彼の選択
暑くて倒れそうな日が続きますね!
私、暑さに弱いんですよ・・・
残す所、世界は彼の居る城だけかと思う程に辺りは漆黒に染まり。
彼へとジワジワと無が迫る。
悔いは有るかと聞かれたら有る。
それだけが残念だ・・・と彼は小さく呟く。
諦めるに似た想いが彼を満たし、その眼を閉じかけた。
その時だ。
・・・よ・・・
・・・我が・・・とへと・・・
「・・・何だ?」
微かな、人間の声が聴こえてくる。
・・・我が・・・元へと・・・
顕現せしは・・・
次第に明確に聴こえてくる声は、彼の耳に届く。
男の声だ、その声は大きくなり。
彼を喜ばせる。
「フッ・・・ハッハハハハハ!幻聴か?だが、良いぞ。良い声だ、気力があり、精力的で、野心が声から滲み出ている・・・人の声だ・・・」
彼は久々に聞いた人のみなぎる生の声に気分を良くする。
最期に聴いたのは、全てに諦め。
虫の様な惨めな声だった。
だが、この聴こえてくる声は違う。
生きている人間の声だ。
希望があり、精力的で、気迫もあり、野心に満ちた。
男が聴きたかった人間の声だ。
我らが望みしは偉大なる大いなる力・・・
死をも払いし、全てを覆す大いなる力・・・
顕現せしは王・・・我が望みを聞き取り・・・
降臨せよ・・・
次に聴こえてきたのは女の声だった。
先程の野心ある。男の声ではない。
女の声は優雅で、色気があり。
自信に満ちた声だ。
「ほぉ・・・女か・・・良いぞ、声だけで判る。良い女の声だ」
男の顔に性的な興奮が現れる。
最期に女を抱いたのはかれこれ300年程前だっただろうか?
と、男は思い返す。
「はぁ・・・これが手向けか。悪くはない。
悪くはないが、ちと淋しいものだな・・・」
目の前の絨毯が消える。
残すは男と座る椅子のみとなった。
すると、どうだろうか。
男の足下に大きな陣が浮かび上がって来る。
陣は1つでは無い。
2つだ。2つの陣が足下に現れた。
「・・・何だ?この陣は?・・・視たところ。900年前に人間達が使っていた魔法の陣と似ているが・・・」
男は顎に手をやり、興味深く観察する。
だが、男の知識の中に。これと同じ物はない。
「・・・面白い・・・このまま消えるのも1つの道だが。ここまで私を呼ぶのだ・・・期待には応えたい」
彼は1つの陣に手をかざし、読み取る。
ふむ、これは男が創っている・・・野心家の男の陣か・・・
手を戻し、もう1つの陣へ手をかざす。
こっちは・・・女だな。あぁ・・・良い女の陣だ。
私を呼ぶ事に自信がアリアリと感じるられる。
ふっ、こちらを男と直感で感じたな?
手を戻し、暫し考える。
どうするか、どちらを選ぶ・・・
ふと。男は後ろを見ると、何やら小さい陣が浮かんでいる。
まさかの三つ目だ。
これには男も目を点にし、唖然となった。
「これは・・・これ程に存在感が無い陣が・・・いや、存在感がないのではない・・・」
男は余りの情けない陣に手をかざす。
これは・・・女・・・いや、少女か?
力が足りなく、これ位の陣しか創れなかった?
それにしても・・・
「なんと弱気な陣かッ!諦め・・・弱さ・・・卑屈・・・えぇい!腐った気がプンプンと臭ってくるわ!!」
男は余りの酷さに憤慨し、陣を握り潰した
次話にはあっち逝きます!
もぉいい加減あっち逝きたい