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30 その深奥にて目醒めるモノ






『……そんなことが。よくご無事でいらっしゃいました、ハイガ様』

「ああ、なんとかな。……だが、今回のことでは迷宮を舐めていたと実感した。正直あの特殊個体ユニークは、手のつけられなさだけだったら竜を上回っていたかもしれん」


 戦いから九時間が経過し、現在は真夜中である。死者なく全員が帰還し、過度の脳への負荷から意識を手放していたヒノキも無事であった。しかし当然のことながら肉体と精神ともに疲労が大きく、カルーアとヒノキは現在、一階で寝静まっている。

 そして屋敷の二階の突き当たりのある一室、すなわち魔術工房。そこでハイガは通信用の魔道具マギクラフトを通し、呪いの館のメイド人形と話をしていた。


 会話の内容はつい昨日討伐したばかりの特殊個体である。基本的に珍しい話に飢えているメイド人形たちが食いつき、話すようにせがまれたのだ。


『んー、でもなんか納得いかないっていいますか……決め手は竜血薬なんですよね? だったらそのハイガさんの仲間の……えーと、私らと同じメイド属性の子』

『ヒノキさんね、ツヴァイ。……ヒノキさんの攻撃を待たずに、直接相手に竜血薬をかければよかったのではないですか?』

『あー、それだドライ』

『二人とも! 今は私の時間だから割り込まないでって』

『いやいやアイン、納得してねーよ? ハイガさんと話していいのがアイン5に対して私ら1ってどう考えてもおかしいだろ』

『メ、メイド長権限を行使……』

『聞いたことのない権限ね。……というか、アインは独占欲が強すぎるのよ。束縛するだけだと相手は逃げていくのよ? だから冷却期間ということで、ここはアインもツヴァイもどこかに行ってくれないかしら。私がハイガさんとお話しするから』

『ドライは静かに毒があるよなー』

『ドライ、それはおかしいでしょう? やはりここは、メイド筆頭の私でないと……ですよね、ハイガ様?』


 ハイガはわちゃわちゃと話し合うメイド人形たちに苦笑しながら、疑問に答える。


「相手にそのまま竜血薬をぶつけただけじゃダメだ。……細かく言えばだが、今回のやり方で成功したのには四つの要因がある」

『四つ、ですか?』


 アインの戸惑いの声に、ハイガは頷いて答える。


「……一つ目は言うまでもなく、竜血薬の存在。竜という規格外の存在の有する魔術容量をそのまま標的に注ぎ込めたこと。これがなければそもそも不可能、まあ前提条件だな。そして二つ目が、俺が魔術師であるために対象に干渉できたこと。竜血薬とはいっても、それだけではどう変化するのかの方向性が不明となる。だから俺の魔術師としての能力で竜血薬の性質を補強するとともに、変化の方向性を強制する必要があった」

『……では、三つ目と四つ目は?』

「三つ目は、相手が再生途中だったことだ。……敵の再生にも回復薬による再生と同様のプロセスが働いていると仮定すれば、相手が魔術的に最も不安定になるのが敵が再生している途中であることは道理だろう? それと加えて敵の核部分に迫るための時間的余裕を得るためにも、今回はヒノキの火力が不可欠だった」

『……あの、ハイガさん。回復薬の再生プロセスとは?』


 ドライのその声に、そういえば誰にも回復薬の再生プロセスについて話していなかった、と思い出すハイガ。今度カルーアとヒノキにも話してやろう、きっと喜んでくれるに違いない……という見当違いのことを考えながら、メイド人形たちに説明する。

 基本スペックに関しては人間を超越するメイド人形たちは、比較的すぐにハイガの回りくどい説明を理解したようだった。


『回復薬の存在は知っていましたが、私たちには無用の長物ですので気にしたこともありませんでした。……さすがはハイガ様です』

『なんかもうそういうものだとしか思ってなかったですねー、私は』

「いや、そうでもない。……これに関しては単純に発想の起点の違いだろうな。俺の境遇なら誰でも気付くだろうよ」


 回復薬を日常のものとして受け入れているネルヴァの人間と、回復薬の存在が科学ではありえないと知っているハイガ。

 ハイガにしてみれば科学により説明できない時点でそれは魔術の産物であり、そして魔術の産物であるならばそれなりの推論を立てられることが必然だったのだ。


「……まあそういうことで、これが三つ目の理由だ。そして四つ目、最後にして最大の理由は、敵がもともと・・・・・・人間だった・・・・・こと、そして俺が特殊個体が人間だった時の姿を知っていたことだな。……魔術の本質は現実の歪曲だ。敵が魔術かそれに類する力で人間から怪物に変化したのなら、逆に怪物から人間に戻すことは簡単になる。歪められた現実を正す行為だからな、それは。……というか、そうでなければ今回のやり方は不可能だったと言い切っていい」


