オーク達の本職
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「うぐぐ……ここは……?」
「おい野郎ども! 依頼者の姉貴が目を覚ましたぞ!」
「本当でヤンスか!?」「よかったっス!!」
目を開けると、オーク達に囲まれていた。
あれ? 何があったのだろうかと、よーく思い出してみる。
確か吊り橋の縄を切ったアタシは、オークやニンゲン諸共谷底に真っ逆さま……になったのだろうか?
では何で自分は生きているのだろう? 誇り高きエルフの血がアタシを守ったとか?
「いや、それもあると思いますが、アネキは落ちるときオレを下敷きにしたんで何とか生きてたと思うんですよ。」
「なるほど。」
オークのリーダーは話してみると、山賊のくせにイヤに紳士的だった。
確かに言われてみると彼の腹には、大きなくぼみが出来ていた。しかしそれでこのオークが普通に生きているってどういうことだ?
でも同じように崖から落ちたはずの他のオーク達もピンピンしているところを見ると、オークという種族はアタシが思っている以上に頑丈なのだろうか。こんなことならもっとこき使っておけば良かった。
「あっ、そうだニンゲン!! ニンゲンも一緒に落ちてきたんだよね!?
だったらアタシは奴の死体を確認するまで帰れない、まだ生きてたならこの手でとどめを刺さないと!!」
「あー、姉貴? 盛り上がっているところ悪いんですが、ニンゲンはここには落ちてきていませんよ……?」
「はぁ?」
何を言っているんだこのオーク。崖から落ちたショックで頭が狂ったのだろうか。
確かに失敗したものの、ニンゲンの魔の手からファナを救えて気分の良いアタシは、約束通り、イヤそれ以上の報酬をこいつらに払おうと思っていたのに。
こいつが頭を打っておかしくなったのなら、それは病院代に全て消えてしまうかもしれないな。
「いや、そうじゃなくて本当に落ちてきていないんですよ。
多分崖から落ちる直前に切れた縄にぶら下がって、そのまま上まで上がっていったんじゃないでしょうか?」
「はぁ!? ふざけんなよ!!」
「イタい! イタいですよ!!」
アタシはオークのリーダーの膝を蹴り上げる。
あのニンゲンを取り逃したと言うことはつまりまたファナに危険が及んでいるかもしれないと言うこと。奴がファナを追いかけて彼女を殺してしまうかもしれない、イヤそうなるに決まっている!!
「ふざけんな! ふざけんな!」
「うぐっ、イダッ!!」
「ちょっと、貴女リーダーを蹴らないでちょうだい! 切れたロープに掴まったとしてもあのニンゲンが森側に渡ったとは限らないでしょう!?」
そこにオネエ口調のオークが止めに入る。どうやらリーダーではないけれど皆のまとめ役がこのオークという感じだった。
「それにそんな危険があるなら、なおさらこんなことをしている場合じゃないじゃない。
貴女は私達と崖を登って早くファナ女史を助けに行かなきゃならない。違う!?」
違わなかった。オネエオークに諭されて我に返り、アタシはいったんボスオークを蹴るのを止めた。
「そ、そうだね……ごめん、冷静さを欠いてしまって……」
「とにかく一刻を争うかもしれないんですよね。とりあえず崖の上に上がりましょう。」
近くに落ちていた「オリオン」を拾うと、折れているどころか傷一つついていなかった。
¥378億5000万800(送料込み)の剣がまだ使えそうなことを確認すると、アタシと5体のオークは暗い谷間を歩き始める。
足場は悪いがエルフもオークも下等なニンゲンとは違い夜目が利くので困ることはない。
「さっきはごめん、アタシどうも昔からファナやニンゲンが関わると周りが見えなくなってしまうみたいで……」
「大丈夫っスよ、ちょっと怖かったけどみんな貴女に雇われたことは後悔してませんから。」
思えば崖から落としたのもアタシなのに、こうして協力し続けてくれるオーク達は、案外山賊は山賊でもいい奴らなのかもしれない。
「それに最近山賊の仕事が少なかったから、久しぶりにみんなで活動できて楽しかったわ。」
「生活が大変なの……?」
「大変てほどじゃないけどこの仕事だけじゃ生きていけないわね。
今はみんな本職があって、あくまで「真冬の子リスと遊ぼう山賊団」は副職ってとこかしら。」
なんでも貧乏だった5体が集まり山賊を始めたものの、時代の流れとともに人々の防犯意識や世間の風潮から、徐々に活動がしにくくなっていたという。
世の中が荒れているから悪いことを始めたのに、世の中が良くなったことで逆に生きにくくなったとは。なんだかお嬢様のアタシからしてもしょっぱい話である。
「ちなみにあんたたち普段はどんな仕事しているの?」
「オレは保育士っス。」「私は花屋よ。」「ミーはパン屋さんでヤンス。」「……モデルやってる。」「ちなみにオレは看護師ですね。」
「へぇ~……」
こうして聞くとオークの業界もバリエーションに富んだ職種が存在するんだと思う。
