屋根裏で一色触発
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恨むべきニンゲン、先ほど殺そうとした宿敵が今まさにアタシの家の屋根裏で堂々とくつろいでいた。
アタシは体からあふれ出そうになる殺意を押し殺し、ファナに問いかける。
「ファナ、どういうこと? どうしてニンゲンがここにいるの……?」
「ええ、協力してもらう以上貴女には説明しなければならないわね。」
「協力するってどういう────」
「してくれないの!?」
「えっ、あーいや……」
どうしようか、ここでファナに対して、アタシはニンゲンが嫌いだから家から追い出せと言っても、彼女は素直に従ってはくれないだろう。
むしろアタシの事を嫌ってしまうかも知れない。
ここは慎重に、成り行きでこのニンゲンを追い出す算段を考えなければ……
アタシが言葉を濁していると、成り行きを見ていたニンゲンが割って入ってきた。
「ファナ、君の親友は今初対面の人間が自分の家の屋根裏にいてとても動揺しているし、何を協力していいかも分からないはずだ。
まずはオレたちに自己紹介をさせてくれないか?」
「そ、そうよね。流石オクトさん……」
なんだかニンゲンは助け船を出したつもりでいるらしいが、アタシはそんなこと知ったこっちゃない。
と言うかそもそもエルフの館に単身乗り込むとかどういう神経をしているのだろう。
やはりニンゲンの考えることは分からない。
アタシは隙あらばお前の喉元をかき切る準備も出来ているんだぞ────
「まずはオレからだな。オレはオクト・セルニパス、一応この国の第二王子だ。
10人兄弟の8番目で姉さんが6人いるんだが、まぁその人達が厄介な人たちでな……
昔から女の子は苦手だったんだ。」
「まぁ、じゃあアタシも?」
「いいや、ファナは別だよ。何度も言ってるじゃないか……」
「何度も聞きたいんですよ……」
そして2人は熱いハグを交わす。
アタシはその場で嘔吐、は何とか我慢をしてニンゲンを睨みつけた。
自分を殺そうとした相手の前で親友とイチャつくなんてどういう神経してるんだ────
殺気に気づいたのがニンゲンはハグを止めてこちらに向き直った。
「き、君とも仲良く出来たらいいと思っているんだが────」
「ナニヲイッテルンデスカアタシハスゴクユウコウテキデス。」
というかこいつが王子だったのか?
ファナをしつこく付け狙って、挙げ句の果てにこの神聖なシャロット家に足を踏み入れるなんて、礼儀知らずにもほどがある。
きっと王子は自称で、本当はイタい奴なのか。
だとしたらファナに近付くのはなおさら許せない。
アタシはさらにニンゲンを睨みつける。
「あ、あーゴホン。じゃあ次は君の名前を聞かせてくれるかい?」
「え、あー、アタシの名前はシャロット────」
アタシは自己紹介をしながらニンゲンの狡猾さに唇を噛んでいた。
先ほどこのニンゲンと対決したときは偽名を使ったが、今度はファナの前で変装もしていない状態だ、偽名は使えない。
術士にとって自分の名が相手に知られるというのは死を意味するとも聞いたことがあるし、もしコイツが魔術を使えるのならファナとアタシ、二つの命の駒を手に入れたことになる。
モゴモゴと挨拶を済ませるとさらにさらにニンゲンを睨みつけた。
もはやお分かりだろうが、アタシはニンゲンが何をしても気に入らないし、睨みつける────
「あ、そうだ。で、ファナ? どうして人間がこの家にいるの?」
「あぁ、そうね。それを説明しなくっちゃ。」
どうやらアタシが協力するかどうかという話題は自己紹介を挟むことで忘れてしまったらしい。
それを利用したあたしが言うのも何だが、ファナにはもうちょっとその辺をしっかりしてほしい。
こういう天然さがなければこんな風にニンゲンに騙されることもなかったのに────
「えっとね、えっとね! なんかオクトさんと会ってたらバッて山賊が来てそれをオクトさんがバッて倒して、そしたら女の人も来たんだけどその人もバッて倒して! あ、女の人って言うのはエルフの女の人ね。で、私を逃がしてくれたんだけど戻ったらオクトさんがいて危ないから家に連れてきたの!」
「なるほど、分からない。」
「えぇ!?」
そうだ、ファナは壊滅的に物事の説明が下手だった。歴史や学問なんかの説明だとまた別なのだけれど、実際に見たものを順序立てて説明することで彼女より下手な人物をアタシは見たことがない。
「あ、あの……オレから説明してもいいか?」
アタシがファナの説明の理解に苦しんでいると、ニンゲンが横槍を入れてきた。
「え、それはイヤ───」
「えぇ、ぜひお願いするわ!!」
だからファナはこのニンゲンを信用しすぎなんだって!
