神德寺という寺2
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「お待ちしてました。蓮二くん。君にしては随分早い到着でしたね」
中庭を抜け、本堂の手前にある門をくぐるとすぐに声をかけられた。
「驚かさないでくださいよ進藤さん」
その男は神狩の弟子、特に神德寺で坊主をしているうちの片割れの進藤という男だった。
蓮池に伝言を携えてきたのも彼で、人柄の良さそうな顔立ちをしている。
「ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんですけどね。燈くんもご苦労様」
「蓮二さんを時間通りに連れて来いって二回も言われましたからねー。じゃあ僕はいつも通りぶらぶらしてきます」
蓮二が神德寺に用事がある時は、たいてい燈も一緒に来るが蓮二に話があるときは遠慮して本堂まで行くことはなかった。
「ちょっと待って。今日は燈くんも本堂に来るようにって師匠に言われてここで待ってたんですよ」
蓮二も燈も予想外で動揺が顔にでていた。
「まぁ詳しくは師匠に聞いてください。口止めされていますので。皆様お待ちですよ」
そう言って進藤は先に本堂の方へ消えていった。
二人は茫然としていた。
しばらくして蓮二は静かに口を開いた。
「なぁ燈。俺帰っていい?絶対なんかある。絶対。今日はお前に用があるみたいだし、俺帰るよ」
「そ、そんなのだめです!!認めません!お願いですから僕を一人にしないでください!!!」
帰ろうと踵を返した蓮二の襟を燈は必死に掴んだ。
「は、離せ!俺はなんとしても帰る!帰るって言ったら帰る!」
「離しません!絶対離しません!離すぐらいなら死にます!」
しばらくの硬直。
二人は同時に力を抜くと、人生の全てを諦めたかのような顔で歩き始めた。
しかし、数歩進んだところで蓮二が急に立ち止まった。
「どうしたんですか?」
燈が首を傾げながら蓮二に問いかける。
「夢玉何個持ってる?」
蓮二はいつもと違い少し真面目なトーンで燈に尋ねた。
「えーっと、僕のは五つほど。蓮二さんがいつも持ち歩けって言ってるので持ってますけど。どうかしましたか?」
蓮二は何か言いたげな顔をしていたが、それも一瞬のことでなにもなかったかのように再び進み始めた。
「五つあれば十分だよ」
蓮二の眼は本堂、正確に言えばそこに集まっている者たちに向けられていた。
「ほら、行くぞ」
蓮二は先に靴を脱いで入っていった。




