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ミステイクファンタジー  作者: 鈴木拓郎
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1話

 異世界とは別の次元に存在する惑星、地球。その星の数ある国の一つ、日本。気候は穏やかでありながら四季が巡り、季節によって様々な顔を見せるその国のある田舎にとても有名な男子校が存在した。あまりにも有名なその高校は地元でも知らぬ者はおらず、周辺に存在する他の学校の生徒たちからはその学校に通う生徒達に対して常に畏敬の念が抱かれていた。そして今まさにその高校のとある教室の中で張りつめた空気の下、英語のテストの返却がなされようとしていた。教師が次々に名前を読み上げ、生徒達は苦々しい表情を浮かべながら席を立ちテストを受け取っていく。生徒の大半がテストの返却という行事に表情を曇らせるなか、ただ一人だけ様子の違う少年がいた。窓際の後ろから三番目の席に不適な笑みを浮かべながら手を組み余裕のある態度をとるその少年は教師が自身の名を呼ぶのを今か今かと待ちわび、その様子は他の生徒達とは一線を画していた。

 そしてついにその瞬間が訪れると少年は組んでいた手をほどき、穏やかな笑みを浮かべ席を立ち上がった。悠然と歩く少年を周りの生徒達は羨望の眼差しで見つめ、少年もそれに応えるように余裕のある態度を崩さず教師の元に歩み寄る。教師もそんな少年に対して流石だな、と言わんばかりに手を肩に置き笑顔を見せるとテストの内容について言及した。

「今回もテストの最高得点者はやはりお前だったよ、よく勉強したな!」

「すげー!またかよ!」

「やっぱり天才だな!」

 教師の発言に生徒達は沸き立つと口々に少年に対しての評価を述べる。

「そんな、まぐれだって!」

「おいおい、謙遜するな! 問9の問題正解者はお前だけなんだからな!」

「マジかよ…あの問題解けたやついるのかよ……」

「神童だ…神童がここにいる…」

 少年の謙遜の言葉を教師は制すると、ある問題のただ一人の正解者である少年を称え、他の生徒達も同じく彼を称賛した。

「いやいや! ほんと、勉強すれば皆も出来るようになるさ!」

「まったく! お前って奴は、謙遜も過ぎれば嫌味に映るぞ!」

「そうだぞ、この優等生が!」

「素直に喜べ~!」

「もうほんとに勘弁してくれって!」

 皆の言葉に照れながらも難問に正解したという喜びが少年からは溢れており、周りの称賛に対する制止の声もどこかうわずっていた。

「よし! じゃあ最優秀得点者のお前に問9の解説を頼もうか!」

「そんなぁ! 困っちゃうなぁ~! 勘弁してって言ってるのになぁ~!」

 教師の頼みをわざとらしく嫌がるふりをしながら満面の笑みで引き受けると黒板の前に立ちチョークを取り問題に対する解説を始める。

「まず問題用紙を見てくれ! この問題、正攻法で解くには確かに難しい所があると思う。そこで俺はまずこの問題を解くにあたってはアルファベットの数に重要なヒントが隠されているんじゃないかと考えた」

「アルファベットの数?」

 生徒の一人が疑問の声をあげる。

「そう、アルファベットは通常AからZまでの26文字で構成される。ここに気づかなければまず突破口は見つけられない、そこに気づいた俺は天から啓示を受けたかの如く閃いたんだ! この問9のアルファベットのHの次にくるアルファベットの単語を書きなさいという難問の解決法に対して、ね」

 生徒達は驚きで声を失ったまま少年の次の説明を待った。

「まぁ驚くのも無理はないよ、俺もこの方法を思いついた瞬間は恐怖のあまり背筋が凍ったからね。そしてその方法というのは」

 声を失ったままの生徒達に真実を告げるように少年は囁いた。

「数えるのさ、Aから順番に、ね」

「あっ!!!」

 一番前に座っていた生徒の一人が解答に気づいたことで声をあげる。

「君は気づいたようだね、そうだ。このアルファベットHの次にくるアルファベット、その答えは」

 少年は握ったチョークで皆に見せつけるように大きく黒板に答えを書く。

「Jだ」

「す…すげぇ…すげぇよ!」

「知性の塊だよ、お前って奴は! どこまで俺たちをゆさぶるつもりだ!」 

 明らかに間違った答えに生徒達は感動し、感嘆の言葉を次々に漏らしてゆき、一部の生徒にいたっては感涙し頬を濡らす有様だった。そんな惨状のなか厳しい表情をした教師が少年にゆっくりと歩み寄ってきた。

「お前は……」

 少年の間違った答えに説教をするとおもいきや

「我が校の誇りだ!」

「先生…ありがとうございます!!!」

 少年と熱い握手を交わした。

 少年の手に握られた解答用紙の問9はJと書かれており間違っていたがはなまるがつけられていた。

「お前は間違いなく麒麟児だ! 俺が保障しよう!!」

「麒麟児だって、すげぇな…」

「麒麟児って、マジかよ…」

「ところで麒麟児って何だ?」

「先生! 麒麟児って何ですか?」

「先生もよくわかんない」

 生徒の質問に対して三十半ばの男性教諭とは思えない返答を返すものの

「わかんないんじゃあしょうがないか!」

「しょうがないな!」

「しょうがない! しょうがない!」

 生徒達はさほど気にしなかった。

「「「あははははははははははははははは!」」」

 教室中に教師と生徒達の笑い声が響き渡る。

「よし! じゃあ席についていいぞ! よく解説してくれたな」

「はい!!!」

 生徒たちの拍手喝采のなか席についたこの少年こそがこの物語の主人公であり後に語り継がれるヴァルネヴィアを救う勇者であるとはこの時は少年自身もまだ予期してはいなかった。

 


 

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