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ミステイクファンタジー  作者: 鈴木拓郎
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41話

 勇者は崩壊した氷の塔から落下しながら心の中で絶叫していた。


「(ぎゃあああああああああああああ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!??)」


「(……まったく何やってるんですかホントに……私のときめきを返してくださいよもう……)」


「(お前のときめきなんか知るか!!! それよりマジでこのままだと死ぬんだけどッ!?)」


 氷の塔は非常に高く、最上階から転落すれば潰れたトマトのようになることは目に見えていた。ゆえに頭から落下していた勇者は空中でバタバタと手足を動かし醜くもがいているのである。


「(大丈夫ですよ。落ち着いてください。勇者様は炎の属性を持っているんですよ? 炎の推進力で空を飛べばいいんですよ)」


「(そ、そうか! その手があったか!)」


 勇者は意識を集中させ炎が体から噴き出るイメージを鮮明に思い描いた。その結果、魔力はそれに応え炎が体から噴射されるが――。


「(――よしこれで――ァァァァあああああああああああああああああああああああああ!!??)」


 足から炎が噴射され勇者の体は地面に向けて急速に落下し始める。


「(何やってるんですか!? 頭から落ちてるのになんで足から炎出すんですか!? 普通手から出すでしょ!? 死にたいんですか!?)」


「(しょ、しょうがないだろぉぉぉぉぉぉぉ! 炎を出して空飛ぶって言うから鉄腕ア〇ムみたいなイメージしちゃったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ! 俺は悪くない! ア〇ムが悪い!)」


「(そんなわけないでしょ!? 悪いのはア〇ムじゃなくて頭ですよ!!!)」


「(なんだとこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??)」


 こんな状況だというのに喧嘩を始めた勇者とトイレブラシだったが、地面に激突するまで時間はあまり残されていなかった。



 一方その頃、氷の塔が崩壊したことによりフリードも最上階から落下していた。しかも先に落下した勇者よりも早く落ちていたのである。だがその表情は余裕に満ちていた。その理由は落下と同時に瞬時に纏った氷の鎧。鎧の外側は鉄よりも遥かに硬い氷で覆われており落下の衝撃で壊れることはないだろうと思われた。そして鎧の内側には魔力で出来た特殊な水の膜が張られており落下の際の衝撃はその膜によって吸収される仕組みになっていたのである。


(……まさか塔の弱点をあそこまで的確についてくるとはな。やはり奴は只者では無いようだ。しかし問題ない。俺自身はまだ目立った傷は負っていないのだから)


 戦闘継続可能。そのうえフリードにはまだ使っていない切り札があった。だからこそ余裕があったのだ。


(……奴は確かに強いが……氷の塔を破壊したことは悪手だ。先に地面に着地し空中で無防備な奴に攻撃すればケリはつく。意外と呆気なかったが、これで終わりだ。奴を捕え、この『呪界』の謎を解き明かす)


 氷漬けになった勇者の姿を夢想したフリードは冷たい笑みを浮かべながら勝利を確信していたが――。


「――ッ!?」


 ――天からバカ襲来。


 凄まじい勢いで勇者が落下し、その剣をフリードの鎧に突き立ててきたのだ。


(なんだ、何が起き――ぐッ!!!)


 氷の鎧を突き破り腹部に灼熱の剣が突き立てられる感触を感じながら、フリードは何が起きたのかここでようやく理解する。


(炎を噴射し俺に追撃を……まさか考えを読まれたのか!?)


 背中から落ちることを想定し、氷の密度を背後に集中した結果、鎧の腹部は他よりも確かに薄くなっていた。そのうえフリードが勝利する余韻に浸っていた隙をついての急襲。油断、慢心、驕り――全てを見透かすように完璧なタイミングで行われた一連の行動に戦慄していると、さらに勇者の剣が深く押し込まれた。


(ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?? マズイ、このままではッ……)


 なんとか氷を腹部に集中し剣が臓物に達することを防いでいたフリードだったが、もう間もなく地面に激突することを悟りさらに混乱してしまう。腹部の剣と背後に迫る地面、どちらからも己の身を守らなくてはならない。だがどちらかを強固にすれば別の部分の氷が薄くなってしまう。ゆえに腹部か背中、どちらを守るか決めなくてはならなかった。


「――ふざけるなッ!!! こんなところで終わってたまるか!!! 俺は祖国を、アイオンレーデを救わなければ――」


 言っている最中に剣の力が突如増した。原因は赤毛の剣士の背後で起こった爆発。何らかの魔術で自身の背後を爆破することでさらに加速した勇者によってフリードの腹部は貫かれその勢いのまま地面に激突する。その結果、両者は互いに吹き飛び転がってしまう。


 しばらく二人は倒れていたが、最初に立ち上がったのは勇者だった。剣を支えに立ち上がった赤毛の剣士を見て全身から血を流したフリードは吐血しながらも身を起こす。


「……わずかな油断でこれほど追い詰められるとはな……どうやら俺は……お前を心のどこかで侮っていたようだ……」


 そうして幽鬼のように立ち上がったフリードは勇者を不気味な笑顔で見据える。


「……だが俺は負けない……負けられない……アイオンレーデを救うために……」


 その言葉と覇気と共にフリードの魔力が爆発的に膨れ上がり空気が凍り始める。


「……勝つ……たとえどれだけ周りに被害が出ようが……俺は、勝つ――」


「――いいや。ここまでだ、フリード」


「な――ぐッ!?」


 気が付くといつの間にかフリードの背後に人が立っていたのだ。そしてその人物によって殴打されたフリードは勢いよく倒れ込む。


「……なぜ……お前が……ここに……」


「君の氷を解除したからに決まっているだろう。まったく、とんでもない量の魔力で固めてくれたものだ。おかげで脱出するのに時間がかかってしまった。だが……なんとか間に合ったようだ。後のことは任せて隊長たちのところに戻れ」


「……ふざ、けるな……俺はまだ……」


「その傷では無理だ。普段の君ならばこんなにあっさりと背後を取られることもなかったはず。それほどまでに君は弱っているんだよ」


「ぐぅぅぅぅぅぅッ……」


 なんらかの魔術を使ったその乱入者によってフリードの体は徐々に消え始める。それを忌々しい目で睨んだ後、完全に消える刹那、怨嗟の声が響く。


「レオンニィィィィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!」


 その声を涼し気な顔で受け流した金髪の騎士レオンニールは勇者と向かい合う。


 こうして再び邂逅した二人の戦士は運命に導かれるように剣と槍を構えたのだった。

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