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24 迷走







 ──ヌゥンッ!

 ──ハァァンッ!

 ──キェェエイッ!


 怪鳥のような気合の叫びと共に、断続的に響き渡る魔獣を叩き潰し殴り飛ばす打撃音。

 魔術師たちの鋼鉄の肉体は唸りをあげ、敵対するものを一片の容赦すらもなく肉片へと変えていく。


 先頭ではこちらへと突っ込んできた猪熊ボア・ベア──およそ三メートルの体躯を誇るその凶獣の鼻先を、軽く跳躍したシモンズの鉄塊の如き握り拳が鈍い金属音を響かせ、目にも留まらぬ速度で殴りぬける。

 生物が奏でて良い音ではなく、筋肉に魔獣の骨が叩き折られるという異常事態。

 それこそが先ほどの鈍い金属音の正体だ。

 晶拳戦徒クリスタルバウト──なるほど、彼の拳はその名に恥じぬ水晶クリスタルで出来ているのかもしれないと、そう思わせるほどの破壊拳。

 猪熊は断末魔を挙げる時間すら与えられず、首ごとを胴体にめり込ませて絶命。

 そして次なる獲物もまた同じ末路を辿り、三秒以上シモンズと相対していられる魔獣はここにはいない。


 後方では女傑の軍隊アマゾネス・レギオンが副首魁、ベローニアが咆哮を挙げながらその逞しすぎる右脚より蹴撃を繰り出し、群れて襲いかかってきた小魔獣を三体まとめて吹き飛ばす。

 身長190cm、体重推定120kg。絞り込まれた末のこの肉体。

 猛々しさのみを感じさせるその容貌は女性的かと言われれば首を傾げざるを得ないが、しかし真に修羅場を潜り抜けてきた者のみが得る威風を纏い、性別を超越した美しさを見せ、身惚れざるを得ない。

