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18 一番いいのを頼む




 迷宮第二階層。

 他に人影のない荒地に、三人の人影があった。


「よし、それじゃあ新しい魔道具マギ・クラフトについて解説するぞ」

「……大丈夫ですよね? 爆発したりしませんよね?」

「おねーさん、爆発って? ……ちょっと待って、爆発する可能性とかあるの?」


 若干ハイになっているハイガと、魔道具の暴走を心配するカルーア、事情を呑み込めずに警戒するヒノキ。割とよく見られる光景である。


 ちなみにハイガとカルーアはいつも通りの軽鎧にマントという探索者ルックであり、ヒノキは普段着となっているメイド服ではなく、種々の加工により戦闘に耐えうる頑強さを備えながらもメイド服としての誇りを醸し出す特殊礼装、メイド戦闘服バトルクロスを着込んでいる。ハイガが一晩でやってくれました。


 ここ一週間ほど、ハイガはひたすら魔道具マギ・クラフトの製作に明けくれていた。

 カルーアもそうだが、ヒノキの戦闘能力は武器に依存する部分がかなり大きい。

 武器が出来上がるまでは無防備なままに迷宮に潜るというわけにもいかないので、実用に堪えうる武器が完成するまでは家の裏で模擬戦をしているだけだった。


 であるから体が鈍っているというわけではなかったものの、魔道具マギ・クラフトの動作確認もかねて、二階層という魔獣や障害物が少ない階層に来ているのである。


「大丈夫だ。……さすがに、アレは反省したからな。一応だが、少なくとも安全な動作をすることは確認している」

「なら、いいですけど」


 ほう、と息を吐くカルーア。前科を鑑みれば仕方のないことといえよう。


「さて……まずはヒノキの武装だが、こいつを見てみてくれ」


 ハイガが【限解保持ボックス】から取り出したのは……あえて表現するならば『取っ手のついた棒』だろうか。


 長さ70センチほどの金属製の棒の片方に、握りしめ、狙いをつけるためのグリップが取り付けてある。

 仮に、地球の人間がそれを見ればこのように表現することだろう……『銃』と。


 そう、それは銃であった。

 ほのかに蒼く輝く銃身には紋様が刻まれ、グリップにもまた別個に陣が刻んである。

 少なくとも形状だけは、スナイパー・ライフルと呼びうるものではあった。


 ただし。

 その武器と銃との相違点を挙げるならば、銃を銃たらしめる機構……つまり、トリガー、弾倉、撃鉄といったものが存在しないことだろう。


 よくよく見れば銃身は筒ではなく中身まで詰まった金属であり、銃口の部分には宝玉のような透き通った珠がはめ込まれている。『形だけを似せた銃』と評するのが最も正確といえるだろう。


「えっと、これは……何?」


 ヒノキが思わずそう呟いてしまうことも仕方のないことだ。

 基本的に魔術師による蹂躙が主体となるこの世界の戦争においては、いまだ銃火器は発達していない。

 いや、その原型は存在しているかもしれないが、肉体による闘争を是とする魔術師のこと、銃に注意を払うことはないだろう。


「カドゥケウスに取っ手をつけたもの……ですか?」


 不思議そうな声をあげるカルーア。

 その顔には、『取っ手なんていらない、そのままぶん殴ればいいのに』と書いてある。この少女は戦闘においては、基本的に脳筋なのだ。


「ま……まあ、そう見えるのも仕方のないことかもしれないな。結局、魔術陣を刻むのが俺だから、多少は似通ったものになる」


 連れの少女の脳筋思考に一瞬呑まれそうになった意識を修正しながら、ハイガが説明を続ける。


「だが、性能は全く違ったものになっている。ヒノキ、こっちに来てくれ」

「えっと、柄の部分を持てばいいの?」


 渡された銃もどきのグリップを掴んで、目の前に構えてみるヒノキ。


「……いいな。ガンメイドか。……いいな」

「おにーさん、何か言った?」

「いや、たいしたことじゃない。まず、銃口を……そうだな。あの岩に向けてくれ」


 ヒノキが指示通りに動く。そのスムーズな動きから、重量的な問題はないと見て取れた。


「こう?」

「そうだ。そして一点に狙いを定めて……」

「うん」

「『命中させる』という意識を持ちながら、【射出シュート】と叫べ」

「さ、叫ぶの?」

「ああ。後で話すが、この魔道具マギ・クラフトの特性上、発射のトリガーは厳密に決められた方がいい。だから音声認識にしたんだが……」

「そ、そうなんだ……」


 よくわからないままになんとなく頷かされたヒノキは、大きく息を吸い込み、対象の大岩のある一点を狙い、叫んだ。


「……【射出シュート】!」


 ……。


 一瞬、白けた雰囲気が漂う。

 ああはいはい失敗ですね爆発しなくてよかったというカルーアの視線が痛い。

 ヒノキは何も起こらないことに首を傾げ、振り返ろうとしたその瞬間――


 ドンッッ!


