27 信念と矜持
シモンズの正拳による一撃。
それはおそるべき轟音をもたらした。
事実、その威力は生半可な爆弾のものなど容易に上回り、岩壁を豆腐のように抉り取り、鋼鉄板を煎餅のように貫き通す──その域に達している。
無論、それのもたらす破壊は甚大。触手の表面と同種の、しかしそれよりも更に強靭な赤黒い鱗に覆われていた核部分をシモンズの右腕は突破し、完全に埋まりこみ、その周囲を崩壊させていた。
……が。
(コイツ、は……!)
ほんの僅かの静寂の後。その脅威に第一に気づいたのは、自由落下の遅さにもどかしさを感じながら、しかしそれ故に特殊個体を観察するほかないハイガであった。
げたげたげたと嗤う三つの生首。そこに現れていたのは紛れもない──『悪意』であったのだから。
空中で猫のように重心を入れ替えたハイガは、悪寒に導かれるように劣化・翼持つ靴を限界解放させ、無理やり空中に足場を仮想想定、蹴りつけ、おそるべき勢いで落下する。
もう一度やれと言われても不可能なその軌道はしかし、超高速度での地表への到達を為さしめ、ハイガは特殊個体の核部分を全力を持って蹴りつけることによりその進行方向を地面と水平方向に変化させる。
その際にシモンズをその右腕で無理矢理掴み、力づくで核部分より引き剥がし、核部分より僅か一メートルでも遠くへと離脱するため、脚に最大限の力を込める。
シモンズは、何が起こっているのかを理解していない様子であった。
当然である。ハイガが捨て身の攻撃により触手を排除したことで、念願の特殊個体核部分へとようやく一撃を喰らわせることができたのだから。
二撃、三撃と続けようとしたところを、他ならぬハイガに引っ掴まれ、離脱させられているのだ。理解が及ばないのが正常であろう。
が、その表情は一秒ののちに歪む。
先突部の三つの生首が、哄笑を挙げたのだ。
「jsbnshdbxkqmdudbuqndkvnwirhfnsojm────!」
何一つ意味の拾えぬ、しかし明らかな悪意の充満したその哄笑。
聞くものすべての心胆を寒からしめ、不協和音を耳にしたかの如き不快感を抱かせる。
そしてさらに次の瞬間。その場のすべての人間が身を竦ませた。
「ahcneiamaifneicmvemfjcmwizngahbde────!」
再度の哄笑とともに核部分がどくんと大きく脈打ち、目にも明らかな膨張を見せたのだ。
「nshcunisisnuncjejxiejxnejsjdnejei────!」
そして三度の哄笑。
絶望は、誰の目にも明らかなものとなった。
ぐぼり、と。
核部分より、赤黒いナニカが湧き出す。
一つではない、十、百──千に達しようかという勢いのソレは。
触手。
屈指の実力を持つ魔術師たちが全力を傾けて減らし、そしてハイガの捨て身の一撃によりようやく半数以下にまで減少した触手──ソレが、新たにごぼりごぼりと湧き出していた。
同時に、核部分もさらに膨張する。
五メートルほどであった体躯は、一息のうちにその倍の十メートルほどに。
シモンズがやっとの思いで与えた傷は完全に修復され、ほころび一つも生んでいない。
物理法則を完全に無視したその膨張は、不快感というレベルを通り越し、深海の光当たらぬグロテスクな怪魚でも目にしたかのような、本能的なおぞましさを放出する。
そして次の瞬間──触手が、押し寄せる。
のたうつ巨大な蚯蚓のような触手が波濤のように押し寄せる。
長さも太さも増した触手が絡み合い、空間を埋め尽くし、視界を赤黒く染め上げる。その様はさながら、血肉の津波であった。
逆らうという発想の及ばぬ、人一人の力では敵ですらあれぬ、大自然の負の側面を凝縮したかの如き暴力。
魔術師たちは矜持を投げ捨て、その血肉の津波から逃れようと全力の逃走を開始する。陣形も連携ももはや存在しない。その程度の小細工で押し留めることのできるものではないのだ。
恐れ、逃げるほかの選択肢など存在しない。
迷宮第四階層、フィルデリア渓谷。
常には豊かな景観が見られるそこは現在、赤と黒……血肉の色に染まっている。
此処は今、地獄の只中であった。
◇◇◇
「オオオオオォッ!」
両側を岩壁が囲んだ岩の裂け目、フィルデリア渓谷の西端に位置する渓谷出口。ハイガは叫びを挙げながら、なんとかそこに飛び込んだ。
その血液にぬめる手にはシモンズを掴んだままである。核部分よりおよそ五百メートルを全力で駆け抜け、このフィルデリア渓谷の西端へと辿り着いたのだ。
今通り抜けたばかりの岩の裂け目からは赤黒く触手で染まったエルフィリア渓谷が見てとれ、ハイガたちを追ってきた触手が二、三本侵入していた。
(……ッ!)
