oh,no no 妹子 wake me up not
深海について。
闇の中にいる。黒と黒と黒と黒の世界は、上下左右すら存在しない。
沈んでいく。それによって僕は初めて自分が海中にいるのだと気付く。
息苦しさは無い。僕は既にこれが夢だということを知っている。ーー知ってしまっている。
それでもこの夢が覚めなければいい、と僕は思う。皆が皆、こぞって重きを置く現実というものは、この深く昏い海の中よりもずっと息苦しいから。この眠りと夢こそが僕の救いだ。
しかしその僕の、安息の眠りに割り込んでくるものがある。ーーそれは声。声は音、音は振動、振動は波になり、海を揺さぶって僕の眠りを妨げる。そうして眠りは浅くなって、僕は急にこの海が息苦しくなってしまう。少しばかりその場でもがいていると、誰かに救ってもらいたくなる。さっきまではこの海こそが救いだったのに、僕はもう新しい救いを求めている。そして僕はこの海から掬われる。このどこか懐かしく、美しい声に。
「おはようございます、兄さん。」
「おはよう、ーー」
随分と体が重い。長い間、本当に長い間眠っていたような気がする。こうしてまた、僕の退屈な日常は始まるのだ。