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真冬の子リスと遊ぼう山賊団

 お食事中の方は避けてください。

 次の日の夜はすぐにやってきた。


 アタシは太陽のように明るい満月に照らされながら、ファナとニンゲンが密会するという森外れの吊り橋を草むらの影からそっとのぞいていた。

 

 昨日から準備をした作戦、うまくいけばいいのだが……


 しばらく息を潜めていると、吊り橋の向こうから人影が現れた。

 見間違えるはずもない、憎い憎いニンゲンの男である。


 ファナの言う通り黒髪にガッチリとした筋肉、約束のニンゲンで間違いないだろう。

 しかしやはり所詮は蛮族、とても凶悪そうな顔をしている。


 やはりアタシの推測は正しかった、親友とニンゲンの愛とやらをこのまま成就させるわけにはいかない……

 ファナは森で迷ってしまったショックで少しだけ気が動転していただけなのに、それにつけ込むなんてやはりニンゲンは最低最悪だ。

 今助けるからね! ファナ!!


 そんなことを考えていると吊り橋の手前側にファナが現れた。


 よかった、とりあえずアタシの必死の説得で耳当てはしてきてくれている。

 ここでファナがエルフだとばれてしまえば、計画は全て水の泡である。


「おぉ、良かった! 来てくれたのか!!」

「ええ、約束を破ってはいけないというのは私のお屋敷の主の口癖なの。

 それに主のいいつけでなくても貴方との約束は必ず果たすわ!」

「それはうれしいことを言ってくれるね……

 時に君はお屋敷に住んでいるのかい?

 初めて会ったときの立ち振る舞いからそうではないかとは思ってたんだ。」

「そうよ。お屋敷で一緒に住んでいる人とは血はつながっていないのだけれど……

 それでも私は誇りを持って二人が大切な家族と言えるわ!」

「そうかい、君は家族思いなんだね。

 とにかく君にまた会えて良かったよ……」

「私もよ、愛しの人……」


 そして二人は熱いハグを交わす。


 一方アタシはもはや卒倒寸前、死ぬほどショックの強い光景を見せられてしまった……


 オエ~! 気持ち悪っ!! オエ~っ、オエっ~っ!!

 ゲロゲロゲロゲロのオエ~っ!


 そもそもアタシにとって、人がいちゃいちゃする姿ほど見ていて気持ち悪い物はない。

 しかもその二人は親友とにっくきニンゲンのカップルである。


 多分今後アタシはどんなにグロテスクな物を見せられても、今ほど吐き気を催すことはないだろう。

 下手した今晩夢にでてきそう、てか多分でる……ゲロゲロ、オエ~っ……


 そんなこんなで足元に散らばった吐瀉物に土をかけながら(本当に吐いたよ)二人の動向を見守っていると、森の奥から大きな地鳴りが聞こえてきた。


「なんだなんだ!?」

「きゃっ、橋が揺れる!」

「しっかり捕まっているんだ!!」


 ファナに触れるな!! そう叫びたくなる気持ちを必死で押さえ、アタシは地鳴りが響いた方角を見る。

 そろそろだと思っていたよ……


「ようよう、そこの若いお二人さーん。 夜にいちゃつくのはいいが場所を考えてほしいねぇ~……」

「全くだ、クヘヘヘッ!」


「オ、オーク!? しかも5体も!! 一体何なんだ!!」

「一体何なんだぁ? それは言えねぇなぁ!

 ただオレたち5人はそこにいるお嬢さんをさらってくるよう、依頼主に頼まれたのさ!!」

「アニキ! 言えないとか言いつつ結構重要なことばらしちゃってるでヤンス!!」

「うるせぃ! とにかくオレたちはそのお嬢さんに用があるんだ、そいつさえ連れてきゃオレたちは一生遊んで暮らせる金が手に入る!

 手荒なまねはしねぇから兄ちゃんはとっとと失せな!!」


 あんな乱暴で金に目が眩んだ、人々を襲うことしか考えていないような野蛮なオーク、誰が雇ったのだろう。

 もちろんアタシだ。


 アタシの立てたこの「プランA」はこう。


 1,ここであのニンゲンがチビって逃げればファナはあいつに失望して二人の関係は大爆発! ざまあみろ!!


 2,もし逆らってもオーク達に谷底に落とされてニンゲンは死ぬ! ざまあみろ!!


 3,最悪オークが負けても飛び散る鮮血でファナはニンゲンが野蛮なことを知り失望! ファナにトラウマを植え付けるのは少し悪いけどざまあみろ!!


 4,オーク達にはくれぐれもファナが安全な場所に行くまで戦わないように言ってあるので、彼女が巻き込まれる心配もない!! ざまあみろ!!