それをすぐさま殴りつけて退散させ、その一方でハイガは回復薬を限解保持より取り出した。栓を開け、シモンズに飲ませる。
逃走の当初、ハイガはシモンズを離して別々に走っていたのだが、しかし触手の速度が予想以上に速く、シモンズは背後より多数の小触手からその体を貫通されてしまった。
ハイガはとっさにシモンズを掴み、劣化・翼持つ靴を全力起動させて離脱したのだが、しかしやはり追いつかれる。
シモンズはその状況下で、流血により朦朧とした意識でありながらも本能的に触手へと対応し、そのおかげでハイガは走ることに全力を費やすことができていた。
これにより逃走そのものは成功したのだが、しかしその代償としてシモンズの体には大小合計で五つの貫通創が存在しており、一刻も早い回復が必要であったのだ。
回復薬を含ませると、異常な速度でシモンズの傷が塞がって行く。
(……流石、最高質回復薬級か。いや、それともシモンズの肉体の回復薬への適応度そのものが高いのか……?)
これで効果が小さければ、リスクを犯して竜血薬の使用を検討する必要もあっただろう。しかし、ひとまずそこまでは必要なさそうであり、ハイガは安堵の息を漏らした。
次いで、周囲を観察する。
フィルデリア渓谷西端出口は狭まり、特殊個体が侵入して来ることはできない。一本や二本の触手を差し込むことは可能にしても、そんなものはカモだ。敵にはならない。
危険性があるといえば接敵時のように特殊個体が崖によじ登って飛び降り、西端出口を無視して出てきた時であろうが、しかしそれも即時の危機ではない。しばらくの間は、ここは安全地帯であるといえた。
討伐隊のメンバーはどうやら全員が揃っており、最もこの西端口より離れた場所にいたハイガたちが最後であったようだった。
「ハイガさん!」
「カル。無事か?」
「……ええ、私は。でも、ヒノキちゃんが」
「ヒノキが?」
カルーアがちらと目をやった方向を伺う。
……一瞬、ハイガはそれが誰なのか分からなかった。
それほどまでに、少女の様子は常と違っていたのだ。
壁を背にして地面に座り込み、己の武器を抱え込んで震えている。止められない悪寒を押さえ込むように、己の体を抱きしめながら。
意味の取れない言葉を小さくぶつぶつと呟き、いつもの朗らかな様子が嘘のような、酷く弱々しく、恐怖に震えるその姿──とてもではないが、正常な状態ではなかった。
そのあまりにも尋常ならざる様子に、ハイガは話しかけるのを躊躇する。
(……この短時間に、何が?)
