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ミステイクファンタジー  作者: 鈴木拓郎
38/42

37話

更新すると言っておきながら大幅に遅れてすみませんでした。

 氷像を全て撃破した勇者たちは塔を上っていた。


「(ったく散々な目にあったぜ……)」


「(もう、いつまでも文句言わないでくださいよ。ちゃんと美少女回復魔法をかけてあげたじゃないですか)」


「(何が美少女回復魔法だざけんなッ! 俺の体無理矢理操ってそこらじゅうの関節バッキバキに曲げて無理矢理もとに戻しただけだろうがッ! 痛みのあまり脱糞するかと思ったわッ!)」


「(うわーバッチぃですねぇまったく……)」


「(そのバッチぃのを掃除すんのがてめーの存在意義だろうがッ!)」


 回復(物理)によって肉体を修復した勇者は氷の階段を駆け上り、ついに次の階層への扉を見つける。


「(やっと次の階か。……っつーか、この氷の眼玉はいつまでくっついてくんだよ……)」


「(おそらくこの塔にいる限りずっとついてくると思いますよ。監視カメラみたいなものですからね)」


「(うっとうしい……喋るトイレブラシのようにうっとうしい……)」


「(そうですね――ってちょっと待ってくださいッ! それってあれですか私が鬱陶しいってことですかうざいってことですかッ!? 百歩譲ってウザいとしてもそれはウザ可愛いというやつで――)」


 背後に浮かぶ目玉と喋るトイレブラシを無視した勇者は氷の扉を開ける。扉をくぐると先ほど氷像が襲って来た部屋よりも広い空間に出た。そしてその中央に佇む大剣を持った全長三メートルほどの氷の騎士は勇者が現れるなりその剣を向けて来た。どうやら次の対戦相手らしい。数は一体のようだが、先ほど襲って来た氷像とは明らかに違う存在感を放っていた。


「(……おい便ブラ。あいつさっきの奴らより強くね?)」


「(……ええ。込められている魔力が先ほどの氷像とケタ違いです。注意してください)」


「(はッ、どんだけ強かろうが先手必勝だぜ! さっきはいきなり襲いかかってきたから出来なかったが、今なら最初に撃てる! 食らえ――『冥王紅炎斬撃波』!!!)」


 勇者が炎の斬撃を連続して放ち騎士に直撃した瞬間、爆炎が周囲を包み込むも――。


「(……なん……だと……)」


 ――炎が消えても氷の騎士には傷が一つもついていなかった。


 それを見たトイレブラシは考察する。


「(……なるほど……この塔同様相当強力な魔力で作られていますね。このままではおそらくいくら撃っても傷一つつけられないでしょう)」


「(ちょ、じゃあどうするんだよ!?)」


「(落ち着いてください。方法はあります。あの氷の騎士やこの塔は強力な魔力によって物質化しています。そして強力な魔力によって物質化した物体には必ずコアと呼ばれる核を元に構成されるんです。ですからそのコア目がけて全力の魔力を込め至近距離からぶつけ破壊すれば……)」


「(あの氷の騎士をぶっ壊せるわけか! 見た感じそれっぽいのは――)」


 勇者が氷の騎士の手足や胴体、頭を注視すると、頭のあたりに赤いこぶし台の宝石のようなものを見つけることに成功する。


「(――あれか)」


「(ええ。ですがその弱点は敵も警戒しているはずですよ)」  


 勇者たちが警戒しているとなんと氷像が喋り始める


「戦う前に聞きたいことがある。貴様がこのウルハに『呪界』を張ったのか……?」


「(……人形がなんか言ってるな)」


「(おそらくさっきのオート制御の人形と違って直接操っているのでしょう。だからこれはあの騎士を操っている方の声だと思います)」


「(つっても相も変わらず翻訳機能は絶好調にバグってるみたいだけどな……まあ回復したとしてもいつもアイツらが俺の美しい顔をディスってきやがるからまともな会話になんかならねえけど。ん……まてよ、てゆーかこの流れは……)」