 通称「ざまあみろ大作戦」は、まさに完全な計画。

 シャロット家長女は才色兼備の天才だとは、よく言ったものである!! アタシのことだけど。


「くっ、狙いはこの子というわけか……」

「わ、私怖いです……」

「大丈夫だ、オレの後ろに下がっていてくれ。」

「は、はい……!」


「兄ちゃんてめぇ、あくまでオレたち「真冬の子リスと遊ぼう山賊団」と戦うってぇのか! いい度胸じゃねぇか!!」

「語呂が悪い! 長い! しかも妙に可愛い!!」


「クハハハ、可愛いだけの団名じゃねぇよ。

 真冬に冬眠している子リスをわざわざ起こして無理矢理遊ばせるという狂気的な悪意がここにはこもってるんだぜ……」

「アニキがこの名前にしようと言ったときには流石にブルッちまったッス!」

「アニキはすげぇ悪いヤンス!!」

「わかりにくいし悪さのラインが微妙だわわ!!」


 なんかニンゲンとオークがコントを始めた。


 おい、チンタラやってねぇでさっさと仕事に取りかれよ!


「あ、しまった目的を忘れるところだった……!!

 おのれニンゲン、許さんぞ!!」

「えぇ、言いがかりじゃないか……」


 ボスが一声吠えると、オーク達は一斉にニンゲンに飛びかかる。

 ファナは吊り橋から離れているし、巻き込まれる心配もない。ニンゲン積んでやんのざまぁ!


「おっと危ない! どうやらお前達は本気でオレと戦うつもりらしいな……ならば仕方ない!!」


 ニンゲンはそうほざくと、腰につけていたナイフを出し、オーク達と戦い始めた。


「よっ、ほっ、やっ、とっ、そりゃっ!!」

「うぎゃ!」「ぐはっ!」「どはっ!」「がふっ!」「にゃん!」

「今変な声のやついなかったか?」

「や、やられたぁ……」


 実力差は圧倒的だった。オーク達は一瞬で全滅、5体とも吊り橋の上で無様に転がっていた。


 しかも……


 しかも誰一人として血を流さずに……


「ふっ、安心しろ峰打ちだ……」

「きゃっ! 我が愛しの人、カッコイイ!」


 いやまてまてまて、おかしいだろう!

 見間違いかとも思ったが、確かにニンゲンの手に握られているのは両刃のナイフだ、峰なんてどこにもない。


 しかも結局オークが中途半端にらられたことで、ニンゲンがファナにいいところを見せるきっかけを作ってしまった!

 これは最悪の結果だ……


「お嬢さん、もう大丈夫ですよ。」

「貴方の剣術、素晴らしかったわ……」


 そして二人は熱いハグを交わす。

 アタシはその場で嘔吐する。


 潤む視界でアタシは思う。

 ダメだ、こんなはずじゃなかったのに……

 アタシは親友に目を覚ましてほしいだけなのにどうして、どうしてこんな……


 いや、アタシには……


 そういえばアタシにはまだ最後の切り札があったのだった……!!


「お嬢さん、今日は変な奴らがここらをうろついているようだ。

 家まで送るから今日は終わりにしよう。」

「残念だわ、また貴方と会えなくなってしまうなんて……

 でも次に会う約束をいたしましょう。」

「そうだね、じゃあ次は……」

「まてえぇぇぇーーーーい!!」


 その大声でその場の全員が振り返る。


「い、依頼者の姉貴……!?」

「何!! じゃあまさか君たち「真夏にひまわりを咲かせよう探検隊」を依頼したのはあのだっさいエルフの女性だというのか!?」

「兄ちゃん……「真冬の子リスと遊ぼう山賊団」……だぜ、ガクリ……」


 そこに立っているだっさい紫のマントと、だっさい仮面をした、だっさいエルフの女性は誰だろう。

 不覚にもアタシだ。


 こうなったら仕方がない、「プランB」の「悪役令嬢のアタシが直接あの下等生物に制裁を加えてやる!大作戦」の執行である。

 「プランA」は失敗したが、シャロット家長女の作戦は「好き」を生じぬ二段構え!!


「オーッホッホ! そいつらオーク共がやられてしまっては、依頼者のアタシが直接手を下すしかないようね……!!」

「君、あの女性に見覚えは!?」

「いいえ、ないわ……襲われる理由さえさっぱり……」


 よっし!! ファナは鈍感だから絶対仮面で目元さえ隠せば正体はごまかせると思っていた。


 あとは巨大な戦力差、ニンゲンの剣術にどう挑むか。

 しかしここは才色兼備の天才お嬢様ことアタシ、思わずニヤリ。

 オークを無傷でダウンさせる相手にも、とっておきの秘策を考えていた……


ーーーーー


 シャルロット家令嬢、今回の使用金額


 オークへの誘拐依頼料

 1億×5=5億(失敗により無効)



 現在の合計使用金額

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