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嘆きの亡霊は引退したい 〜最弱ハンターは英雄の夢を見る〜【Web版】  作者: 槻影
第八部

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346/479

341 新たなる作戦④

コミック7巻、11/25に発売しました!

原作二部完結巻です。最近とはまた少し違う邪悪なシトリーがたっぷり詰まっておりますので、ぜひご確認ください。


店舗特典情報についてはストグリ速報に投稿しています。




/槻影




更新告知(作品の更新状況とか):

@ktsuki_novel(Twitter)

 作戦会議を一通り終え、《千変万化》が意気揚々と出ていく。

 アドラーは扉が閉じるのを確認し数分たった後、テーブルの上に置き去りにされた鎖をもう一度見て、ようやく口を開いた。


「………………『狗の鎖』…………? ……………………なぜだ?」


 室内にはまだ《千変万化》以外のメンバーは残っている。だが、アドラーの問いかけには誰も答える様子がない。

 作戦の立案を行ったシトリーを見るが、目を逸らされてしまう。


 テーブルの上に置かれた鎖はまるで生き物のように動き狗の形を作っていたが、アドラーが専門とする魔物ではなかった。


 宝具だ。アドラーでも知っているくらい有名な鎖型宝具――『生きる鎖(リビング・チェーン)』の一種。


 『狗の鎖(ドッグズ・チェーン)


 起動するとまるで生命を吹き込まれたかのように動き出し、対象を捕縛するという鎖の宝具である。


 狗の鎖がアドラーの方に頭(?)を向け、おすわりする。その仕草は確かに狗に似ていて少し可愛らしい。


 だが、生命を吹き込まれたかのようになどと言っても決してそれは命ではなかった。


 《千変万化》が智謀に秀でたハンターだという事は知っている。だが、数分間考えてはみたが、ここであの男が『狗の鎖』を使おうとする意味が全くわからなかった。


 宝具というのは基本的に融通が利かないものだ。『生きる鎖(リビング・チェーン)』もまた、生きているかのように振る舞うが細かい指示はできないはず……確かに『生きる鎖』をターゲットに遠視を行えばアクシデントが発生した時にもこちらの戦力は減らないが、それはつまり『生きる鎖』は戦力と呼ぶには心もとないという事を示している。


 そもそも『狗の鎖(ドッグズ・チェーン)』の本来の機能は対象の捕縛である。それを偵察に使うなど、役割を果たせるかもまず怪しいものだ。

 少なくとも、アドラーが《千変万化》の立場なら『生きる鎖』を使うなんて選択は取らないだろう。ただでさえ相手は現人鏡の効果を看破しているのだから。


 現人鏡が映し出した宝物殿の最奥。漆黒の祭壇の上に立ち込めていた黒い霧。

 アドラー達が見入る中、唐突に浮かび上がった巨大な瞳は、確かにアドラー達を捉えていた。偶然などという言葉では片付けられない程に、はっきりと。


 超越者。ただその戦闘能力の高さで恐れられた星喰百足とはジャンルが違う邪悪な神の片鱗がそこにはあった。


 そこで、アドラー同様、《千変万化》の決定に腑に落ちない表情をしていたウーノが目を瞬かせ、自信なさげに言う。


「アドラー様、もしかしたら…………宝具を使う必要が、あったのかもしれません。言うまでもなく《千変万化》には他にも多くの選択肢がありました。その中から『生きる鎖』が選ばれた」


「宝具を使う必要ってなんだよ?」


「そりゃ……私にも全てが理解できるわけではありませんが……幻影と宝具はもともと同じマナ・マテリアルから構成されています。もしかしたらあの神にとって宝具は敵ではないのかもしれないですよー」


「そんな話聞いたことないぜ? 根拠でもあるのか?」


「…………いえ。ですが、そうでも考えないと、『狗の鎖』を使う意味が全くわからないですよー」


 クイントの言葉に、ウーノが嫌そうな表情を作る。

 ウーノの推測は妥当だ。アドラーは《千変万化》に導手としての実力を求めて弟子入りした。それを知っているはずの《千変万化》が次の一手に、導手の能力とは関係ない宝具を選んだのならば相応の理由があって然るべきだ。