 高速かつ剛力という矛盾を両立したその魔術師の烈脚は、理性なき魔獣をして恐れを抱かせるには十分だった。



 側方では迷宮の庭守より派遣された若き魔術師、ガルドがその肉体をもって散発的な襲撃からパーティーの瓦解を防ぐ役目を果たしている。

 あえて大柄な魔獣を生かして盾のように扱って相手をしつつ、小柄を利用してパーティーの内部に侵入しようとする魔獣をその腕の一振りで完全に打ち払う。

 素早い状況判断と視野の広さ。そして最良の判断を実行できる技量と肉体。

 この臨時パーティーの中核を支えるのが彼であると言っても過言ではない。

 その実力は流石、若くして『迷宮の庭守』への所属を許されている一級品のものといえよう。


 とはいえ、もちろんのことガルド一人で側方を支えきれるものではない。

 もう片面から襲撃をかけてきた魔獣の進撃を、小柄な少女の目にもとまらぬ踏み込みから放たれる杖の二連打が打ちのめし、周囲の魔獣を巻き込みながら弾き飛ばす。

 無論のこと、蒼杖カドゥケウスを操るその少女の名はカルーア・アレキサンドライト。

 僅か数か月前にはたった二匹の中級魔獣に敗北しようとしていた少女。

 しかし竜と相対し、旅を乗り越え、迷宮を攻略してきたその経験値が、少女を一流の戦闘者へと変貌させていた。

 強靭、しかし巨重な肉体を有する他の魔術師には決して許されぬ、あまりに軽やかな体さばきから繰り出される流れるような突き。

 その有無を言わせぬ絶対の速度には、最高位の魔術師ですら瞠目するものがある。


 上空より迫り来る飛行系の魔獣を一撃一殺ワンショット・キルで堕とし続けるのは、フェイルノート・スナイプを構えた少女、ヒノキだ。

 一吐きの呼吸で上空の魔獣の三次元的な位置を完全に把握し、そしてもう一呼吸を終える前には既に狙撃は終了し、魔獣はしめやかに爆発四散する。

 己の適性を完全に活かせる武器、そして状況を得た少女は戦いに身を焦がす。

 戦力たれるという充実感と喜びが少女の臓腑を熱くし、しかし脳髄は冷静に。

 洞察のみを頼りとして己を上回る魔獣を相手にしてきた日々が、その他の誰にもなし得ない完全なる狙撃を完成させていた。


 そして魔獣の最密集域。

 魔獣溜りモンスターストレージの支配個体が取り巻きを連れて居座るそこに突貫するのは、一見して魔術師には見えない青年。

 ハイガ・ミッツヤードであった。

 思考詠唱イマジナリ・キャストより生み出される超高度の身体強化魔術に、さらに加えて足に履く劣化・翼持つ靴タラリア・リビュートより生み出される推進力により、ひたすらに目の前の魔獣の壁を破壊してゆく。

 厚い魔獣の層がたった一人の魔術師により引きちぎられて行くその様は、鎧袖一触と表現する他ない。

 己の身体性能に全てを賭けるその姿は、ある意味で誰よりも『魔術師』らしい。


 ついに最後の魔獣壁を突破し、目の前に現れたのは操獣狐ヒュプノーフォックス

 目の前に現れた魔術師に驚愕し、臨戦態勢をとる。

 だが遅い。遅すぎる。

 振るわれたハイガの右腕の一撃は完全に操獣狐ヒュプノーフォックスの胴体を捉え、再起不可能に破壊し、絶命させた。


 途端、夢から醒めたように纏まりを失い瓦解する魔獣たち。

 魔術師たちは勝利の凱歌をあげ、無慈悲な掃討戦に移行した。


 見よ、これこそが魔術師。

 肉体という武器を以って一騎当千たる者どもである。


(──どうしてこうなった)


 ハイガは己に向けられる歓声を聴きながら、心の中でそう呟いた。







 第四階層。

 その全面が森であり、全階層で随一の魔獣密度を誇る第三階層にはさすがに時間効率の面で及ばないものの、危険度と得られる金銭の釣り合いが高いレベルでとれている階層として多くの中級探索者、また上級探索者の主な狩場となっているのがこの階層である。

 階層の構成としては、単一の植生により成っていた第一、二、三階層とは異なり、山や湖、森や平原といった様々な環境が存在する。

 それ故に様々な環境に住み着く様々な魔獣が存在し、多種多様な魔獣が生息している、というのが大きな特徴として挙げられるだろうか。


 現在、ハイガたちを含めた特殊個体ユニーク討伐隊は、その第四階層のギルド支部にて夕食中、もとい宴会中であった。


「なかなかのもんだったぞハイガの一騎駆け! なかなかああも鮮やかにとはいかねえ!」

「サポートがあったからな……というか、呑みすぎ……」

「はっはっは、なに、ハイガも飲みたいか!? そうか、飲め!」


 それからバシンバシンと体が地面にめりこみそうな威力で背中を叩いてくる。

 ハイガはその衝撃で、口に含んでいたスープを吐き出しそうになった。

 注がれた酒を断りきれずに、グイッと呷る。


(……緊張感なさすぎるだろ)


 何しろ今ハイガの背中を叩いてきた、現在進行形で酒をかっ喰らう大男が討伐隊のリーダー・シモンズである。緊張感を保てと言うのが無理なことだ。


 部屋の中を見回して、ため息をつく。

 どこもかしこも酒飲みばかり、フェールの魔術ギルドの狂騒と大差ない。

 基本的に魔術師という連中は基礎代謝が優れているためか、酔いやすいものの後を引く酔いかたはあまりしない。

 であるから別にそう大した問題ではないといえばその通りなのだが、ここで一緒に呑んでいると、自分もいつかはこの筋肉たちの無計画性に違和感を感じなくなってしまうのではないか、という恐怖があった。


 そもそもこの討伐隊、そもそもが行き当たりばったりというか、基本的に計画性が無い。

 つい先ほど殲滅した、魔獣溜りについてもそうだ。

 魔獣溜りというのは他の魔獣を支配する能力を持つ魔獣により形成される異種魔獣混成のコロニーであり、三階層以上の階層で時折発生する。

 無論のことその危険性は非常に高く、ソロの探索者が魔獣溜りに踏み込んでしまえばほぼ確実に命はない。


 それ故に定期的に高位の探索者によるコロニー駆除が行われることとなっているのだが、このシモンズ、いきなり『夜営に使おうと考えていた洞窟が魔獣溜りになってたから、駆除するぞ!』と言い放ち、ハイガに『支配個体は譲る!』とサムズアップしてくれやがったのだ。