 ――爆ぜる音がした。


 ヒノキは眼を見開く。

 慌てて岩を見ると、狙った通りの場所が陥没、大穴が開いている。

 岩は砕け、濛々と粉塵を巻き上げ、尋常ならざる破壊力が加わったことを如実に示していた。


「おっ、おにーさん!? なにコレ……なにコレ!?」

「はっはっは、はははははははは…………!」


 動転して聞くヒノキ、高笑いするハイガ。

 その喜色を抑えきれないという様子からは、自慢の開発機を解説することに心よりの喜びを感じていることが、雄弁に感じとれる。


 目をカッ!と見開きハイガは解説する。


「見たか、これこそがヒノキの魔術特性を踏まえた上で最大の戦果を生み出し、なおかつヒノキの提案した『壊れにくい』という要素もできる限り勘案すべく、銃という武器につきものである摩擦破損、荷重破損、衝撃歪曲、銃身加熱、その他もろもろの疲労破損を全て回避しつつ30mm魔術加工済み鉄鋼弾を700~km/hで対象に無理矢理叩き込む、もはや銃という概念を捨て去った銃……!」


 ゴォッ!と怪気炎が吹き上がる。


「銘を『フェイルノート・スナイプ』――ヒノキの専用武装だ……!」


 しん、と静寂が辺りを包み込む。

 ハイガの放つわけのわからない熱気に、少女二人は気圧されているのだ。

 と、コホン、と咳払いが響き、上がり切ったテンションを放出したのか平常時に戻ったハイガが話を続ける。


「よし、それじゃあ詳しく用いられている魔術について解説するとだな……」

「いや、ちょっと待って! なんなの!? だからこの武器、いったいなんなの!?」


 ヒノキから待ったがかかる。

それはそうだ。結局、これが何なのか全くわかっていない。


「見たとおり。この武器……フェイルノート・スナイプは、ヒノキの狙った場所に、寸分違わず弾丸を放つ。言ってしまえば、それがこの武器の全てだ」

「よ、よくわかんないけど……この『増えるノート』は」

「『フェイルノート・スナイプ』だ」

「『フェイルノート』は、弓みたいなもの、ってことでいいのかな?」


 ハイガは首肯する。


「そうだ。……というか、最初は弓を作ろうとしていたんだがな。それじゃ結局、ヒノキの強みを生かしきれないような気がしてこういう形になった。……ダメか?」

「いや、ダメっていうか……」


 ヒノキは頭をかく。

 基本的に探索者としてやっていくことに精いっぱいであり、そのためならば手段を選べなかったヒノキであるから、この銃という武器を使うことに抵抗があるわけではない。


 しかし、ヒノキがこれまで弓という武器を使ってこなかったのは、飛び道具には必然、飛ばすものが必要であるからである。

 弓というのは、自分で矢が作れるならともかく、そうでもなければ金銭的に不自由な人間が使う武器ではないのだ。


 つまり具体的になにを言いたいのかと言えば、全く経験がない。

 と、そこに疑問の声。


「というかハイガさん……」

「なんだ、カル」

「そもそも、その武器からは弾丸なんて・・・・・出てなかったような・・・・・・・・・……?」

「いいところに気づいた」


 然り、とばかりにハイガが首肯する。


「銃にすると決めた後も、いろいろと課題があったんだ。ヒノキの能力『主観時間軸制御』をもっとも生かせるのは、間違いなく超高速度の、かつ相手の射程外からの攻撃だ。先手をとれるということは先制攻撃が完全に決まるということであり、身体能力的には補正が小さいから、一撃を受けたら戦闘能力の喪失が激しいからな。これに銃という武器の特性は完全に合致していたわけだが、いかんせん問題がある。……そう、物質を射出する・・・・・・・ということそれ自体だ。どうしたって空気抵抗はゼロにならないし、重力は影響する。だから、高速戦闘における長距離銃狙撃はほとんど成功しない。これこそが銃という武器が、その概念コンセプトと裏腹に根本的に負っている難点となるわけだ……ここまでは分かるな?」