 もしかしたらの話だが、宝具を使うのが幻影を調伏するための手順の一つである可能性もある。


 《千変万化》はこの部屋にいる全員を凍りつかせた神の眼を見ても唯一人、態度を変えなかった。それはかの神に打ち勝つ手法を《千変万化》が持ち合わせている事を意味している。


 視線を感じ顔をあげる。アドラー達を見ていたのは、共に同じ部屋で《千変万化》の言葉を聞いていた仲間達だった。


 悪名高い《嘆きの亡霊》に、見目麗しい精霊人のパーティ。一度交戦してその実力は知っている。いや――そうでなくとも、一流のハンターというのはその立ち振舞から察せるものだ。


 アドラー達を入れれば戦力は十分だ。正面から神を倒せるかはともかくとして、シトリーが説明した作戦を実行するくらいならできるだろう。

 仮にも元敵の目の前だ。情けない姿は見せられない。唇を舐め、目を細めて言う。


「ふん……面白くなってきたね。あんたらのリーダーの腕前、見せてもらうよ……」


「貴方達は……クライさんの事を何も…………わかっていません」


「……なんだって?」


 その声に込められた感情に、思わず目を見張った。


 興奮と畏れ。そして――強い意志。


 その目はリーダーの行動を全く疑っていなかった。いや、疑念は混じっているが、その根底には《千変万化》への信頼があった。

 シトリーが両手を合わせ、笑みを浮かべて言う。


「クライさんの行動に間違いはない。だから、私達はアドラーさん達の事も、受け入れます。クライさんの考えを想像するのは素人には不可能――今は、やるべき事をしましょう。それでは準備もあるので、私達もこれで――」


「…………まだ、お前たちは、ますたぁの恐ろしさを知らない……」


「ッ!?」


 部屋を出ていくその直前、最後尾にいた黒髪をリボンで結った少女が人差し指をつきつけ、まるで脅すように言ってくる。

 だが、その表情はこの場にいる誰よりも死にそうだった。









§ § §








 宝物殿は未知の世界だ。その攻略難易度は基本的にマナ・マテリアル濃度に比例して上がる事が知られているのだが、一定以上のレベルになると入念な準備や調査なしで挑むのは難しくなってくる。


 宝物殿の攻略は時にパズルにも例えられる。超高レベルの宝物殿には決まった手順を踏まなければ攻略できないものもある。

 トレジャーハンターは少しずつ攻略する宝物殿のレベルを上げていくことでそういった戦闘外のスキルも磨いていくのだ。


 そして、とりあえずぶん殴ればいいと思っている《嘆きの亡霊》のメンバーの中ではシトリー・スマートが特にその手のスキルに長けていた。

 【源神殿】は例外的な宝物殿と呼べるだろうが、きっと今回の経験は次以降の冒険でも役に立つ事だろう。


「これでよし、と…………後はよろしく頼んだよ。じゃー僕はシトリー達の方を手伝うから――」


「ちょ、待っ――クライちゃーん!?」


 シトリーの作戦の発表から一日。さくっとリィズ達のところで狗の鎖を発動し、制止を振り切ってシトリーグループの方に向かう。


 シトリーはユグドラの一画に作られた作業場でルシアやセレンと共に準備を行っていた。

 屋根のみが設置された広々としたスペースはもともと魔術の研究を行う場所だったらしい。


 今回のシトリーの作戦ではメンバーは二手に分かれる。即ち、地脈の調査や【源神殿】の状況調査を担当するリィズグループと、【源神殿】を弱らせるために必要な道具の製造・設置を担当するシトリーグループだ。

 僕が参加するのは当然危険が少なそうなシトリーグループである。リィズの方もとりあえず狗の鎖を使うので危険性は低そうだが、《千鬼夜行》の人達と同じ空間にいたくない。


「ユグドラで魔術の触媒として保管されていた宝石です。質のいいものはすでに使ってしまいましたが――」


「いえ……十分です! 精霊人の持つ宝石は力が強いと聞きましたが――ルシアちゃん、見て!」


 セレンから手渡された色とりどりの宝石を見て、シトリーが歓声をあげる。

 指名されたルシアは冷めた目で宝石を確認し、ため息をついた。


「ただの宝石じゃありませんからね。精霊の力が蓄積し生成される精霊石は魔術触媒に最適ですから…………それよりも、シト。この宝石を一体何に――あ、兄さ…………リーダー」


