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さらば、日常よ

「父様、何か用? 」


 パレードから一か月、俺は父様の執務室に呼ばれていた。執務室の中は質の良さそうなテーブルやソファが置いてあり、父様は部屋の奥で仕事をしていた。


「そこで座って待ってなさい」


「はーい」


 手前にあるソファに座った。ソファは俺の体重を受けてゆっくりと沈んで、丁度良い所で止まった。フカフカしていてずっとこのソファの上にいたいと思わせる、超一級の品だ。俺はソファを叩いてみたり、寝そべってみたりとソファを十分に楽しんだ。


「もう良いの? 」


「うむ」


 父様が俺の正面に座って来た。これから呼ばれた理由を説明されるのだろう。それよりも何の話だろうか。思い当たるのはこの前のパレードとパーティのことだ。パレードもパーティも俺の誕生日を祝う行事だったが、まだ誕生日プレゼントを貰っていない。ということは、きっと誕生日プレゼントをくれるはずだ。誕生日プレゼントか、現世では今まで一度も貰ったことがないけど、パーティとかも初めてだったんだ。誕生日プレゼントの可能性も十分あるだろう。


「話と言うのはな、お前も五歳になっただろう。だから、そろそろ渡しても良いと思ったのだ」


 え、本当に誕生日プレゼントなの。でも、今はそんなに欲しいものがないんだよな。自分の領地が欲しいとも思うが、今貰ってもどうしようもないしな。でも、何が貰えるのか楽しみだな。


「では、ついて来い」


 ここにはないのか。父様も焦らすな。まあ、良いか。楽しみは最後にとっておく派だしな。



 父様の後をついていくと、大きな塔の前についた。父様が歩いて行くと、騎士が扉を開けて敬礼をした。父様は軽く手を上げ、そのまま中に入っていった。なので、俺も父様に続き中に入った。螺旋階段をどんどんと上に登っていく。どれ位上っただろうか、もう目が回って酔いそうだ。父様に休憩を提案しようとした時に、漸く父様が止まった。


「バード、頑張れよ」


「ぜぇ、ぜぇ 」


 ここに来るまでに十分頑張ったと思う。階段が長すぎて何度諦めようと思ったことか、父様が何でも無い様に上って行くから我慢したけど、もう限界だ。それなのに、更に頑張らせようとするなんて父様は鬼だろう。


「息を整えなさい」


 言われなくても整えようとしているよ。それにしても、足が本当に思い。足が棒のようだとは、言いえて妙だと思う。本当にしんどい。


「では、入るぞ」


 父様が扉を開いて中に入った。父様が自ら扉を開くなんて初めて見たんじゃないかな。まあ、ここには他の人がいなさそうだし、仕方がないかな。俺は父様の後を追って扉をくぐった。


 部屋の中に入ると、父様以外にフードを被った人が六人いた。塔の中に入った時から薄々気づいていたが、どうやら父様は誕生日プレゼントを渡す為に俺をここに連れた来たわけではないらしい。では、何の為にここに連れて来たのかというと、恐らくあのフードを被った人達を俺に会わせるために来たのだろう。では、この人達は何者何だろうか。どこかの貴族との密会にしてもこんな塔の上に来なくても城の中で密会出来る場所はどこでもあると思う。


「では、自己紹介をしてくれ」


「はっ。では、一人ずつ紹介させてもらいます。まず、一番向こうにいる者がサンクです。サンク」


 俺から見て、一番左の人が一番右の人を手を向けると一番右の人物が一歩前に出て、フードを下ろした。


「サンクと言います。よろしくお願いします」


 サンクと名乗った人は坊主頭の男だった。右目の辺りに大きな傷があり、立っているだけで威圧感を感じる。体も見るからに鍛えていると分かる程に自己主張しており、それ以上鍛えたら筋肉が張り裂けるのではないかと言うほど張った筋肉をしている。


「隣がカトルです。カトル」


「はい、私がカトルと申します」


 カトルと呼ばれた人物は緑色の髪に所どころ白髪が混じっている爺さんだった。爺さんは街で見かけたら杖を持っていても不思議では無いくらいの猫背だった。爺さんは時々此方を見てくるのだが、その目が同じ人間を見ている様に感じない。まるで、何かの観察対象を見ているみたいだ。