「……よ、要するに、命中させることが大変だ、ということですか?」


 なんとか理解し、要約したカルーアにハイガは頷く。


「そうだ。ならば、どうやって解決する。……ヒノキならどうする?」

「えっ!? え、えーと……なんだっけ、『物質を射出すること』が問題なの?」

「ああ」

「じゃあ、たぶん……『物質を射出しないこと』……?」


 『自分でも何を言っているのかわからない』という様子でヒノキが放った言葉に、ビッ!とハイガが親指を立てる。


「正解。弾丸を放つ銃……ハッ、そんなものは時代遅れだ。当たらない弾丸に価値はない。撃ったならば文字通りの必中・・……それが銃という武器の目指すべき、目指さなければならない境地だ。……さて、ならどうすればいい? 『弾丸を射出せずに銃撃する』というこの矛盾……簡単だ。『何も存在しない地点から突然、物体が出現する』……この現象を、知っているだろう?」


 あっ、とカルーアが声をあげた。


「もしかして、【限解保持ボックス】ですか?」

「そのとおり。……つまりだな。この『フェイルノート・スナイプ』のおおまかな仕組みはこうだ。まず第一に、ヒノキの意識で命中させる対象を固定。第二に、『現在位置からその場所まで、理想的条件で弾丸が射出されたら』という条件を仮定。このときには空気抵抗も重力も考えない。本当の意味での理想条件だな。第三に、銃身に魔術陣として刻まれている専用の【限解保持ボックス】から弾丸を、対象前1mで出現。この時に、第二段階で仮定された『理想的条件における狙撃』条件を弾丸に適用ペーストする。……結果、回避不能、絶対命中の魔弾の完成、ということだ」


 つまり、銃であるのに実際には弾丸を撃たない……『もはや銃という概念を捨て去った銃』というわけだ。

 しかしこの説明に、もちろんのことだが少女二人は首をかしげるばかりであった。


「すみません、よく意味が……」

「つまりおにーさん、どういうこと?」


 この最後の最後でついてこれなくなった感じに若干の悲しみを感じながらも、ハイガは結論を告げた。


「この武器ならば、技量に関係なく、ヒノキが命中させたい場所に命中できるということだ……もちろん、動く対象が相手ならばどう動くかという予測が大切になってくるわけだが……ヒノキ、お前の能力なら得意分野だろう」







 試し撃ちをするヒノキの質問に時折応えながらその様子を眺めたのち、ハイガはカルーアに向き直る。


「さて、カルの装備の更新だが……」

「あ、はい。ヒノキちゃんの装備が凄くて、意識の外でした……どうなりましたか?」

「……正直、あまり直すところがない」


 ハイガが取り出したカドゥケウスには、大きく変わったところは見られない。

 ただ、少々変わっているのは……


「あの、なにか少し、表面が蒼くなっていませんか?」


 そう、鈍銀色であったカドゥケウスの表面が、僅かに蒼の光沢を帯びているのである。


「ああ、それはアレだ。竜の鱗を加工したらそうなった」

「なるほど、竜の鱗……えええ!?」


 思わずカルーアはカドゥケウスをとり落としそうになる。


「そ、それ凄いんじゃないんですか!?」

「ああ、まあな。……不壊属性と自動再生を武器に組み込もうとしたんだが、そうなると素材そのものの反応性がただの金属じゃ悪すぎてな。だから、竜の鱗を混入して形状維持と形状記憶の魔術陣を加えたらいい感じにはなったんだが……結局、素材の良さに乗っかっただけだからな。今一つテンションが上がらない」


 ため息をつくハイガ。

 竜の鱗の活かし方が分からないなどとぼやいていたくせに、いざそれが見つかるとつまらないと言い捨てるのだから難儀な男だ。


 一応、竜鱗はほとんど熱融解しないために竜鱗と金属の混合というのは、長い時間をかけて物理的に混合するという方法を除けば、魔術で直接組成に働きかけることができるという、あまりにも限られた人間にしか不可能なことではあるのだが。