「やぁ、ルシア、シトリー。準備は順調?」


 困難な状況だ。せめて努めて明るい声をかけながら部屋に入る。リィズ達の方は《千鬼夜行》のせいで空気がぴりぴりしていたが、こちらはいつも通りだ。


 世界で最も大きな樹とも言われる世界樹。そこに集約する地脈は流れ込む膨大なマナ・マテリアルを証明するかのように太く、必要となるシトリー考案のマナ・マテリアル攪拌装置もかなり巨大なものになると聞いていた。

 これから作るという話だったが、見たところ材料のようなものは見当たらない。


 シトリーは相変わらず花開くような笑顔で僕を迎え入れてくれる。


「クライさん、おはようございます! お姉ちゃん達の方は大丈夫でした?」


「うん、まあ……ぴりぴりしていたけどうまくやると思うよ」


 見知らぬパーティや仲の悪いパーティ同士で任務を行う時に気をつけねばならない行為に現地行動中の裏切りというものがある。

 戦闘中に背後から撃たれたり、魔物を押し付けられたりといった話はこの業界ではありがちだ。ましてや今回は組んでいる相手が賊だから信用も何もない。


 だが、今回は偵察役を狗の鎖に任せるので、そういった問題も発生しない。最初に狗の鎖の派遣を決めた時にそこまで考慮していたわけではないが、今日の僕は冴えてる?


「それにしたってシルバーに偵察を任せるだなんて、いつもいつもおかしな事を……あの子、そこまで賢くありませんよ?」


 『狗の鎖』を躾けた張本人であるルシアがちょっと不服そうに眉を寄せて言う。

 ちなみにシルバーというのはルシアが狗の鎖につけた名前だ。銀色だかららしい。単純……。


「あはは……もちろん知っているよ。でもきっと大丈夫さ。ルシアが仕込んでくれたんだから」


「……その私に、うまくいく自信がないんですが」


 『生きる鎖』シリーズは有名だが、芸を仕込める事を知る者は多くない。


 ルシアが手塩にかけて躾けてくれたシルバーは『狗の鎖』の中でもかなり賢い方だ。世界樹の周りをぐるりと回るくらいはできるはず――身体も小さくて目立たないし、そこそこの速度で走れるので、今回の任務に必要な性能は最低限持っていると言えるだろう。


 朝、立ち寄った時にアドラー達がこちらに向けてきていた疑念の眼差しを思い返しても、僕の思惑は成功したように思える。

 こうして彼らの期待を裏切り続ければ遠くない内に彼らは自ら破門を申し出てくるはずだ。


「そんな事より、まずはこっちだよ。装置は作れそう?」


「はい! 唯一のネックだった触媒も手に入りました。これほど質のいい石なら大きな装置も作れます。全てクライさんのおかげです!」


「いや、僕は何もやって…………まあいいや。装置って何で作るの? 僕に手伝える事はある? 大したことはできないけど」


 シトリーの過剰評価はいつもの事だ。軽く流して、一応確認する。

 僕には知識もスキルも経験もないが、雑用くらいはできるだろう。


 僕の問いに対し、シトリーは昨日見せた少し不安げな表情が嘘のような笑みで元気よく言う。


「はい。大丈夫です! 何も問題が起きないうちは私がやってみるのでクライさんは見ていてください! いつまでも頼ってばかりじゃないんですよ?」


「……ほどほどにね?」


 何か問題が起こった時に僕に押しつけるつもりなんだろうか……。


 現実逃避でただただ笑みを浮かべる僕に、シトリーが説明してくれる。


「装置の製造は繊細な作業です。ですが幸い、この装置はアカシャゴーレムなどと違って、材料さえあれば魔導師数人で作れるように設計されています。製造の容易さも重要な要素ですから」


