嘘とあなた
二週目。
二番手:アイス棒
「嘘……でしょ」
彼女の中で、こんなことあるわけない。いや、でもあれは……。と気持ちが暴れ回る。
彼に、会いたかった気持ちが。彼に、焦がれすぎた気持ちが。
だが……遺骨を納めたことを思い出してしまう。
そう、こんなことあるわけないんだ。
彼女が迷いの果てに導いたのはその結論だった。
だとしたら、性質の悪い冗談だ。
彼と同じ顔の、今目の前でピアノを弾いている人間は。
死者への冒涜。そして何より、彼女にとっては楽しかった日を思い出させ、悲しみを濃くする……まさに、思い出を汚す行為だった。
「止めてよ……」
気づけば彼によく似た人間のところに歩き出していた。
「止めて……」
ふらふらと。
「……止めてよ……!」
彼に似た彼は、ピアノから手を離さない。いや、聞こえていないのだろうが……
「止めてって言ってるでしょ!!」
彼女の気持ちの導火線は、もう怒りの雷菅に届いてしまった。近くにあったピアノに腕を叩きつける。
不協和音が、演奏を乱す。なり響く“嫌な音”。
だが、その不協和音でさえ彼女の心の不協和には敵わなかった。
「どこの誰だか知らないけど、私の晃大を諞らないで!!」
「あなたは……?」
「誰でもいいでしょ!? 何で私の前に! その顔で! 晃大の顔で! どうして……! どうして……ッ」
「晃大、さん? それは誰なんですか? いえ、それより僕、貴女に会ったことがあるような……?」
彼の頭に先程浮かんだ光景が再び甦る。あの女性は、確かにこの人だ。
もしかしたら僕を教えてくれるかも、と彼は訊ねる。
「あの、僕を知っていますか?」
「知っていますか……って? 知らないよ……あなたなんて……」
今の彼女には情緒不安定という五文字がよく似合っていた。彼女の頬を、涙が伝う。
晃大……。
自分も骨を納めた。彼はもう死んだ……彼女は自分にそう言い聞かせた。
そして、そのように行動した。
だが……彼女の胸には、もしかしたらという希望の光も宿っていた。
完全に無意識の産物で、彼女はそれに気づかなかったが。
彼女は無言で店員のところまで歩いていき、先程の行動を謝ってから出口に向かう。彼女にも、彼の顔を見ていたら涙が止まらないだろうことがわかっていたからだ。
「待ってください……! 僕のこと、知ってますか? 知ってたら……!」
バタン、と彼女はドアを閉めた。