ハイガが核部分に攻撃を加えた直後には、的確な支援をしてくれたのだ。それが今や見る影もなく、親を失った幼子のように怯えている。
ヒノキとはまだ仲間となって日が浅いが、しかしハイガから見ても精神力の面から言えばかなりの安定感を持つ、強靭な少女だ。確かにあの触手が溢れ出る様はおぞましくはあったものの、それだけが原因でこうまで恐慌に陥るものだろうか。
「カル、ヒノキはどうした?」
「わかりません。……聞いてみても、答えてくれなくて」
カルーアもまた、ぎゅうとカドゥケウスを握りしめる。ヒノキが何を恐れているのか、それを分かち合えない自分自身に腹を立てている様子であった。
「……そうか。今はともかく、特殊個体への対応が優先だな」
「はい。……ヒノキちゃんが立ち直るまで、私が」
「ハイガ! シモンズの状態は!?」
と。そこに響き渡り、会話を中断させたのはベローニアの声であった。
「回復薬でなんとかなった……が、戦闘は無理だな。血を失いすぎだ。ああ、回復薬が必要なやつは言ってくれ。この非常時だ、提供する」
ハイガは一応、回復薬が必要かと思い呼びかけてみるも、誰も何も言わない。西端出口に近かった彼らにはそもそも傷が少ないというのもあるのだが、それ以前に精神のダメージの方が大きいのだ。
「チッ……シモンズがダメとなると、いよいよ厳しいかね」
「……ハイガ。俺たちで戦えると思うか?」
舌打ちをするベローニアに、ハイガに問いかけるガルド。
できる限り客観的に、ハイガは応えを返す。
「厳しいだろうな。自己再生……いや、あの様子を見るに再生能力ではなく再生成長能力……自己創生とでも呼んだ方がいいか。あのデタラメな力をどうにかできるとも思えない。そもそも、もう一度触手を殲滅することも難しい」
その声に、意識のある者全てが西端出口からフィルデリア渓谷を覗き込む。
そこにあったのは、蠢く触手が敷き詰められた血肉の沼のような光景。生理的な嫌悪感を催すその光景に、誰もが本能的な恐れを抱く。
とてもではないが、それは生物の作り出す光景とは思えなかった。
(いや……殲滅だけなら、方法はあるのか?)
一方でハイガの脳裏に浮かぶのは、ある切り札。……が、自己創生をどうともできない現状、それに意味があるとも思えない。
耐久性が高いというのならまだ、一撃必殺に賭ける価値もある。が、耐久性に加え再生能力まで持って来られてしまうと、打つ手がなくなってしまう。
(厄介、だな)
口を開き、意見を求める。
「自己再生する魔獣は他にいるのか? いるとしたら、どうやって対応している?」
ハイガのその問いかけに答えたのは、低い男の声だった。
「……いる。俺は戦ったことがある」
「シモンズ!? 待て、起きるな!」
声の主はシモンズ。昏倒より意識を覚まし、ハイガの疑問に答えたのだ。
「……ハイガか。この程度、屁でもない。……自己再生する魔獣の倒し方だったな? 簡単だ。自己再生できないまでに、叩き潰せ。何度でも、何度でもだ」
その言葉には覇気が無く、血を吐くが如き声である。
が、その有様でありながら、シモンズはよろよろと立ち上がった。
「野郎ども、まさか弱気になっている奴はいないな?」
そのシモンズの問いに、応える者はいない。
皆、もはや戦意を失っている。あまりにも特殊個体の能力が圧倒的すぎるのだ。
物量という戦力の絶対差。
そして自己創生という、相手をするには最悪の能力。
──どうしろと言うのだ。
命を削ってこちらの戦力を前進させ核部分に決死の一撃を加えたとしても、敵はその瞬間に回復する。しかも恐らくは再生するたびサイズと強度が増し、もともと手のつけられなかったものがさらに手をつけられなくなる。
つまり。
(具体的な方策が存在しない以上は──)
「……手の打ちようが無い、だな」
ハイガの言ったその言葉が、シモンズを除いた全員の総意であった。
誰も何も言わないことを確認し、ハイガはそのまま言葉を続ける。
「……クエストは失敗だ。引き上げよう。こんな敵が出て来るとは誰も予想できていなかった。その時点で俺たちの敗北であって、敗北した以上は被害を小さくするのが基本。これ以上は戦う意味も無い」
その言葉は正論であった。今この場に、あの敵を打倒しうる戦力が存在しないことなど誰の目にも明らかであり、故に皆が首肯を見せる。……ただ一人を除いて。
シモンズである。
「待て。……撤退? 撤退だと? ……ふざけるな。この隊の隊長は俺だ。そして俺の判断は戦闘継続。ここで退くべきではない」
その言葉にハイガは、僅かの驚きをもって応える。
「シモンズ? ……理解しているだろう。この場ではあの特殊個体は倒せない。それだけの戦力はない。なら、撤退が筋だ。お前にそれがわからないはずがないだろう?」
「……確かにシモンズさん、今はこれ以上は」
ガルドもまた、ハイガの意見を支持する。……当然であった。この場では撤退こそが常道であり正道。この場でそれを理解していない者はいない。
しかしそれ故にハイガには、分からない。
(……何故、頷かない?)