「……に……兄さん、シトの事ちゃんと見張ってください」


 ルシアが動揺の余り兄さん呼びになっていた。

 確かに、概要を聞く限りかなり危険な装置だ。僕はシトリーが違法な事なんてやらないと信じているが、錬金術師は割と倫理が希薄な事が多いからなあ……。

 今は有事なのでよしという事にしよう。通報する人もいないし……。


 ルシアの言葉に、シトリーが目を丸くして不思議そうに言う。


「何言ってるんですか……作るのはルシアちゃんです」


「……は、はぁ? なんで私が――」


「だって私じゃ魔力量が足りませんし…………大丈夫。装置を作るための術式は私が知っていますし、大きさなどのパラメータの変更は私でもできます。何の問題もありません」


「…………」


 ルシアがとても嫌そうにシトリーを見るが、シトリーの笑顔は崩れない。二人とも本当に仲がいいなぁ……セレンが完全に蚊帳の外になっている。


「材料は私が持ってきた物を除けば、魔術の触媒として使用する宝石と――硝子だけです。そして魔術の触媒になる宝石は幸い、セレンさんから頂いたもので十分でしょう。後は装置の本体を成す大量の硝子さえあれば――」


 大量の硝子…………硝子?

 ユグドラに硝子なんて……ある? 僕が見た限りユグドラの窓に硝子は使われていない。そもそもユグドラは余り工業が発達していないようだし……。


 目を瞬かせる僕の思考を読んだかのように、セレンが眉を顰め、困惑したような表情で言う。


「硝子……硝子、ですか。残念ながら……ユグドラに、硝子はほとんど使用されていません。少量ならありますが――」


 そううまくはいかない、か。どれくらい必要かにもよるけど、残念ながら今回いつも以上に色々持ってきた僕も硝子は持ってきていない。


 だが、シトリーはそのセリフを聞いて、何故か僕を見て我が意を得たりとばかりに言った。


「大丈夫、硝子には当てがあります。ね? クライさん」


 …………え?





§




 命の気配のしない無人の町。その中心部に奔る大通りのど真ん中、轟々と燃え盛る焚き火の前に立ち、シトリーが大声を張り上げ、指示を出す。


「割ってもいいので、量を集めてください!」


「きるきる……」


 どたどたと足音を立て、みみっくんの体内の町をきるきる君が駆ける。目標はそこかしこに立ち並ぶ建物だ。

 いつの時代に呑み込まれたものなのかは不明だが、それぞれの建物の窓には窓硝子がはめ込まれている。


 なるほどなぁ……。


 僕は感心していいやら呆れていいやら微妙な気分で作業を見ていた。

 みみっくんの体内に存在するこの町は広大だ。それぞれの建物の窓硝子を回収すれば、必要量とやらはすぐに集まるだろう。


 だけど、ちょっと容赦なさすぎじゃない? けっこう風情のある町なのに……。


「ふふふ……実は最初に立ち入った時から、目をつけていたんです! 何かに使えるんじゃないかと。マナ・マテリアル攪拌装置を大量に作る必要が出てきた時、すぐにピンときました! どうですか?」


「うんうん、そうだね」


 そんな前からこの町の建物を解体する事を考えていたのか……僕も何度か来たけど、全然気づかなかったよ。いつか更地にされそうだなあ。

 一応リィズが今度探検したいって言っていたんだけど――。


 ちなみに、みみっくんに硝子を出してと言ってみたがさすがに無理だった。壊して回収するしかない。

 絶え間なく聞こえる破砕音に、僕は額に手を当て深々とため息をついた。

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《始まりの足跡》宣伝課@GCノベルズ『嘆きの亡霊は引退したい』公式
※エヴァさんが広報してくれています!

嘆きの亡霊は引退したい、アニメ公式サイト

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短編集1、2025/03/31、発売しました!
店舗特典や初版特典がまとめられている他巻末に書き下ろしSSがついておりますので、
よろしくお願いします!
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最新刊13巻、2025/09/30、発売です!
書籍版は加筆修正の他、巻末に書き下ろしSSがついておりますので、
よろしくお願いします!
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漫画版11巻、2025/04/25発売です! 
オークション編終盤です、アニメと合わせてぜひぜひご確認ください!
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youtubeチャンネル、はじめました。ゲームをやったり小説の話をしたりコメント返信したりしています。
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― 新着の感想 ―
シトリーの考えで何か悪いことが起きそうな予感。
さすがますたぁ 意味がないのに無駄がない
[気になる点] 感想減ったなぁ
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