「もしかして、ヒノキちゃんのフェイルノートが薄い蒼色なのも……」

「ああ、言ってなかったか? 同じように竜の鱗が混ぜ込まれている」

「い、いいんですか? 私たちの装備に、大切な竜鱗を使ってしまって」

「お前たちの方が大切だ」

「…………もう」


 照れて顔を背けるヒノキに、ハイガは苦笑しながら言う。


「だいたい、世界にはまだ四匹の竜が存在するんだろう? 必要になれば取りに行けばいい」

「そんな気軽に言わないでください……」

「まあ、冗談だ。俺もそんな気はないんだが……と。そうだ……」


 ハイガがまたもや【限解保持ボックス】からあるものを取り出す。

 それは……


「羽……ですか?」

「まあな……ちょっと見てろ」


 ハイガが取り出したものは、掌よりも小さいサイズの一枚の羽根……特徴といえば、深い蒼に染まっていることだろうか。

 それをハイガは己のくるぶしのあたりに押し付け、魔術で固定する。


「……アクセサリー?」

「そうじゃない。……いくぞ」


 その瞬間、比喩でなくハイガの姿がブレた。


「……!?」


 カルーアは己の眼を疑う。


(消えた……!?)


 魔術師として、それなりに戦闘の場数を踏んできたヒノキの眼力。

 それを以ってして対応できない事態。それを引き起こしたものとは――


「……と、こういうことだ」


 ――ただの、純然たるスピードであった。


「ハ、ハイガさん、どこに!?」

「いや、そういう魔道具なんだ、これは」


 目を横にやると、そこには制動跡を残しながら十メートルほど先から、こちらに歩くハイガの姿がある。


「ど、どういうことですか……?」

「そうだな……解説するとしよう」


 よっこらせとヒノキの横に腰かけるハイガは、どこか不満げである。


「この羽は竜鱗を加工して、魔術陣を圧縮刻印したものだ」


 くるぶしからその羽を手に取って見せる。

 蒼く輝くその様は、なるほど、確かにあの竜鱗から作られたものであろう。


「具体的にどういう動作をするかといえば、踏み込んだ瞬間に魔術陣が起動、竜鱗の特性――『魔術に対する超高反応性』だな。それにより、疑似的な超磁場を発生……『強力な指向性磁場を帯びた竜鱗がそこにある』という情報を、必要な部分・範囲だけ取捨選択して現実に張り付けた、という方が正しいか。このとき、地面じゃなく力場に接しているという虚構もトレースする。そして本来必要となる莫大な電流を、魔術によるエネルギー補填で賄う。……結果、発生するのが電磁作用による足場の一時的な浮遊と、推進力。これにより、人間……というか、生物を超えたレベルの加速が得られるわけだ」


 要するに、こう表現した方が早い……『人間を弾丸にして撃ち出す電磁砲レールガン』と。


「……すみません、さっぱりです。でも、とりあえず、その羽を使えばさっきのハイガさんみたいに、すごい速度で移動できるってことですよね?」

「……そうだな」

「じゃあ、なんで不満そうなんですか? ものすごく便利だと思うんですけど」

「……いや、まあ、なんだ。竜鱗の特性を活かすという部分では大満足なんだが……要するに、欠陥品なんだ」

「えっ? ……そうなんですか?」

「ああ。……アレを見てくれ」


 ハイガが指さしたのは、自らが作った制動痕である。


「正直、うまく運用するシステムが作れない。ただでさえ身体強化による保護が前提となる魔道具だから、今の俺じゃ使いこなせるとは言えない。旋回、停止……戦闘になれば、それらの要素が絶対に必要になってくる。その部分を解決できずに使用者に丸投げするのは、ある意味で敗北みたいなものだ」

「……なるほど」


 カルーアが神妙に頷く。もう一緒に過ごして数か月、この青年の妙な完璧嗜好はよく知っているのだ。


「それで……それらのことを踏まえた上で、だが。カル、これをつかってみてくれないか?」

「私が、ですか?」

「そうだ。今のところこれを使いこなせる可能性があるなら、それはカルだけだろう。俺はまだ身体強化の感覚に慣れて日が浅いし、ヒノキは身体強化が小さすぎて危険だからな……どうだ?」


 ハイガの眼はカルーアに試してほしくてうずうずしていることが駄々漏れだが、決して強制はしてこない。


(……まあ。そういう人なので)