 生物としては完全に近い性質、自己創生リクリエイトを備えていた特殊個体ユニークであるが、その実、生命としてはひどく脆かった。

 その肉体は作り物であり、精神は破損し、魂は汚濁に満ちている。……そんな状態が、存在として正常であるはずもないのだから。


「まあ実質、今回限りの一発芸だ。これだけ条件が重なるなんてことが他にあるとも思えない。……というか、だ。正直なところ、今回のことは俺にも意味がわからん。何故、人間があれほどの変異をする? たかが人間三人を素材としてあの怪物ができあがるわけもない。というかあの怪物、そもそも探索地図マップにすら捕捉できなかったからな。……案外、外宇宙生物か何かだったのかもしれない」

『外宇宙、ですか?』

「いや、冗談だ。本気にしないでくれ」


 ドライへとそう言いながらも、しかしハイガは一概に否定しきれないような悪寒も感じていた。迷宮という、地球の環境を模して造られたのであろう空間。そこに歪にではあるが生存していた以上、流石に外宇宙という概念は突拍子もなさすぎる。が、或いはそれに類する逸脱した何かが……と、そこまで考えてハイガは思考を戻した。

 何一つ思考材料のない今は、考えても詮無いことである。なにしろあの特殊個体、核であったのだろう探索者を残して肉体ごと消え去ってしまったのだから。研究のしようもない。

 冗談めかして話題を提供する。


「ま、そんなことよりもだな。……実のところ俺は今回のことを鑑みて、酷く恐ろしいことに気づいてしまった」

『……恐ろしいこと?』


 メイド人形たちは皆、一様に首を傾げる。

 ある種の狂気的理性とでも表現しうるこの男、ハイガがいったい、どんな事実を目の当たりにすれば『酷く恐ろしい』と表現するのか分からなかったのだ。


「今回倒したような自己創生リクリエイトとまではいかずとも、自己再生リジェネレイト能力をもっている魔獣は他にもいるんだよな?」

『はい、私たちにはそう聞いておりますが』

「だったら、これは推論とはいえ十中八九当たっていると思うんだが……考えてみれば、竜血薬ドラグ・エーテルとかいう無茶苦茶な魔道具マギクラフトの材料となる液体を全身に巡らせる竜が、自己再生リジェネレイト能力を持っていないわけがないんだよな」


 物憂げなハイガの言葉。

 それに驚きの声をあげたのはツヴァイである。


『へっ!? ……でもハイガさん、竜を倒したんですよね?』

「ああ。……だから、それがとてつもない幸運だった。俺は乖離熱流バーナーで竜の体に魔術陣を描いて絶対零度を召喚する、という方法で勝ったが……もし、乖離熱流バーナーの火力が高すぎて表面に跡をつけるだけじゃなく鱗を貫いていたら。或いは、もし絶対零度アブソリュート・ゼロ以外の魔術で首以外……つまり即死部位以外の場所を狙っていたら、相手は全快だ。こっちが死んでいた」


 メイド人形たちは何も言えず、ハイガの声だけが空間に響く。


「つまり俺の実行した一撃死という戦法は、幸運にも竜を倒す唯一の方法だったわけだ。まったくもってやってられないことに、俺が死力を尽くした結果だと思っていたあの勝利でさえもある種の偶然の産物だった。……ま、運も実力の内と言えばそうなのかもしれないが」


 場に、しばしの沈黙が落ちる。

 数十秒ののちに、アインが引きつった声で言葉を発した。


『ハ、ハイガ様。……本当によく、生きておいででした』

「ああ。……知れば知るほどわけのわからないことが増える。本当にネルヴァここは楽しいところだ」


 皮肉げにそう言いつつ。

 とりあえずハイガは己の心に、もう二度と竜と戦わないことを誓った。




◇◇◇




「……で、これが報告の全てかね?」

「ええ。依頼された仕事の結果としてはそんなところです」


 同時刻、探索ギルドマスター・アルドの執務室。

 迷宮より帰還したガルドはアルドに面会し、受けた仕事の報告を行なっていた。


「……正直なところを言えばだが、非常に信じがたい。いや、君のミッツヤードに関する報告のことではなく……そちらも確かに信じがたいと言えば信じがたいのだが、それ以上にクエストの顛末そのものがだ」


