果たしている。貴方が望むなら異能捜査官……まだ未成年だから捜査部としてだけれど、すぐに所属することができるわ。だからこそ改めて貴方に質問します」

 そこで一呼吸を置いて重々しい雰囲気で白雪は口を開いた。


「今の貴方には二つの道がある。ここで聞いたことは全て忘れて、普通の高校生として生きていくか、それとも望んで異能捜査官となって、見たくもない遺体や事件、犯人と向き合って生きるか。今ならまだ引き返せるわ。よく考えて頂戴。……貴方はどちらを選ぶかしら?」


彼女の言葉を聞いて冷静に考えてみる。全てを忘れて普通の高校生として生活して、普通に就職して普通に家庭を築く。確かに、それはなんて平穏で幸せそうな生活だろうか。だが……自分にはできそうもない。


「……確かに全て忘れて普通に生きていくのが賢いんだと思います。でも、俺にはできそうもありません。未だに頭にこびりついて離れないんです。……あの時の母の叫び声も……父の断末魔も……一面血で赤く染まった床も。何より、事件を起こした犯人が未だ捕まらずどこかにいるっていうのに、忘れることは俺には出来ません。俺は……捜査部への入部を希望します!」


 そうだ。俺の気持ちは変わらない。あの日、あの事件を堺にそんな平穏な日常はなくなった。俺の平穏な日常を壊した犯人を捕まえるまで……例え、それがどんな道でも俺は進んでやる……!


秋真の話を最後まで静かに聞き終えた白雪は一度、小さく溜め息を吐いてこう告げた。


「決意は硬そうね……。いいわ。貴方の入部を認めます。改めて言うわ。入学おめでとう、日番谷秋真くん。そしてようこそ捜査部へ。貴方を歓迎するわ」


 こうして、秋真は異能捜査官として捜査部に所属することが決まった。これから苦難の日々が始まるとも知らずに……

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