 勇者の考えが正しいとでもいうように耳にノイズが聞こえ始める。


「(……あーこれはあれですね……いつもの流れですね勇者様の顔面酷評会ですね)」


「(この野郎上等だよ!!! 俺の顔面にクソみてえなレビューをした瞬間にてめえは砕け散るぜ!!!)」


 そして勇者の怒りなど知らないと言わんばかりにフリードは喋り続けた。直後いつもと同じように始まる誤翻訳。だが今回は以前とはわけが違った。


「……答える気はないか。レオンニールたちの証言どおり、というわけだな。まあいい。それならば力づくで聞き出すまでだ。かかって来い、完膚なきまでに叩きのめす」

 ↓

『お前すごいカッコいい顔してるな。今まで俺が見て来た人間の中でも最高に良い男だ。どこの読者モデルかってくらいの超絶イケメンだ。まさに神が与えた芸術品』


 なんと今までとは違い勇者の顔面を褒めて来たのだ。それに対して勇者は――。


「(おいおいおいなんだよぉぉぉぉぉぉ!!! わかってんじゃん!!! 超うれぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!)」


 ――歓喜した。


「(うぇいうぇいうぇい聞いたか便ブラ! 今まで見た人間の中で俺が最高だってよッ!)」


「(彼は今まで人間を見たことがないんでしょうか……)」


「(どういう意味だてめえコラッ!? ……ふ、まあいい。所詮掃除用具の戯言。お前程度ではこの俺の美しさを理解できるわけがないからな。だが彼は違う――さあほら、ほらほらほら。もっと言ってみ。この俺の美しさとかっこよさと切なさを)」


 勇者は不用心にも氷の騎士に近づいて行った。


「(ちょ、勇者様不用意に近づかないでください危険ですよ!)」


「(うっさいわい! 近づかなきゃかっこ可愛い俺の顔が彼によく見えないだろう!)」


「(大丈夫ですよ遠目でもはっきりブサイクってわかります!)」


「(てめえから先に始末してやろうかッ!?)」


 勇者は心の中で怒鳴りながら氷の騎士にさらに近づく。目的は一つ。さらに褒めてもらうために。


「(……ったく。まあいいか。目の前の彼が言っているように俺は選ばれしイケメン。イケメンはちょっとやそっとのことではキレないのSA☆)」


「(いつもすぐブチ切れるくせに……沸点の低さと偏差値の低さって比例してるんでしょうか……)」


「(なんか言ったかコラ)」


「(な、なんでもないですぅ♪)」


 勇者が心の中でドスの利いた声を出していると氷の騎士が再び喋り始める。


「さあ、どうした。もっと近づいて来い。その剣は飾りではないだろう」

 ↓

『なんて美しい顔なんだ。表現しがたいほど美しい。だがあえて表現するなら』


「(お、なんて表現する気かな? 言ってみ? 期待しちゃうぞ☆)」


 勇者はさらに敵に近づく。


「そうだ。さあ来い。いいぞ、お前は――」

 ↓

『ああ、あれに似てるな。そう――』


「(どんな顔だ? あれかジャニーズ系かな? いや、もしかしたらもっと渋い感じのイケメンかにゃ?)」


「(私としては糞みたいなレビューをしてほしいんですがね。その方が勇者様の戦闘能力がなぜか上がりますし。どうせ不用意に近づくならいつもの勢いで押し切っていただきたいです)」