 神経質そうに己の手をさするアルド。

 アルドの立場からしてみれば、叫び出さないことへと自制心のほぼ全てを費やしているような有様だった。


「死力を尽くして討伐した魔獣が何故か消滅し、あまつさえその正体が人間だった。……ありえないと喝破したいところだが」

「ギルドマスター。自分、報告には嘘はついていません」

「いや、わかっている。君がそんな突拍子もない虚偽の報告をするような人間であるとは考えていない。証拠の探索者三人も連れ帰っている。さらに言えば、実際に今回の魔獣が飛び抜けて強力であったことは討伐隊の他の面々からも報告されている。……だが」


 アルドは一度言葉を切り、思考をまとめる。


(これまでに駆られた魔獣の総数、そして通常の魔獣の姿形が基本的に獣を基本としていることを考えると、流石に魔獣の正体が変異した人間であるということはなかろうが……否、それとも或いは、人間が魔獣化したら非常に強力な能力を獲得した魔獣となる……?)


 常軌を逸した能力、そして討伐後に物理的に消滅するなど、今回の特殊個体は色々と不可解な部分が多い。故にアルドなどは今回が特例であるのだと冷静に考えられるが、しかし仮に公な事実にでもなれば、様々なところへ波紋を及ぼすことだろう。

 魔獣の正体が人間であるという流言飛語による、迷宮そのものの価値の下落。また迷宮狂いなどといった狂人などは、自分から魔獣になろうと画策し、より無軌道に暴れるやもしれない。……とてもではないが、ギルドマスターとして容認できる事態ではなかった。


「ガルド君」

「なんです?」

「現在のところこの事実を知っている者は、君とミッツヤード一行の三人、そして私と秘書だけということで間違いないかね?」

「ええ。……というか大変でした。討伐してすぐに第四階層中の探索者をかき集めてフィルデリア渓谷に引き返してしたベローニア姐さんには何があったのか話せと脅されるわ、達成報告の際にはギルドマスター権限のクエストだと主張して窓口受付での報告を拒否して睨まれるわ……しかし気軽に報告するわけにもいかない内容だったんで、直接サビクさんに報告したわけですが」

「……いや、本当に君に依頼して正解だった。素晴らしい状況判断だ。特命クエスト参加者とギルド窓口の人員には私からフォローしておこう」

「……感謝の極み」


 げんなりとした声で応えるガルドに反し、アルドの胸中は助かったという安堵に満たされていた。

 これでガルドではなくその辺の探索者にでも依頼していれば、恐らくは現在、討伐した魔獣が人間になったという事実は広く流布されていたに違いない。それが防げたのは間違いなくガルドの功績であり、これだから思考能力のある探索者というのは貴重なのだ。

 また、事実を知っている者のうちサビク……つまり秘書は言うまでもなくこちら側の人間であるし、ガルドもまた、この事実を無闇に口にすることはあるまい。つまり問題はミッツヤードの一行のみであった。

 咳払いをしてからガルドに尋ねる。


「ミッツヤードたちがこれを口外する可能性は?」

「無いと思いますよ。というか今回の顛末を秘密にすんのを提案したのはハイガですし」


 その答えに安堵し、同時に警戒する。

 迷宮都市において最高位の力を誇るシモンズをも凌駕する力を持つというのがガルドのハイガ評であり、それだけの力の持ち主が狡猾であるというのには不安しか湧かない。……無論、今回ばかりはハイガのその行動に感謝する次第ではあったのだが。


 と、ガルドから疑問が投げかけられる。


「……ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」

「なんだね?」

「これまでに、今回みたいな意味不明なバケモノは他には現れたことはなかったんですかね?」

「……ふむ」


 アルドは話すか話さざるか一瞬だけ天秤に掛け、話すことを選択する。


「……記録の限りでは、三度。討伐不能個体が出現したことがある」

「へっ? ……そんなにあるんですか」


 ガルドの声に含められた疑問……すなわち、『何故現在、その討伐不能個体は見られないのか。そして、一般に伝わっていないのか』にアルドは答える。


「金毛腐海、紺碧回廊、灰塵龍。……ギルドマスターになった際に閲覧したこの迷宮の二百年を網羅した記録には、これら三体の、その一体一体が階層を喰い潰すほどに強力だった魔獣は結局、最後まで討伐は不可能なままだったと記されていた。……記録によれば驚くべきことに、その三体は討伐により消滅したのではなく、時間経過でいつの間にやら消滅していたらしいのだ」