しかしこのまま話の概要が理解できない分にはこのニンゲンをこの家から追い出す算段も立てられないし。うーん、どうしよう。
「えっと、喋ってもいいのかな……?」
「どうぞどうぞ、ダメなんて言ってないじゃん。」
「いや、さっき確かに────」
「ん? アタシ何か言った?」
ファナにバレないように睨みつけると、ニンゲンはアタシの圧に押されたのか説明を始めた。
「えっと、どこから説明しようか。そうだ、オレが橋から落ちそうになったところから────」
「まって、私の親友はそこまでのいきさつを知らないんじゃなくて?」
「あ、大丈夫! 私もそこはファナの説明でよく分かったから!」
「本当!?」
まぁ、実際見たなんて言えないし。
ファナも普段は中々話を理解してもらえないのに私に話が通じたと思って心なしかうれしそうだし。
そういうことにしておこう。
「崖から落ちそうになって吊り橋に掴まり、何とか崖の上に上がったオレは、来た側ではなく森側の岸に登ったことに気付いたんだ。
そこでしばらく森をさまよっていると、ファナが戻ってきていたんだよ。」
「そうなの! オクトさんが心配になってしまって……!」
「それで彼女に吊り橋が切れて帰る道を失ってしまったことを伝えると、ここにかくまってくれたというわけさ。」
「なるほどね……」
じゃあこの家にコイツが入れたのはファナが招き入れたということか。なおさら許せんな。
「ていうか自分がエルフだって教えてしまったの!? ダメって言ったじゃん!!」
「ご、ごめんなさい────」
「それにファナ? 彼をここに長居させるのは、匿うことにはならないよ?」
「え、それはどういうことだい?」
「あ、オクトさん、それは説明が遅れてしまってごめんなさい。ここの家の主、シャロット婦人は、私や彼女と違ってニンゲンがとても苦手なの。
昔私の両親がニンゲンに殺されてから彼らとの交流をすっぱり絶ってしまって。
普段は優しいけれど怒るととても怖い人だし、もし見つかったら大変よ……」
「へ、へぇ~、そうなのか……」
なんだ、その「コイツもニンゲン嫌いだろう」と「その親にしてこの子有りだな」の中間みたいな顔は。
「確かにシャロット婦人にバレたら大事よね。
そういえばお屋敷の森とは反対の方向にしばらく行くと崖があって、そこにある洞窟は人間の街の近くに通じていると聞いたことがあるわ。
そこまで行ければオクトさんもなんとか帰れるんじゃないかしら?」
「なるほど、じゃあその場所を教えてくれ。
君たちに迷惑をかけるわけにはいかないから今すぐにでもそこから戻らせてもらうよ。」
「まって! そんなこと言わないで! もう少しお話ししましょうよ! 朝まで!
それに夜の間は道に迷うかも知れないし、屋根裏のここなら婦人も気付かないわ、安全よ!」
「え、うーん。どうかな……」
ニンゲンはモゴモゴとつぶやき始めた。まぁ確かにここにアタシがいる以上、安全ではないわな。
「お願い……」
「う、分かったよ……」
「よしそうと決まれば明日の昼間こっそり3人でお屋敷を抜け出して、オクトさんを案内しましょう!」
「え!? アタシも?」
「手伝ってくれないの?」
「て、手伝うよ。もちろん!」
ファナが行くというなら、ニンゲンと二人きりにするわけにも行かないし仕方がないか。
それにニンゲンを追い払えたのをしっかりと確認しないことにはまた何が起こるか分からないし……
「いや、待ってくれ。君達にこれ以上の迷惑はかけれない!
オレは1人でも大丈夫だから!」
「迷惑じゃないわ! 貴方と出会ったときから思っていたのだけれど、オクトさんと私の親友はとても気が合いそうだと思ったの!
私の大好きな人同士、仲良くなってもらうのってとても素敵なことじゃない!」
「そ、そうなのかなぁ?」
あのー、ファナさん論点ズレてませんか?
それはニンゲンも気付いたようで、こちらを不安げに見てきた。
なんだその「気が合う? 何かの間違いだろう?」と「ここから早く帰りたい。」の中間みたいな顔は。
「私のためだと思って、ね? お願いオクトさん。」
「う、分かったよ……」
「ありがとう! そうと決まれば今から準備するわね!
楽しいおしゃべりにはおいしい紅茶とお茶菓子が必要だもの! 今取ってくるわ!」
そう言うと、ファナは梯子を使って下りていってしまった。厨房に向かったのだろうか。
しばらくニンゲンとアタシの宿敵同士で沈黙が続いたが、ニンゲンが呟いた。
「よ、良かったよ君が無事で。さっき崖から落ちたとき心配していたんだ。
まさか愛する人の親友が死んでしまっただなんて彼女が悲しむ……イッタ!」
しゃべりかけてきたニンゲンにアタシは渾身の
膝蹴りを喰らわした。
「な、何するんだ!」
「アタシもこの家で血は流したくない。
分かったらこれ以上喋るな……」
「ハイ……」
ニンゲンとアタシの宿敵同士で沈黙はさらに続いた。
やっぱりファナの言うことでもコイツとは合わないと思う。
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シャルロット家令嬢、今回の使用金額
なし
0
現在の合計使用金額
384億5000万800+0=384億5000万800