まぁ、聞くところによるとオークが固まって街を作っているところや、許せないことだがニンゲンとともに住むオークも存在するそうなので、社会を形成する上では必要なのだろう。
医療に、飲食関係、教育、物資売買に娯楽関係か……ん? この組み合わせって……
「─────なんであんた達は揃いも揃って就いた本職が女の子がなりたい職業ランキングベスト5みたいなチョイスなんだよ!!」
「はっ!?」「確かに!!」
なんだ、あんた達も気づいてなかったのか。
なんでこんなガタイのいいメンバーがみんなして女の子の夢を叶えてるんだよ。
まぁ、そんなこと私の知ったこっちゃないが……
「ちょ、待ってくださいよ! 確かベスト5に入ってるのは保育士じゃなく教師っス!! 保育士は6位っス!!」
「知るかよ。」
それは本当に知ったこっちゃない。
そんな会話をしているうちに崖を登れそうなところを見つけ、あたし達は森に戻ってくることが出来た。
「姉貴、これから朝まで森を捜索して、逃げたニンゲンを探せばいいんスか?」
「いや、思ったのだけれど一回お屋敷に帰ってファナが帰っているのかを確認するのが最優先だと思う。」
「それもそうね……」
これもオーク達と話しているうちに冷静になった結果思いついた案だ。
冷静さを失ったアタシ一人なら夜通し森を駆け回ってボロボロになっていたかもしれない。
夜の森をさらに歩き屋敷の近くまで帰ってみると、ファナの部屋には明かりが灯っていた。
「あ、ファナの姿も見える! よかった!」
「無事みたいか……?」
「うん! あ、こっち見た!! みんな隠れて!!」
「おおぉぉ……」
慌ててオーク達をギュウギュウと木の陰に押し込む。
私がユグドラシルだとバレたら大変だ。
ファナが窓を開けてこちらを見るまでに、何とかオーク達を隠すことが出来た。
ちなみに変装時のだっさい仮面とだっさいマントはオーク達の勧めで谷底に捨ててきた。あいつら結構やるじゃん。
「お帰りなさい! 今誰かと話してた?」
「いや? 気のせいじゃないの?」
「うーん、何か聞こえたような……ていうか、こんな夜遅くにどこ行ってたの?」
「いや、ちょっとファナの帰りが遅くて心配になって探しに出てたんだよ。ニンゲンに何かされなかった?」
「何もされなかったわよ。あの人は相変わらず素敵だったわ! 貴女は心配しすぎなんだって。」
「ハハハ、ごめんね。今そっちに上がるから待っててね。」
「あ、そうだ。お話ししたいことがあるから屋根裏に来てくれるかしら?」
「屋根裏……? いいけど……」
「早く来てね。」
そういうとファナは窓を閉めてしまった。
のろけ話を聞かされてちょっと吐きそうになったが、ファナが無事だった安心感で何とかこらえることが出来た。
ところで話って何だろう?
「ファナの譲さんが見つかって良かったですね。じゃあオレらはこの辺りで……」
「ちょっと待ちなさい。」
アタシが呼び止めると、オーク達は震え始めた。そんなにアタシが怖いか。
気分を悪くしながらも、鞄から取り出した布の袋をオークのリーダーに渡す。
「忘れ物だよ、これあんた達がほしかった物でしょう。」
「な、何ですか……ってこれ、超大金じゃないですか!! オレたち依頼を成功できていないのにいいんですか!?」
「いいんだよ、あんた達はよくやってくれたから。」
これはアタシの本心だった。彼らは彼らなりにうまくやってくれたし、そのおかげでニンゲンを追い払うことができ、安全にファナを家まで送り届けることが出来たのだ。
後は少しだけ、彼らを危険にさらしてしまったせめてもの罪滅ぼしにかさ増しをして……
「あ、ありがとうございます! じゃあ姉貴、お気をつけて!」
「うん、家ここだけどね。」
アタシはオーク達と別れを済ませるとママや従者やメイドに見つからないように、そーっと家の玄関を空け屋根裏に向かった。
屋根裏の梯子階段を登っていると、ファナが半分身を乗り出してこちらに手招きをしていた。
「しーっ、静かに登ってきて!」
「分かってるよ。で、用って何なの?」
「実はね、貴女に紹介したい人がいるの。」
「……?」
アタシが梯子階段を登り切ると、ファナともう一人屋根裏で私を待ち構えている人物がいた。
「この人よ。」
「よ、よぉ……」
そしてアタシはそいつの顔を見るなり驚愕することになる。
そんな、そんな事って……どうして! どうしてお前がここに!!
「お前は……」
「紹介するわね! 私を救ってくれた、フィアンセのオクト・セルニパスさんよ!!」
そこには先ほど崖から落とし殺そうとしたはずの憎き種族の憎き宿敵、「ニンゲン」がシャロット家の屋敷の屋根裏で親友にかくまわれていた……!!
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シャルロット家令嬢、今回の使用金額
オークへの報酬
(1億+かさ増し分2千万)×5=6億
現在の合計使用金額
378億5000万800+6億=384億5000万800