 力を認めさせたとはいってもハイガはこの隊の一員であり、隊長であるシモンズの言には従わざるを得ず、一人で洞窟の奥に潜む操獣狐ヒュプノーフォックスに突貫することと相成ったのである。


 おそらくシモンズからしてみれば、ハイガの実力であれば四階層の魔獣溜りの支配個体の討伐程度では危険性がないことなど承知の上であり、将来有望な後輩探索者に貴重な経験を譲るというつもりだったのだろう。

 ハイガの見るところシモンズに悪意はなく、純度百パーセントの好意であったというのが分かってしまうので抗議しようにもできない。

 しかも結局、魔獣溜りを殲滅した後の洞窟は魔獣の死骸やフンで夜営どころの様子ではなく、魔術ギルドに戻って夜を明かすというオマケつきだ。


(意図はあったんだろうけどな……)


 今回の特殊個体ユニークは非常に多くの触腕を備えているということであり、確かに多数を相手にする際の連携の確認としては悪くない選択肢ではある。……この特命クエストで目立ちたくないハイガにとってみれば、非常に迷惑ではあったが。

 ハイガは若干うんざりしながら、腕相撲の再戦を持ち掛けてくるシモンズの隣から抜け出す。


「……おー、ハイガ。乾杯」

「ガルドか。乾杯」


 と、その瞬間に新たな魔術師に掴まった。

 とはいえこちらはシモンズと違って酔っぱらうほどに呑んでいない分、随分とマシなのであるが。

 声をかけて来た青年魔術師はガルドといい、外見こそ魔術師らしいわがままボディーであるが、しかし魔術師としてはなかなかに良識ある人物である。

 が、ハイガの見るところ、本日はなにやら背中が煤けていた。


「……どうかしたか?」

「ハイガにゃわからねえさ……」


 ニヒルな笑いを浮かべるガルド。

 一体何があったというのか?


 このガルドという魔術師、ハイガよりも二、三歳年上ではあるがフレンドリーな態度で、この討伐隊の中ではハイガからの好感度が一番高い人物であった。

 基本的に、人心掌握とかを抜きにした友達づくりのスキルはゼロのハイガである。

 わかりやすい友好的なノリで話しかけてきたこのガルドに、多少なりとも心を許すのは仕方のないことだった。


「気になるな」

「いや、本当にハイガには縁のない話だ。……アレだ、飲もう。飲めばどうでもよくなる」


 そのやさぐれた雰囲気に疑問を感じながらも、一献付き合う。

 飲まされるわけでもなく無茶苦茶なことを言いだされるわけでもない、その普通すぎる会話。それにハイガは、ちょっとした充実感すら感じていた。

 ポツポツと話しつつ雰囲気がほぐれてきた頃合いに、少しばかり気になっていたことを切り出す。


「……そういえば、ガルドには聞きたいことがあったんだが」


 ハイガがそう言うと、ガルドは不思議そうに返す。


「なんだ? お前に聞かれることってのもなんだか想像がつかねーな。こう言っちゃなんだが、俺はその辺の探索者だぞ?」

「ガルド自身というかな……ガルドのギルド、『迷宮の庭守』についてだ」

「ほっ、ほう?」


 素っ頓狂な声をあげるガルド。

 何やら脂汗をだらだらと流している。

 不審に思いながらもハイガは聞く。


「ギルドってのは要するに、ある程度同じ考えの人間が集まって作るものだろ? 『迷宮の庭守』という名前からは、イマイチ何をしているのかわからなくてな」

「……ああ、そういうことな」


 ガルドは息をついて、己の所属するギルドについて話し始めた。


「まあ、有名なギルドじゃないし、地味なギルドではある。けど、絶対必要なギルドだ。……そうだな。ハイガ、迷宮内を移動したいときにはどうする?」

「転送陣、じゃないのか?」

「あー、違う。階層間、じゃなくて階層内の移動だ」

「それは徒歩で……ああ、そういうことか」


 声をあげたハイガに、ガルドは口笛を吹いた。


「飲み込みがいいな。まあ要するに、迷宮内での物資の移動……つってもほとんどギルドの書類やら食料やらになるけどな。そういうのを請け負うギルドだ。そのほかにも治安維持やら何やらあるらしいが、まあそっちはオマケだな。そっちにはほとんど手を出していない」