「い、いつの間にか……?」

「そうだ。どの魔獣も、発見よりおよそ二ヶ月ほどで忽然と消え失せた。霞のように、跡形もなくな。……そして無用な混乱を与えぬため、情報封鎖が敷かれた。公に伝わっていないのはそういった経緯だ」

霞のように跡形もなく・・・・・・・・・? ……それは」


 アルドは頷く。


「そうだ。……恐らく、今回と同様の事例なのだろう。案外その三種の魔獣は、人間を核としていたのやもしれぬ。であるからして今回の特殊個体ユニーク……例に倣って『血赤波濤』とでも呼ぶとしようか。それもあと一ヶ月ほどで自壊していたのかもしれない」

「……そっすか」


 微妙な雰囲気を湛えたガルドの声に、アルドは慌ててフォローを入れる。


「無論、だからこそ君たちの今回の功績は素晴らしいのだ。現在に至るまで、文字どおりに手も足も出ない災厄でしかなかった魔獣を討伐し、あまつさえ正体に連なるやもしれない存在を持ち帰ってくれたのだからな」

「そう言ってもらえると、まあ頑張った甲斐はありますけどね……ところで、連れ帰ったあの三人はどうするんですか?」

「ああ、あの探索者たちか。無論、話を聞き出したいところだが……」


 アルドは己のこめかみを指し、とんとん、とたたく。


「三人ともここ・・が完全にイカれている。思考能力は皆無、こちらに反応を示すことはなく、痛みにすらも反応しない。文字通りに生ける屍だ。良くて廃人といったところかな」

「……うわ、後味悪いな」


 思わず漏れたガルドの言葉に、アルドは苦笑を持って応える。


「気にすることはない。……身元を照会してみると、三人ともレッドマークの迷宮狂いだ。どちらにしても遠からず処置の対象となっていた畜生どもだよ」

「……あー、すいません。聞かなかったことに」

「まあその方が賢明だな。……奴らからは気長に情報を引き出して行くことになるだろう」


 『処置』ってなんだよ、廃人からどんなえげつない方法で情報を引き出すつもりだよ、とは流石に聞く勇気がなかったガルドは、その質問を最後に退出しようとした。

 何しろハイガたちは意識を失ったヒノキに大わらわですぐに屋敷に帰ってしまい、これまでの間、実質一人で休みなく事後の始末に奔走していたのだ。流石にそろそろ疲労が限界である。


「……じゃ、これで俺は失礼します。報酬は庭守の口座に突っ込んどいてください」

「ああ、ゆっくりと休んでくれたまえ。……だがその前に、一つ聞いても良いかね?」

「……なんです?」


 部屋を出て行こうとしたところにかけられたその声に、ガルドは振り向く。

 アルドは端的に問いを発した。


「君は、ハイガ・ミッツヤードをどう思う?」


 今回の特殊個体が規格外であったことは自明。

 ならば、それを倒した存在をどう認識するか?


「俺がハイガに関して・・・・・・・見たことの全ては報告しましたがね」

「了解している。……その上で、君はどう思う?」


 ガルドは一瞬躊躇し、言った。


「……人間くさい、ですかね」

「人間くさい?」

「ええ。……詩的に言えば、ある時は英雄的に戦い、時として悪魔のように狡猾。……俺としてはそれを人間くささだと思うんですが、どうです?」

「……興味深い表現だ」

「ま、奴の行動と発言を総合すると単に自分勝手なだけだとも思いますが。……あと、個人的に一つ言えることとしては……」

「なんだね?」


 その言葉に身を乗り出すアルドに、ガルドは特に焦らすこともなく言った。


「敵に回していいことはなさそうっすね」

「……簡潔かつ明快な意見だ。参考にさせてもらおう」


 アルドはため息をつき、椅子に深く身を沈めた。




 軽くお辞儀をしてからガルドは部屋を出て行く。


(仕事完了。……約束通り、空中走ってたカルーアとかわけわかんねえ破壊力のヒノキの武器とかその辺りは報告してないが、ま、仕事の内容にゃ入ってないしな……)