「その隣がトロワです」


「トロワです。よろしくお願いします」


 トロワと名乗った人物は四、五十代の女性だった。橙色の髪に白髪が混じった女性で、城のメイドと同じ様な格好をしている。彼女は年齢に違わず、子供の俺が何をしても敵わない様な大人の雰囲気を醸し出している。


「最後に、私の名前はディスと言います。どうぞお見知りおきを下さい」


 今まで仕切っていた人がフードを下ろして挨拶をしてきた。彼は茶髪の三十代男性で、胡散臭い笑みを張らせている。見た瞬間にこいつは生理的に無理だと思った。他の人物も気味が悪い様に感じたが、この男は別格だ。見た瞬間から鳥肌が立ってしまった。今すぐこの場を離れたい、そう思って父様の方を見たが、父様は腕を組んで動く気配がない。


「では、後ろにいる二人が用意させた人物だな」


「その通りです、陛下」


 残り二人なんてどうでもいい。速くこの男の前から消えたい。父様のズボンの裾を引っ張るが、父様が無視してくる。それでも一人で動くのも怖くて城に戻ることも出来ずに、俺は父様の後ろで強く裾を掴みディスと視線が合わない様に父様の後ろに隠れた。


「では、見せてくれ」


「はっ」


 ディスが残っていた二人の人物のフードを取った。二人の人物は俺と同じくらいの年の少女だった。俺から見て右の少女は黒髪に紫色の瞳をしている。少女は美少女と言ってもいい顔立ちをしていて、今までに見た貴族の令嬢と比べても引けをとらないだろう。俺から見て左の少女は白髪に碧色の瞳をしている。此方の少女も右側の少女と同じで同じで綺麗なのだが、黒髪の少女よりも目がぱっちりとしている、可愛い系の美少女だ。そんな彼女達だが、現在はその魅力が大きく減少している。その理由は初めてあった俺でも分かる位に明白だ。彼女達の首には犬や猫が付ける様な首輪がある。


 奴隷、この言葉が俺の脳裏によぎった。前世の記憶ではニュースで何度か聞いたことがあるが、実際には見たことがない。俺の思う奴隷のイメージは人間が家畜と同じ、又は家畜以下の扱いをされるというものだ。そして、この扱いが起こる場所は常に争いがある。今までこの国で生きていた時は紛争、戦争も起こっていなかったし、食事に関しては地球と同じ様なものを食べていたから奴隷なんてカラアゲ王国には無縁なものと思っていた。しかし、そうではなかった。奴隷というのはカラアゲ王国に無縁なんじゃなく、王子として暮らしていた俺の常識が足りなかったのだ。


 彼女達から目を背けたくなるのに関わらず、彼女達を見てしまう。彼女達を見ていると俺のこれまで人生を否定された様な気分になる。実際にそうなのだろう。彼女達の両目は真っ赤に晴れていて、見るからに人生に対しての憎悪や諦めなどの負の感情を感じさせられる。彼女達の体は震え、口には猿轡をつけられている。


「では、また来る」


「はっ」


 奴隷であろう少女達を観察していると、父様の話が終わったようだ。父様が帰ろうとしたので、俺も父様の裾を掴んで逃げる様に帰ろうとした。


「バード、話を聞いていなかったのか。今日からお前はここで暮らすのだ」


「えっ」


 父様が何を言っているか理解できない。俺がここに住む、意味が分からない。俺が住む場所はここではない。俺が住む場所は城だ。温かいご飯を毎日家族一緒に食べることが出来る場所、忙しい日々であるが家族の笑顔が絶えない場所、良かったことも嫌なことも聞いてくれる家族がいる場所、そこが俺の家であり、帰る場所だ。こんな怪しげな人間がいる場所で何て暮らしたくない。


「分かったな。もう行くぞ」


「嫌だ。僕も帰る」


 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。ここにいたくない。ここにいても良いことは無い。ここは俺のいる場所ではない。今まで辛いことが有っても一生懸命にやってきた。でも、ここに住むことだけは我慢できない。授業の時間が今までより多くなっても良い、楽しくない社交界だって参加する。だから、ここには住みたくない。嫌なんだ、本当に本当に嫌なんだ。心の底から、魂の根源から拒否しているんだ。