「……それで『迷宮の庭守』か」


 納得する。

 なるほど、確かにこの迷宮の仕組みから考えれば確実に需要のある仕事である。


 階層間の移動こそ転送陣で危険はないが、しかし到着する転送陣とギルドの位置……すなわち帰還転送陣の間には、当然のことながら距離がある。

 なれば、その移送においても通常の探索と同義の労力がかかることは道理であろう。

 いやむしろ、物資の防衛が必要となるため通常の探索よりも難易度は高い。

 また当然のことながら、それには高い実力と信頼が必要とされる。ギルド支部間でやり取りする物資……食料、回復薬、書類など、どれを欠くことも許されない。


「……当たり前だが、なかなか評価されない仕事でもあるな。成功が当然で失敗はありえねえ」

「……大変そうだな、本当に」


 明らかに重要な仕事ではあるけれども、華が無く、成功しても評価されない……人はこれを一般にブラック案件という。

 なんとなくその匂いを感じ取ったハイガがそう言うと、ガルドは感動したように頷いた。


「分かってくれるか。分かってくれるか! ……いや、まったくよ。ちょっと前の仕事なんかとんでもなかった……任務を終えたと思ったらタグのつけ間違いで、ギルド受付のババアがそれをこっちの責任にしやがって、挙句に……」

「ああ、まあそういうこともあるよな……」


 思わず、といった様子でガルドの口からこぼれ出る愚痴に、地球でもこの世界でも似たような苦労はあるものだと微妙な感心を抱きながら相槌を打ちつつ呑んでいると、トントン、と肩を叩かれた。

 振り返ると、そこにはヒノキの姿。バトルスタイルから着替えたいつものメイド姿である。


「おにーさん……!」


 微妙に焦った雰囲気。

 ハイガはガルドに断りを入れ、その場を離れる。


「……眠いのか? 部屋に戻るか?」

「違うよ! ……女傑の軍隊アマゾネス・レギオンの勧誘がしつこくてさ。オレはともかく、カルおねーさんが口説かれ続けてる」

「あー……なるほどな」


 カルーアの方に目をやる。

 そこには身長180cm越えの女傑アマゾネス二人に囲まれて、縮こまっているカルーアの姿があった。


「あ、あの、だから私はハイガさんとヒノキちゃんと……」

「なーに言ってんだ! 男なんてもんは裏切る! 一瞬で裏切る!」

「本当にそうだよ! その点、女傑の軍隊アマゾネス・レギオンなら安心確実だ!」

「その、だからハイガさんは裏切ったり……」

「そんなもん若いうちだけさ……歳食ったらポイだよ!」

「あたしらも経験あるからねえ……心配なのさ」

「え、ええー……」


 カルーアは女傑ますらおたちの言葉に目をぐるぐるとさせている。

 正直、危ない洗脳の現場を見ているような気分だ。


「オレも一応は勧誘されたんだけどさ。なんか、自力で戦うのが美しいらしくて……」


 そう言うヒノキの表情には、特に暗いものはない。

 単純に、カルーアの様子を心配している様子である。


女傑の軍隊アマゾネス・レギオンからしてみればカルは金の卵ってことか……)


