安堵の息
二週目。
三番手:独りっ子
彼はピアノがある部屋から出た彼女を追おうとした。しかし、その脳内は先ほどの彼女の言葉が占めていて、足を止めてしまった。
「どこの誰だか知らないけど、私の晃大を諞らないで!!」
思い出されたのは、怒っていた彼女の言葉。
思慮深い彼は、落ち着き始めた今、先ほどの健に関しての思考を働かせていた。まず、誰かはわからないけど、晃大というのが彼女と仲のいい人物の名前なのだろう。
「誰でもいいでしょ!? 何で私の前に! その顔で! 晃大の顔で! どうして……! どうして……ッ」
その顔で。ということは僕の顔は晃大という人物にとても似ているのだろう。そして、何で私の前に! と言っていたなあ。多分彼女と晃大は喧嘩か何かが原因で別れてしまったのだろう。
彼はそんな結論を導き出していた。
そして彼はすぐにピアノのある部屋を出た。先ほどの彼女に会って誤解を解くために。
「っ」
部屋から出た彼女はわけもわからず**タワーに走っていた。何の考えもなく、ただただ無心に。しかし、彼女に運動神経はなかった。なので、息を切らしながら走っていた彼女に、彼は簡単に追いつき、声をかけた。
「あ、あの……」
彼も全力で走っていた。だからなのか、息を切らして吐いた言葉はとても頼りなく聞こえた。焦っていた彼女も、彼の途切れ途切れな声にくすっと笑みをこぼした。
私は何を焦っていたのだろう。私は何に怯えていたのだろう。
彼女の心に届いた彼の言葉は、彼女の凝り固まっていた概念を壊した。波をうつように、じわじわと。
「さっきはごめんなさい。あなたが亡くなっている私の彼氏、晃大に似ていたから思わず叫んじゃって」
彼女は先ほどの騒ぎが嘘のような態度で彼に話しかけた。諭すような口調に彼は、良かった、とため息をついた。
「いえ、落ち着いてくれたなら嬉しいです。それで……突然ですみませんが、僕のこと、知ってますか?」