 それを知っているからこそ、カルーアは断ろうとは思わない。


「……私の足に、それをつけてみてくれますか?」







 数十分後。

 そこには、呆けたように口を開けるハイガがいた。

 横には、同じくぽかんと口を開けるヒノキ。


「おにーさん、アレ……」

「ああ、なんなんだろうな。本当、なんなんだろうなアレ。正直、カルを見くびってた……」


 そこには、縦横無尽に駆け回るヒノキの姿があった。

 爆発的な加速。その力をある一点で急激に横へと変換、直角の変態軌道を描いたかと思うと、ジャンプ。

 そしてあろうことか、そのまま宙を踏みしめ・・・・・・・・・・更に高く駆けた・・・・・・・


「空、走ってるよ……」


 ヒノキのその声には羨望も交じっているが同時に呆れも交じっている。

 ハイガも似たような気持ちを抱きながら、考察する。


(理論上は、不可能ではない。……加速ベクトルの決定は使用者の意志によりなされるから、上下ににそれを向けることは、確かに可能。そして、踏み込みの瞬間には力場からの作用で浮遊・反発するから、確かに宙を踏み込むことは、可能。だが……)


 実際にやってのける奴があるか。

 ハイガはそう大声で言いたかった。


 だいたい、最初からおかしかったのだ。

 ハイガは初めて試した時、進むことすらできずにその場で転倒したというのに、スッ、と一筆書くように鮮やかに前進し、細かくステップを踏んで数メートルで停止。体が軽いということもあるだろうが、既にこの時点でハイガを超えている。


 そして首を傾げたかと思うと、次の瞬間には縦横無尽に加速、減速、旋回をこなし始めたのである。

 空を飛んだのはその二十分後だ。

 意味が分からない。


(カルの魔術特性は、平凡だ。確かに優れてはいた……が、身体能力の補正も精神能力の補正も、逸脱はしていなかった。……つまりこの結果は、カルがただ単純に、魔術師として活動する上での体の動かし方にとてつもない熟練度を有している、ということから得られているのか)


 さらに言えばカルーアは筋肉がつかなかったので、敵わない敵からは逃げる、敵う敵には速度で筋力を代替するという戦い方をし、その結果として高速度への適応性が非常に高かったことも大きなウェートを占めていることは間違いないだろう。


 ……ある意味で、ハイガには覆しようのない要素である。

 要するに、身体強化魔術の強度ではなく、使いこなし方の差なのだ。


 ハイガがいかな努力をしたとて、幼少期から魔術を使うことに慣れている……つまり、もはや感覚の一部になる、というレベルにまで魔術を使いこなすことは不可能である。


(……どうやって補うかな)


 とはいえ、ハイガはそれに絶望することはない。存在しないのなら創り出し、無理矢理実現させる。それはある意味で、ハイガの魔術師としての本懐なのだから。

 などとつらつら考えていると、目の前に降り立った影があった。


「……ハイガさん! これ、最高です!」


 もちろんのことカルーアである。

 少女の頬は上気し、髪は陽光を浴びて燦然と煌めく。ただ、その瞳の碧翠の輝きの美しさは、それすらも圧倒する。


「すごかったな、カル。正直、あそこまでとは考えてもみなかった」

「うん。もうなんかおねーさん、ちょっと人間やめてた」


 カルーアは息を整えると、ハイガに向き直って申し出た。


「ハイガさん。これ、私が使ってもいいでしょうか」


 その眼はどこまでも真剣である。少女は今、己の進化への一端を掴んだのだ。


「もちろんだ。銘は、そうだな――『翼持つ靴タラリア』でどうだ」

 ハイガがそう告げると、カルーアは微笑んだ。


「はいっ! ……大切にします。そして、いつか――」


 それは言葉にこそされなかった。しかし少女はこのとき、己の決意をはっきりと形にする術を見つけたようだった。


「よし……それじゃあ、武装はそろった。俺たちは、これから深階層を目指す」


 ハイガが改めてカルーアとヒノキの顔を見る。


「カル。お前は、タラリアで敵に迫り、カドゥケウスで打ち倒す」

「はい。どんな敵だって」


 少女は決意を抱いて頷く。


「ヒノキ。お前は敵を、あらゆる場所からそのフェイルノート・スナイプで撃ち滅ぼす」

「うん。……もらった命と武器、存分に使わせてもらうよ」


 少女は強さに憧れて頷く。


「そして、俺は全霊を以ってお前たちの隣に立つ」


 青年は欲求のままに進む。


「さあ、始めるぞ――!」











メイド服なら銃持たさなきゃ!(使命感)

というわけで、俺たちの冒険はこれから始まりそうな雰囲気の装備更新回でした。

タラリアについては突っ込まないでください。

もはや作者もハイガが何を言っているのかわかりません。

私はマジックか!(ロックハート風に)


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