ハイガの知るシモンズという探索者は、拝筋主義ではあるもののクレバー。この簡単な判断を誤るような人間には見えなかった。
シモンズは噛みつくようにハイガへと言葉を吐き捨てる。
「……随分と行儀のいいことを言う。それだけか、ハイガ?」
「ああ、そうだ。……そもそもこんな押し付けられたクエスト、俺はどうでもいい。そしてどうでもいいことに命は賭けない」
「ッ! ハイガ、貴様……!」
シモンズがハイガの胸倉を掴む。背丈に大きく違いのある二人であり本来ならばハイガは体が宙に浮いていたのであろうが、最高質回復薬で無理矢理に回復したに過ぎないシモンズの肉体にもはや余剰な力など残っていない。僅かに服を引っ張るに留まる。
「シモンズ。お前ももう限界だろう。次の機会にすればいい。今回は人員も装備も足りなかった。……幸いにして情報は手に入った。また全て整えて、改めて討伐に挑めば……」
「──その間に死ぬ者は、どうなる!」
力の入らぬ体で、しかしハイガを睨め付けるシモンズの眼には、ぎらぎらとした光が宿っていた。
「今ここで討伐しなければ、次の討伐隊が出るまでに何人の探索者が犠牲になると思っている! この特殊個体の行動範囲は詳しく調査されていない! いつ何時、どこにアレが現れてもおかしくないと理解しているだろう!? ……しかもアレがさらに成長するのだと考えれば、叩くのは早ければ早いほどいい。つまり今、この時だ! あと幾度かアレが成長し、階層ごと飲み込まれてからでは遅い! ハイガ貴様、それでもいいと……!」
なるほどその意見には、一定の筋は通っていた。
ただ再生するだけの個体というのならともかく、あの特殊個体は再生時にさらに戦力を増した。ならば、時間が経てば経つほど討伐が難しくなるというのはそう間違った判断ではない。報告にあった特殊個体とのサイズ差を考えると、恐らくは時間経過によってもあの特殊個体は成長するのだから。
また劣勢に追い込まれたとはいえ、この場に集ったメンバーは間違いなく探索者の中でも選りすぐりの人材である。その人員でいま勝てないのならば、この先に勝てる見込みは薄い。迷宮のことを第一に考えるのならば、確かに今、あの特殊個体を叩くのが最善手ではある。
……が。そのシモンズの問いに返すハイガの言葉は、一つだった。
「ああ、別にいい」
シモンズが目を見開き、ハイガの放った言葉に瞠目する。
「貴様……!?」
「どうでもいい、と言った。……悪いがシモンズ。自己責任で迷宮に入るやつらがどうなろうと、俺にとってはどうでもいい。俺の目の届かないところで勝手に死ね」
「……本気で言っているのかハイガ」
「俺は俺の手の届くところで不条理に人間が死ぬのは我慢ができないから助けるし、大切な人間はどれだけ離れていようと助けに行くが、それ以外は知らん。……だいたい、雑魚魔獣に殺されるのもこの特殊個体に殺されるのも変わりないだろう。どちらにしても、備えずに迷宮という危険地帯に入る馬鹿が悪い。だからなシモンズ、俺はここで命を危険に晒してまで、あの特殊個体に立ち向かう気はない。なんのメリットもないし、助けたい誰かもいないからな。勝手に暴れさせておけ」
「…………こ、いつ!」
シモンズはハイガを殴り飛ばそうと一瞬腕を振りかぶり、しかし止まった。
ハイガを投げ捨てると、満身創痍の体で触手犇くフィルデリア渓谷に侵入しようと、一歩一歩を踏みしめながら進みだす。ハイガは埃を払って立ち上がり、シモンズに尋ねた。