 女傑の軍隊アマゾネス・レギオンというギルドの特徴としてはその字面の通り、その構成員が全て女であるということが挙げられる。


 魔術師になる素質を持つ者の割合は男女で半々なのだが、しかし女性で魔術師としての道を歩もうという者は少ない。

 肉体を酷使する魔術師という生き方ももちろんのことだが、魔術師として活動を続けていくうちに背は伸長し、体の厚みは増し、筋肉の鎧を纏う。

 要するに、魔術師としての肉体へと進化してゆくわけだ。

 その姿はその姿で美しさがあるのだが、しかし一般的に理解されがたい美しさであることもまた確かである。


 そういった理由で女性の魔術師というのはかなり数少なく、第一線で活躍できるほどの女性魔術師、女性探索者というのはほとんど存在しない。

 その数少ない女性探索者たちの集うギルドが女傑の軍隊アマゾネス・レギオン、というわけだ。

 その実力は本物で、八階層の探索を一度だけではあるものの成功させている。

 要するに最深階層にすら通用する実力を持つ猛者たちの集団ということであり、他のギルドからも一目置かれている。

 今日のカルーアとヒノキの魔獣溜り殲滅における貢献は誰の目にもわかる十分なものであり、女傑の軍隊アマゾネス・レギオンとしては唾をつけておこうという考えなのだろう。


 耳をそばだてると、女傑たちのカルーアの勧誘、もとい洗脳は佳境に入っているようであった。

 ちょっと面白いので、そのまま見てみる。


「ほら、想像してごらんよ。冷え切った家で一人、男を待ち続ける。男は商売女に首ったけで帰って来やしない」

「幸せだった日のことが遠く思い返されて、かえって辛いってもんだよ……」

「アンタにゃそういう思いはしてほしくないねえ……」

「け、けど、ハイガさんなら……」

「そうやって信じるのもいいけどさ、案外脆いもんだよ信頼なんて」

「裏切られてからじゃ遅いのさ」

「だから今のうちに女傑の軍隊ウチにしときなって。ここなら、誰もアンタを見捨てやしないさ」

「ああ、あ、ああ……!」


 ぐらつきを見せるカルーアに、女傑たちは畳み込みにかかる。


「ほら、ちょっとここに拇印するだけでいい。後はアタシらに任せときな」

「アンタ、なかなかいい負のオーラが出てるよ」

「これならいいアマゾネスになれるよ」


 そう言ってどこからか取り出される契約書と朱肉。

 カルーアの手が朱肉に伸び、判が押され──


「カルをアマゾネスゴリマッチョなんぞにしてたまるか」


 ……まあ、ハイガが許すはずもないのだが。

 押される寸前の拇印を、ハイガの掌が押しとどめる。


「ハ、ハイガさん……?」


 虚ろだったカルーアの瞳に光が戻る。


「なんだいアンタは、この子の決断の邪魔をするんじゃないよ!」

「せっかくの一大決心、男なら黙って見てな!」


(…………)


 こう、なんというか。

 相手をするのが無駄な気がするので無視してカルーアに向き直ると、少女は瞳に涙を溜めている。


「ハ、ハイガさん……いつか私を捨てるんですか……? ボロ雑巾みたいに……?」


 ……いろいろと酷いことになっていた。

 カルーアの吐息から、酒が入っていることを確認する。


「いや、無いから。ほら、こっち来い」

「あっ……!」


 少々強引に自分の方にカルーアを引っ張り込み、膝の上に座らせると、少女はすぐに涙を引っ込め、ふにゃっと笑った。

 その様子を見た女傑アマゾネスたちに、動揺が走る。


「なっ……! この男、あたしらが作り上げた男性不信を一瞬にして破壊した……!?」

「こ、このオーラ……! あたしらの負のオーラじゃとても……!」


 徹夜明けみたいな女傑たちのテンションについていけないので、カルーアとヒノキを連れて部屋に戻ることにする。

 と、その去り際に、今までずっと沈黙を貫いていた女傑の軍隊アマゾネス・レギオンの副首領・ベローニアが声をあげる。


「待ちな……」


 足を停めたハイガの背中に、ベローニアの声がかかる。


「その子、泣かせるんじゃないよ」


 謎の雰囲気を醸し出すその迫力。

 ハイガは思わず姐さんッ! と言ってみたくなった衝動をグッとこらえ、右手でビッ! とサムズアップを残し、三人は部屋に戻った。


 ……無論、言うまでもないが。

 この場で素面であったのは、ヒノキただ一人である。





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