「(バカ言ってんじゃないよお前は! 彼は俺をここまで褒めてくれてるんだぞ? この状態で糞みたいなレビューをするわけが――)」


 勇者は近づきながら自身に適した美しい表現を期待し、そして――。


「――俺が必ず倒す」

 ↓

『――まるで馬の糞みてえな顔だな!』


「(やっぱりぶっころぉぉぉぉぉぉすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!!!!!)」


 ――期待を裏切られ突貫しようとしたが――。


「(――う……)」


 ――なぜか途中で動きを止めてしまう。


 その様子を見たトイレブラシは疑問に思い声をあげる。


「(……あれ? どうしたんですか勇者様。馬の糞みたいな顔面のレビューをされていつものように猪突猛進すると思ったのに……)」


「(…………)」


 しかしトイレブラシの言葉に勇者は反応せず沈黙が続く。いよいよおかしいと思ったのかもう一度聖剣モドキは声をかけた。


「(え、ほんとうにどうしちゃったんですか勇者様。いったい何が……)」


「(……ら……が痛い……)」


「(え? なんですか? もう一回言ってください)」


「(腹が……痛い……)」


「(……はい?)」


「(だから……腹が痛くて……う〇こが漏れそう……)」


「(……はああああああああああああああああああああああああ!!??)」


 勇者の腹が鳴る音と共にトイレブラシの奇声が脳内で響き渡る。



 一方氷像を通して勇者を見ていたフリードは突然動きを止めた赤毛の剣士に対して怪訝そうな表情になる。


(……なぜ動きを突然止めた……まさか……トラップの位置がバレたのか……)


 勇者の一歩手前には踏み込んだ瞬間下から氷の槍が飛び出るトラップが仕掛けられていた。だがそれは巧妙に隠され決してバレないように配置されていたのだ。


(……ありえない……絶対にバレないように仕込んだ……気づかれるはずはない……だが……こいつは現に動きを止めてこちらの様子を窺っている……どうなっているんだいったい……)


 フリードは歯噛みしながら無表情の勇者を氷の氷像を通して憎々し気に見つめた。



 一方偶然に助けられた勇者はそんなことは露とも知らずトイレブラシと喧嘩していた。


「(ちょっとちょっとなんで唐突に今漏らしそうになってるんですか!? あり得ないでしょう色々と! いくら顔面に糞見たいな評価を下されたって腹を下して下のお口から糞を吐き出すとかマジであり得ないですよ!?)」


「(しょうがねえだろが! さっき王都で飯食った後に凍らされたり、こんな寒い場所に長時間いたせいで腹が冷えたんだよ! さっきもお前のせいで脱糞しそうだったし兆候はあっただろ唐突じゃねえ! つまり俺は悪くねえ! つーか……ま、マジでヤバイ……も、漏れる……)」


「(ちょ、ここで漏らすのはやめてくださいよ!? なんとか我慢してください!)」


「(我慢できねえからこうなってんだろうが! そ、そうだ! 便所だ! 便所を探そう!)」


「(いやこんなところにトイレなんてないでしょ……)」


「(いやあるだろ! ほら、ここの塔を作った野郎だって人間なんだし、長時間こんなところにいたら催すだろ絶対! んで大抵こういう塔っぽいところの最上階にボスキャラはいる、つまり野郎は頂上にいてトイレも頂上にある! QTE証明終了!)」


「(QTEってなんですかQEDでしょ……どんなガバガバ理論ですかまったく……というかたぶん金髪のイケメンさんのお仲間だと思いますし、当然イケメンでしょうからそういうものは作ってないかと……)」


「(バカ野郎イケメンだってう〇こするんだよ俺を見てみろ! わかるだろ!?)」


「(まったくわからないです)」


「(なんでだよ!? くっそもういい、とにかく俺は頂上を目指す! 頂上の便所を目指すんだ! うおおおおおおおおおおおお――ぐ、おおッ!?)」


 勇者は氷の騎士を無視して先を急ごうとしたが、やはりここで腹痛が起き真っ直ぐ進めずよろよろと横に行ったり斜めに進んだりとかなり無茶苦茶な方向に進み始める。トイレブラシはそれを見てため息をついた。


「(……勇者様……そんな変な動きやめてくださいよ……敵の騎士さんもなんか体を震わせてますよ。あれ笑ってるんじゃないですかね)」


「(な、なんだと!? 人の腹痛を笑うなんて、どんだけ性格が悪いんだこんちくしょう! 人の顔を馬の糞呼ばわりするだけあってとんだクソ野郎だぜ! こうなったら糞に代わってお仕置きしてや――あ、あ、あああああああああああああああああ!?)」