「どうするつもりだ、シモンズ」
「黙れハイガ。貴様は戦士ではなかった」
「……死にに行くだけだぞ」
「ハッ! ……ハイガ、お前は何もわかっていないな」
「……何をだ?」
シモンズは己の両拳を握りしめ、真摯な瞳で言う。
「……力持つものには高潔さが求められる。それは義務であり責任だ。そうでなければ何故、俺たちは力を持っている? ……意義なき力に価値は無し。力を持つのならば、それを振るうのならば、全身と全霊を賭けて高潔であること。それこそが俺たちの矜持であるはずだ。少なくとも俺は、それをこそ信仰している。……ならば何故、力なきものが死んでゆくのを許容できる。己が命惜しさに救えるはずの命を救わないこと、それが高潔さと言えるか。……否、否だ。俺は俺の信仰に忠実でありたい。そして今、俺の高潔さはあの醜い肉の塊を討ち滅ぼすことを望んでいる!」
打ち付けられたシモンズの両拳は、鈍い音を立てる。
「故に、俺の拳は砕けん。晶拳戦徒は砕けんのだ」
シモンズはそのまま進み、フィルデリア渓谷に出ようとする。
カルーアはハイガの耳に唇を近づけ、こっそりと囁いた。
「いいんですか? ハイガさん」
「……何がだ?」
「シモンズさん、行っちゃいますよ?」
「ああ、そうだな。……なんだ、カルも戦士の高潔さとかいうやつに殉じたいのか?」
ハイガのその言葉に、カルーアは首を振った。
「いえ。……言い方は悪かったですけど、別にハイガさんが間違ったことを言ったとは思ってないです。そもそも、自分の命は自分に預けるのが魔術師ですから。例えば私はハイガさんに助けてもらえたので生きていますし、とても感謝していますけど、それでも助けてもらえていなかったとしても恨み言はないですし。その時は弱い自分が悪いというだけのことです」
「……結局、何が言いたい?」
ハイガの問いかけに、カルーアはシンプルに答えた。
「だってハイガさん、シモンズさんみたいな人が死ぬことに耐えられないでしょう?」
「……──ッ!」
ハイガはそのカルーアの言葉に一瞬硬直し、そしてニヤリと笑った。
「……やっぱりカルは最高だ。……ああ、そうだな。地球で世界を見てきた時も、確かそうだった。ワケの分からない死にたがりが沢山いた。理由もないのに死んで行こうとする馬鹿が沢山いた。……いや、俺にもな? 恋人や家族を守りたいというのはわかる。友人や恩人を守りたいというのもわかる。……しかしどいつもこいつも、自分に関係のない名も知らない誰かや遠い未来の子孫に降りかかる禍根を断つためだのと、わけのわからないことばかり言いやがる。……意味不明だ、どう考えても命を懸けるには値しない。危機に直面したその場の人間が自分で足掻けばいいだけのことだろう? だから俺は実態の無いものに命をかけて死んで行く連中の考えていることを、昔から一つも理解できないんだが……」
ハイガは背後よりシモンズの首筋を打ち、意識を刈り取りながら言った。
「……だが思い返してみれば、そういう格好いいヤツの望むままに死なせてやったことは一度もなかった。ま、今回も例外じゃないな」
周囲が息を呑み、何も言えない中、ハイガはシモンズを地面に寝かせて宣言する。
「気は進まないが──ここはシモンズの流儀に従って、デカブツ退治だ。どうでもいい誰かのために動く気は毛頭無いが、しかし今回は高潔な男のために戦ってみるのも悪くない。……というか、放置して帰ったら殴り殺されそうだからな」
首筋ッターンってするヤツ!




