侵入者2
闇の中、朧に光る一本道。
背中から自分を呼ぶ声がする。こっちに来い、こっちに来いと。しかし、呼びかけに応じてはならないと本能が警鐘を鳴らす。
理由はわからない。
声が聞こえるのは、人の形に見えなくもない黒い何かからだった。
一歩ずつ着実に迫ってくるそれから柴崎は逃げていた。
もうどれほど歩いただろうか。延々と続く道は時間感覚を鈍らせ、道を照らす古い街灯もそれを加速させる。
足取りが重い。
黒い何かに足を掴まれているようだ。
『止まってしまえ、楽になるぞ』
悪魔のささやきが聞こえる。
柴崎が足取りを緩めようとした時、ポケットから何かが滑り落ちた。
キーンという乾いた金属音。
緑色のそれは数回弾み、五メートルほど転がると、その音とは対照的にその形を液体に変える。直径一メートルほどの緑の水たまりに姿を変えたその球には見覚えがあった。
「昼に渡された玉か………?」
水たまりに雫が落ちたように波紋を作り、それをくぐるように二つの人影が姿を現した。
「こんばんは。柴崎さん」
蓮二と燈だった。
「こ、ここは夢の中か。そしてこれは………」
「うーん、使い魔っぽいですね。燈、とりあえず焼き払ってくれ」
「わかりましたー」
足を掴まれたまま状況がよく飲み込めていない柴崎を気にせず、燈は深紅の夢玉を両手で挟み、押し潰す。
燃えるような深い赤の渦が燈の両腕を掌から肩まで徐々に包んでいき、燈の白い肌とは対照的な紅蓮の刺青を鮮やかに刻む。
「柴崎さーん、すこーし伏せててくださいね」
「え?」
「いきますよー」
燈は両手を突き出し、右手の甲に左手を添え息を吸い込み、照準を合わせる。
徐々に両腕を炎が覆うと、圧縮され熱量を増していった。
「ハッ!」
溜められた炎はまるで光線のように燈の両腕から放たれ、柴崎を掴んでいた黒い何かを焼き払う。
燈の放つ光線はその威力を落とさずに、そのまま直進すると、なにもなかったはずの空間で何かに当たり、猛烈な爆発を起こした。
「多分あれが本体だな」
「まさか一直線上にいるなんて、よほどの間抜けだったみたいですね………」
黒い空間にピシッと一筋の裂け目ができたと思うと、それは連鎖してあっという間に全体を覆った。
「こ、これは………」
そこはもういつもと変わらない街の風景だった。