 肛門を引き締め直した勇者は再び酔っ払いのような動きで前に進み始めた。



 一方、氷の騎士を通して勇者の動きを見ていたフリードは戦慄していた。


(……なんてやつだ……床に仕掛けていた起動式の魔術をことごとく避けている……)


 そう、偶然が奇跡的に重なり勇者はトラップを避けることに成功していたのだ。よってただ糞を漏らさないように歩いているだけの低脳に対してフリードはその認識を改めざるを得なくなった。


(……く……設置タイプの魔術は近すぎると暴発する恐れがあるためある程度距離を離さなくてはならない……ゆえに進むルートは確かにあるが……まさか初見でここまで的確に見抜いてくるとは……)


 違う、ただ糞を我慢しているだけである。


(こいつどうやって見抜いている……俺の魔力隠蔽技術で魔力の痕跡は完全に消しているはずだ……まさか……レオンニールたちの報告にない能力を隠し持っているとでも言うのか……!?)


 違う、ただ糞を我慢しているだけである。


(……トラップはもう効かないと思った方がいいなこれは……いいだろう……ならば……この騎士の力で直接貴様を倒し捕らえるッ……!)


 フリードは氷の騎士の剣を上段に構えるとやってくる最強の敵――と勘違いしている下利便野郎を待った。



 勇者は千鳥足でとうとう氷の騎士の前にたどり着く。


「(……勇者様……なんだかんだでこのフロアのボスの前に来ましたよ。気合入れてください!)」


「(気合入れたら漏れるけどそれでもいいか……)」


「(すみませんやっぱりやめてください。普通に戦いましょう)」


 即座に前言を撤回したトイレブラシは勇者に告げる。


「(勇者様。敵は後一歩踏み込んだらこっちに攻撃を仕掛けてくると思われます。注意してください)」


「(よ、よし……便意も今は奇跡的に落ち着いてきている……今なら行ける気がするぜ……ここで決めるしかなさそうだな……)」


 勇者は剣を構えると、深呼吸をした後踏み込む――。


「(うおおおおおおおおおおおおおおお――お……!?)」


 ――だが気合を入れたせいか最悪のタイミングで腹痛が再び起こってしまった。



 フリードは勇者の動きを注視しながら氷の騎士の剣に全魔力を集中させる。


(……全ての力を一撃に込める。もはや生け捕りなどという甘い考えは捨てるべきだ。殺すつもりでいかなければこちらがやられる)


 フリードは氷の騎士に遠隔で指示を出すと剣を勇者目がけて横薙ぎに振るわせる。


 しかしそれは腹を押さえかがんだ勇者に避けられる。


(――く、それならばッ!!!)


 フリードは氷の騎士を操り何度となく剣を震わせるもことごとく勇者の奇妙な動きによりかわされてしまう。


(……まさか……見切られているというのか……)


 フリードが驚愕していると勇者は突如動きを止めた。



 勇者は腹痛と便意を必死に堪えながら体を色々な方向に捻っていた。


「(こ、こうか! いや、こっちの方が便意を堪えられる気がする! いや、やっぱりこっちの方が――)」


「(ちょ、勇者様何やってるんですか! さっきから剣が――危なッ!?)」


 しかし勇者は奇妙な動きで全てを回避し剣を避けきると不意に動きを止めた。


「(ゆ、勇者様……突然止まってどうかしたんですか……?)」


 両手で剣の柄を握り右後方に大きく剣を引いた状態で腰を下げた勇者はトイレブラシの問いかけに対してイケボで答える。


「(――見つけたぜ。これだ――この態勢こそ俺の求める最強の型)」


「(いや、どんなにカッコつけてもウ〇コ漏らしそうになってるただのド低脳ですからね……)」


「(――いける。今の俺なら漏らさずに頂上まで駆け抜けられる)」


「(聞いてないですね……っていうか目の前の氷の騎士に集中してくださ――うひゃあ!?)」


 トイレブラシが驚くのも無理はなかった。なんと氷像から空間を埋め尽くすほどの青白い魔力が放たれ始めたのだ。氷の騎士はそれを放ちながら勇者に話しかける。


「――大したやつだ。レオンニールたちから聞いていた以上の傑物のようだな。確かにお前は強い。ゆえにこの氷像の行える最強の攻撃をお見せしよう。正直これを使えば塔が破壊されるかもしれないため使いたくはなかったが……仕方がない」