「嫌だ、帰る」


 これだけは譲れない。拒絶されるのが怖くて父様の顔を見ることが出来ない。失望されただろうか、落胆されただろうか、それでも構わない。今までの様に家族と一緒に生活できるならばそんなことはどうでもいい。家族の期待も希望も裏切ることになろうとも、俺は家族と暮らしたいんだ。


「駄目だ」


 冷たい声が耳に響く、俺の全てを注いだ願いが打ち砕からる声。俺の想いが届かなかったことを示す声。辛い、心の底が一気に冷え込む。手が震える。


「いじゃだ。父じゃまがだべっで、ひっぐ、いっでもがえるもん」


 家までの道は分かっている。来た道を戻るだけで良い。階段を歩くのはきつかったけど、仕方がない。どっちにしろ帰る為には通らないといけない道なんだ。父様のことはもう知らない。嫌なことは嫌なんだ。それに父様は何時もそうだ。胃がもたれているって言っているのにに唐揚げを口に詰めてくるし、母様と一緒にいたいのに知らない大人と勉強をさせてくる。俺の言うことは何時も聞いてくれない。俺は悪くないんだ。そう、俺は悪くない。俺は父様から離れて扉に歩いて行った。帰って母様達や兄様に話を聞いてもらう。


「大人しく言うことを聞きなさい」


 父様の声を無視して前に進む。謝ってきたら聞いてあげないこともないが、悪いことをしたのに頭も下げずに話を聞いてもらおうなんて烏滸がましいにも程がある。俺はずんずんと家に向かって進んで行った。



「う、うーん。はっ、早く城に家に戻らないと。あれ、ここは」


 眼を覚ますと、俺の身体はベッドの上にあった。体を起こして周囲を見渡すと、見慣れた机や使い慣れたベッドがある。


「そうか、夢か」


 シーツや服が汗でびっしょりと濡れていて気持ち悪い。おねしょをしたわけでもないのに、こんなにシーツが濡れるなんて相当心にくるものがあったのだろう。実際、今思い出しても胸糞が悪い夢だった。夢は本人の深層心理が影響していると言うが、心のそこでは父様に捨てられることを恐れているのだろうか。考えてみれば、思い当たる節が無いこともない。父様は日頃から政務に忙しくて俺に構ってくれることは少ない。それに考えてみれば父様から肯定的な言葉を聞くことは少ない。例えば、初めてロドエ先生に褒めて貰った時に家族皆に報告したが、父様だけが褒めてくれなかったと思う。増長しない様にとか、これ位は既に出来ていないといけないとか、言っていた気がする。そんなことを言う父様を母様達が窘めたり、俺にフォローをしてくれるのが何時ものことだった。そんな父様でも謝る時は謝ってくれた。母様達は父様のことで暴走することが多いから子供である俺達三兄弟に被害がくることは多かった。特に服飾屋が城に召喚された時は、ひどかった。母様達は自分達が納得するまでありとあらゆる服を着せてくる、その時だけ俺や兄様達の影が薄くなっている様な気がする。母様達は三人で何度も何度も相談をし、父様にも何度も何度も試着姿を見せている。その時の俺は言えば、隅の方でエグル兄様に抱っこされたり、コロンボ兄様に本の読み聞かせをして貰ったりと、せっかく家族皆でいるのに子供と親で分かれてしまっている。あの時は食事の時にコロンボ兄様が自分達をほっといたことに文句を言ったり、エグル兄様が服を選ぶ時間が長いことに愚痴を言ったりして、母様達の代わりに父様が謝っていた気がする。その後は、必ず家族皆でお風呂に入るんだよな。


 とんとん。


 ノックの音が聞こえる。


 とんとん。


 ノックの音が聞こえる。


 とんとん。


 ノックの音が聞こえる。だが、声が聞こえない。おかしい、本来ならばノックの音の後に使用人が名乗ることになっているはずなのだ。それなのに、このノックをしている人物は名前と用件を言わない。これは異常なことだ。考えられることは一つしか無い。それは………新人メイドだ。一昨日はパーティ、昨日はパレード、どれも国をあげての行事で使用人が慌ただしく過ごしていた。きっと今日も忙しく働いていて、俺を起こすことになっているパイ爺の代わりに新人のメイドを遣わせたのだろう。全く、いくら忙しいとは言え、俺の寝起き係を変えるなんて言語道断だ。まあ、今回は許してやろうかな。


