寂しい人
喫茶店のテーブルを挟んで向かいに座る女は、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
雄弁な表情を向けられた反対席の女は苦笑いを浮かべながらカップを手に取り、なみなみと注がれているコーヒーを飲んだ。不得意な苦みが口の中に広がって、琥珀色の飲み物がいつも以上にトゲトゲしく感じるのは気のせいだろうか。女は思わずため息をつきそうになるをぐっと堪えた。
向かいの女は、傲慢な正義を笠に着て、話しを続ける。
「寂しいじゃんか。彼氏いないだなんて。だって、もうすぐクリスマスだよ。寂しすぎ。どうするの?はやく彼氏見つけなよ」
薄笑いを浮かべながら、押しつけがましく捲し立てる向かいの女に、女は再び苦笑いを見せた。
何故に1人でいてはいけないのだろうか。何故に1人でいることをそれほどまでに否定するのだろうか。1人で居るならば生きている意味などないとでもいうように。何故に1人でいることをそれほどまでに寂しいと思うのだろう。1人でいることで得られるものもあるのに。1人でいることでしか見えないものがあるというのに。
女は不思議に思っていた。
何故に寂しさを知ろうとはしないのだろうか。寂しさを感じる己の心と向き合ったりはしないのだろうか。
自分の寂しさに目を背けて、他人の存在で心を埋めて、1人でいる人間を惨めだと見下し、然も1人ではない自分は上等な人間だと振る舞ったなら、寂しさは存在しなかったことになるのだろうか。それを幸せだと思えるのだろうか。
そうやって、自分さえも顧みることができない人間が、どうやって他者を知るというのだろうか。寂しい心に押し込められた人は幸せだと思えるのだろうか。そもそも誰かへの想いは寂しさの代用品なのだろうか。
自慢話に花を咲かせる向かいの女から解答は得られないと女には分かっていた。だから問うこともなく女は沈黙に暮れる。どれほど長く場を共有しても、視線を、言葉を交わしても、知り合うことが出来ない人間がいることを女はすでに知っていた。
ただ時の過ぎゆくのを待ちながら、女は寂しさを心に抱いた。口内に残る苦みは後を引いて、煩わしく。