 そんなことを思いながら。

 思い出すのは、『すまん戦友、ここで見たことで、黙っておけることは黙っといてくれ』などと堂々と悪びれずのたまうハイガの姿。


(……確かにハイガには、人を見る目はあるかもな)


 何せガルドという人間は、そういうストレートな約束に一番弱いのだから。

 やれやれと肩を竦めて、ガルドはねぐらへと足を進めた。




◇◇◇




 時を遡り九時間……つまりハイガたちが特殊個体ユニークを討ち果たした、その瞬間。

 迷宮の最奥──秘跡の胎内にて、ある存在が眼を覚ました。


「……んんー? なんだ?」


 ソレは朧な意識の中で、己の眷属が滅ぼされたということを知覚した。


「……ちょっとおかしくない? 確かあのオモチャ、もうちょっと長く動くように作ったと思うんだけど。あれ、記憶違いかな。あれー? さすがにそんなわけ……」


 徐々に覚醒してゆく意識の中で、ソレはあることに気付く。


「……記憶違いじゃないなら、なんだ? ……待て待て待て待て、僕は人間程度に滅ぼされるようなモノを造っていない。確かに適当な造りのオモチャだったけど、でも僕の力の産物だ。人間がソレを、一体どうやって打倒できる?」


 ソレは完全に目覚めた。

 永きに渡る微睡みのような暇潰しの日々……その停滞を完全に打ち壊し、凌駕する興奮が駆け巡る。


「おいおいおいおい、まさかとは思うけど──魔術師か? ……いや、それしかない。僕の力を仮初めにでも破壊しうる存在など、魔術師以外にはあり得ない」


 熱に浮かされたようにソレは叫ぶ。


「はははははははは、ははははははははははは! ──そうなのか? まさか本当に、『彼』に続く存在が現れたと? 『彼』が待ち望み、しかし決して現れてはならない、絶無であるはずの『彼』の同類がこの世界に現れたと? ……いやいや本当に笑わせる。この世は喜劇だ。『彼』の望み通りに、本当にそんな存在が現れてしまうとは……!」


 哄笑。

 酷く悍ましく、闇そのもののような凶笑。

 嗤った後にソレは、吐き捨てるように言った。


「──認めない」


 粘質な、呪いの如き言葉を吐き出す。


「……ふざけるなよ、認めるか、認めてたまるか。そんなものはこの世界にいらない、必要ない、なくなってしまえ。誰だか知らないが僕の眷属を滅ぼした魔術師よ──この世からご退場願おうか。世界に二人目の魔術師はいらない。魔術師は我が愛しき怨敵、『彼』だけで十分だ」


 ソレは嗤った。

 天地に刻みつけるが如く、己の意志を言葉にして吐き出す。


時の刻みを認めぬモノクラック・クロックよ、運命の転輪を拒むモノクラック・クロックよ、世界を停滞させるモノクラック・クロックよ──悪いが僕は君の望むようには動かない、動いてなどやるものか。僕は僕の意志により、君に続く存在を否定しよう。君には全ての取り返しがつかなくなったその後で、存分に悔いてもらおうか」


 ソレは動き始めた。

 自我を得てより初めて。

 確固たる意志と目的を持ち、その為に動き出した。


「……さて、さしあたっては眷属、いやいや使徒を選ぼうか。あんなくだらないオモチャじゃない、僕の本来の力を代行するに足る器を。濁り汚れた魂は眺めているぶんには楽しいが、優美さに欠ける。……僕の力を預けるに足る、黄金の魂の持ち主を探すこととしようか」


 ソレは誰とも知らぬこの世界に二人目の魔術師に向け、密かに口上を述べた。


「さあ、魔術師よ。この僕、根源の雫にしてこの世界で最後の神──終極断片フラグメントが相手になろうじゃないか。……僕はお前に何の恨みもない。けれども己の存在に懸け、お前に滅びを与えることをここに誓おう──」














……to be continued!


ってな感じで二章・迷宮探索編は終了です。

次章、三章は迷宮壊滅編となります。

投稿までには少々時間が開くかと。詳しくは割烹に書いてます。


あ、明日あたりに二章の設定紹介を載せておきます。

一章のやつと同じ雰囲気です。

お暇でしたら目を通してやってください

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