「はい」


「し、失礼します」


 俺が声を返すと、女性の返事が聞こえた。思った通り聞いたことが無い声だ。俺は新人のメイドが服を着替えさせやすい様にベッドから降りた。そして、部屋に入って来た女性達を見て、動きが固まった。部屋に入って来た女性達の声は聞いたことが無かったが、見たことはある。夢で出てきた首輪をした女の子達だ。


「どうして君達がここにいるんだ。ここは城だぞ」


 ここは俺の部屋で間違いがないはずだ。この毛布の肌触り、匂い、俺が間違うことはない。それなのに、何故彼女達がいるんだ。あれは夢だった筈だ。それはこの部屋が証明している。それなのに、何故。


「私達が奴隷だから、です」


「奴隷? そんなものは知らない。僕は今までずっと城にいたんだ。君達は一体誰に送られてきたんだ。いや、もういい。君達はもう送り主の元に帰ってくれ。気分が悪い。僕は気分が悪いからもう寝る。パイ爺達にはそう伝えてくれ」


「それは無理です。貴方の身元は私達が預かっていますから陛下達に伝えることは出来ません」


 声を聞いただけで体中から鳥肌が立つ。俺の身体が相手の声を聞いただけ拒絶反応を示している。この声の相手に会ってはいけない。出会ってはいけない。声すらもこれ以上は聞いてもいけない。来るな、来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな。


 カチャ


「漸くお目覚めになりましたか。それでは、素早く準備をして下さい。これからは私達の指示に従って貰いますからね」


「う、うあわ--------------------------------」


 そこには奴がいた。悍ましい笑顔を俺に向けてそこに立っている。一体いつからそこにいたのか分からない、死神の様に不気味な男。止めろ、これを見てしまったもう戻れない。あいつが来ると夢が崩れる。俺の安寧が無くなる。これからも何不自由無く母様達と暮らしたかったのに、皆の笑顔に囲まれて生きていきたかったのに、俺がそいつを見た時、幸せな世界が瓦解する様な音が聞こえた。


「がはっ」


 身体の中心から痛みが身体全体に回ってくる。何があったんだ。


「私を見ただけで意識を失おうとしないで下さい。それと、現実はきちんと見て下さい。貴方は私達に預けられたのです。これは変わることが無い現実です。貴方はこれから五年間、この塔で私達六人と暮らして貰います。陛下が許可したので拒否権はありません。では、朝食は出来ているので素早く来てください。ああ、その奴隷達は貴方のものですから好きに使ってくれて構いません。寂しかったら泣きつき、苛立ったら殴って下さって結構です。では、食堂で待っていますから場所は奴隷からでも聞いてください。では、失礼します」


 言うだけ言ってディスは部屋から出て行った。ディスが部屋を出て行って、俺には物理的、精神的な痛みだけが残った。取り合へず


「君達はいつまでそこにいるんだ。僕は自分で着替えるから速く部屋を出ろ」


「分かった、です」


「はい、です」


 幼女二人を外に出した。今の状況は理解できないし、したくない。でも、寂しいな。俺のこれまでの人生は無駄だったのかな。うん、無駄だったんだ。俺は父様に捨てられた。この事実は、ううん、考えたくない。

 でも………


「う、うわーーーーーん。え、っぐ、ええっぐ。う、うっ。ひ、ひひっひぐ。うわーーん、、うわーーん」


 別に悲しくないし、なのに、なのに、何で涙が出るんだよ。俺は今までも頑張ってきたじゃないか、こんなこといつもと比べれば。でも、困った時は何時も母様達が。でも、最終的には乗り越えたは俺の力だった。でも、愚痴や悩みを聞いてくれる兄様達がいなかったら………