 氷の騎士が後ろへ大きく跳んだ後、剣を大きく振り上げたのを見たトイレブラシは勇者に急いで警告を発する。


「(ゆ、勇者様!!! 敵はおそらく最強の攻撃を放ってきますよ! こっちも迎撃に備えて集中してください!)」


「(――ケツと呼吸を同調させなければ。肛門の開閉に細心の注意を払いながら重心を移動させるんだ)」


「(ちょっとどこに集中してるんですか!? 敵に集中してくださいよ!? ちょ、勇者様聞いてますか!?)」


「(最初のうちは足を慎重に移動させるんだ。そう、さながら地雷を踏んだ足と地面に落ちていた石を入れ替えるようにゆっくりと動かし徐々に素早く――やがては疾風の如く)」


「(駄目だこのド低脳聞いてないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!??)」


 トイレブラシの内なる絶叫に合わせ氷の騎士は剣を振り下ろす。


「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」


 氷の剣が地面に振り下ろされた瞬間、巨大な無数のつららが地面から生え始め勇者に襲いかかるも――。


「(――亀の如き歩みなれど、この一歩は便所に通じる一歩。おろそかには出来ないぜ)」


 ――現在、ナマケモノ以下のスピードで足をちんたら動かしていた。そんな勇者につららが迫りトイレブラシは悲鳴をあげる。


「(わわわ、勇者様もう漏らしてもいいですから避けてェェェェェェェェェェェェ!!!!!)」


「(ゆっくり、ゆっくり――)」


 しかしつららが勇者を貫く前に足がつるんというマヌケな効果音と共に地面の氷で滑り勇者は腹を――。


「(――え?)」


 ――強打し倒れる。


 ――その瞬間、勇者の腹に凄まじい衝撃が走りその衝撃の波は大腸を突き抜け肛門に至りそして――。


「(――ぬあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??)」


 ――汚物が肛門から噴き出しそうになるも間一髪これを堪えることに成功する。しかしその時焦って魔力制御をミスった勇者は剣に凄まじい魔力を込めてしまい、剣から爆炎を出してしまった。その衝撃で肉体は空中に舞い上がる。それはまさにつららが勇者を貫通する寸前だった。


「(うわあああああああ間違えて技撃っちまったぁぁぁぁぁぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!)」


 勇者は絶叫しながら天井付近まで上がると落下し、そして――。


「――ば、かな……」


 ――氷の騎士の頭のコアに剣を突き立てた。


 不可抗力とはいえ凄まじい魔力を帯びた剣でコアを割られた騎士は粉々に砕けると勇者は直地と同時に地面に膝立ちで座り込む。トイレブラシは一連の出来事に肝を冷やしながらうわ言のように呟く。


「(あ、危なかったぁ……ホントに危なかったぁ……)」


「(ああ、確かに危なかったぜ……ケツが)」


「(そっちじゃないですよ!!??)」


「(危うく漏らすところだったが……俺は耐え抜いた。一度地獄を切り抜けたせいか腹が落ち着いた気がするぜ。今のうちに目指す――便所を)」


「(このままじゃ漏らす前に死にますよマジで……)」


 トイレブラシはもはや勇者の頭にはトイレの事しかないことがわかると深々とため息をついた。



 フリードは城の玉座の間にも似た雰囲気の部屋でつむっていた眼を開けた。


「……いいだろう。それならば俺が直接手を下してやる。来い」


 フリードの冷たい視線が勇者の姿を捉えるべく鋭くなるも――。



「(うおおおおおおおおおおおおお便所はどこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)」


「(もうなんか当初の目的完全に忘れてますね……まったく……)」


 ――当の本人はトイレの事しか頭になかった。


 そして塔を駆け上った勇者はついに四人目の刺客フリードの部屋の前にたどり着いたのだった。    

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