「でも、ぼぐ、ひっぐ、がががんばっだんだぼん。うわーん、うわーん」


 俺は強いのに何で何で涙が出てくるんだよ。あいつが何かしたんだ、だから、だから、あいつが悪いんだ。



「遅いですよ。もうお昼ではないですか。次からはきっちりと指導していくので、今日みたいなことは無い様にして下さい」


「分かった」


 俺は今朝食と言う名の昼職を食べている。メニューは唐揚げとパンとスープだ。城で食べるのより明らかに美味しくないが、我慢している。


「聞きたいこともあると思いますが、まずは貴方がここですることと、自己紹介をします。良いですね? 」


「はい」


「貴方がここですることは私達の授業を受けることです。貴方の受ける教科と共にその先生をする人間を紹介します。まず、武器全般、特に剣を教えることになるのがサンクです。次に魔導全般を教えることになるのがカトルです。そして、その補助や貴方や奴隷の指導を主にするのがトロワです。最後に私、ディスが貴方に人心掌握術を教えることになっています。質問はありますか? 」


 始めに、ディスが隣で山盛りについだ昼食を食べている筋骨隆々のごつい男を指して言った。彼がサンクであろう。ディスが紹介しても無視して黙々とご飯を食べている。サンクと反対側のディスの隣に座っている爺さんがカトルだろう。彼は全ての食べ物を一口サイズに切った後にスプーンで食事をしている。そして、その隣で綺麗にナイフとフォークを利用して食事をしているのがトロワだろう。年齢に違わずマナーがしっかりと身になっている、カトルとは正反対だ。


「五年後には解放されるんだよね」


 今の俺にとってはこれが一番大切だ。五年間、俺が生まれてからこれまで生きてきた年月と同じだけの時間に耐えれば家族の元に帰れるとディスは言っていた。悲しみに撃ち滅ぼされそうになる俺に対しての唯一の希望が五年後に家族にあうことだ。会った時に何故このような仕打ちを俺にしたのか聞いて、父様を殴る。

 うん、殴る。


「ええ、五年後はもう自由です。ですが、授業の進みが遅い場合は変わる可能性もありますが、まずそんなことはないと思っています。まあ、貴方の頑張り次第ということにしましょう。それで、もうありませんか? 」


「もう一つだけ、彼女達のこと。何で彼女達がここにいるんだ」


 彼女達がいることは俺の精神安定上良く無い。こんな場所で生活していくんだ。俺の精神は徐々にやさぐられていき、彼女達にあたってしまうこともあるだろう。そうすれば、俺はきっと彼女達にあたったことに対しても落ち込んでしまうだろう。実際、先程彼女達にあたって今も落ち込んでいるのだ。


「彼女達は私の授業で使います。人心掌握術の学ぶのには他の人間がいた方が便利が良いですからね。ああ、彼女達を解放しろっとか言わないで下さいね。ここに連れて来た時から彼女達の運命は一生貴方の奴隷か、死かの二択ですから。それと、それはここを出てからもですよ。彼女達が奴隷から解放されていることが知られれば、暗殺者が大量に送りこまれるでしょうから。まあ、私は将来のことはどうでもいいのですが、今奴隷を解放しろっと言われれば面倒極まりないですから忠告しておいただけです。面倒をかけないで下さいね」


 ディスの話の途中から女の子の涙声が聞こえる。この声は誰の声なのか聞くまでもない。奴隷の少女達だ。彼女達は泣くのも無理はない。目の前で彼女達の生き死について話し合っているのだ。俺が彼女達でも泣かずにはいられないだろう。


「分かった。それで昼食後は何をすればいい」


「では、今すぐ奴隷の名前をつけて下さい。奴隷は奴隷になった時から名を失います。それでは授業に支障が出ますので、名前が付けて下さい」


 名前か、会ったばかりなのに名付けをするなんてペットに名前を付ける時と同じだな。人間に他の動物と同じことをするのは抵抗を感じる。抵抗を感じるが俺が何かを出来るわけでもないし、どうするか。暫く瞑想すると、漸くどうするか決定した。


「君達が奴隷になる前にあった名前はなんていうの? 」


 結局、俺は本人達に聞いてみることにした。名前はその人の一生に関わるものだ。それを昨日今日あった人間がつけるのは憚られる。彼女達も自身対して愛情も親愛も抱いていない人間に名前など付けられたくないだろう。


「私はニュア、です」


「ネクロ、と呼んで貰っていた、です」


 黒髪の女の子がネクロ、白髪の女の子がニュアだ。


「じゃは、君がニュアで、君がネクロね。ディス、名前は決まったよ。」


「では、授業を始めます。来て下さい」


 俺はネクロとニュアを連れてディスの後をついていった。



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