三つ巴5
瑞樹ぃ………
鬼天狗
「仁華」
「わかってますって」
黒夢に入るのとほぼ同時に仁華は元通りになった黒玉を回収する。追い詰めても途中で逃げられないようにするためだった。
「そんなことしなくても大丈夫ですよ。逃げませんから。そう言えば自己紹介がまだでしたね。私、赤松と申します」
そう言いながら大仰に腰を折り、一礼した。
「赤松………ねぇ、どうせ偽名だと思うけど詳しい話は後で聞くとするよ」
初めに動いたのは瑞樹だった。
使う夢玉は青。右手に入る刺青は即座に輝き、右腕を前に突き出すと、そこに一振りの大太刀を作り出す。
瑞樹の背丈ほどあろうかという濃い青の鞘に入る大太刀は、とても瑞樹に持てるような代物には見えなかったが、当の本人は片手で軽々と鞘から引き抜いた。
腰元に構えると刀身は真っ青な光に包まれ、やや斜め上に向かって繰り出された神速の一撃は爆風とともに民家ごと瑞樹の周り全てを薙ぎ払う。
瑞樹を中心にして半径十メートルほどは、まるで小型のミサイルが落ちたかのように全ての物が吹き飛ばされていた。
蒼介と仁華は何事もなかったように平然と立っていたが、よく見ると二人の周りにはドーム状に透明な層が張られている。
「ほんと瑞樹さんって二つ名が似合いますよね………」
「そうだよな………」
「ちっ………やり損ねたか。そこの二人」
瑞樹は左手の鞘に大太刀を納める。
「聞こえてますよー瑞樹さーん」
「だめっすよ蒼介さん。鬼天狗って呼ばないと」
二人に背中を向けていた瑞樹は動きを止めると、そこからの動きは迅速だった。
鞘から大太刀を抜き、そして仁華の首を刎ねる、ただそれだけの作業に何のためらいもなかった。
しかし瑞樹の得物は仁華の首に当たる直前で止まっていた。
「み、瑞樹さん………洒落にならないっすよ、それ。今完全に僕の首を刎ねるつもりでしたよね、というか今現在も僕の腕が押し込まれてるんですけど!」
仁華は首と刃の間に自分の腕を滑り込ませていた。
「何で斬れない。何でお前の腕ごときで………」
瑞樹の眼は血走り、うわ言のように繰り返す。
「あーあ、俺は知らないからね。仁華一人でどうにかしなよ?」
「そ、そんなぁ!助けてくださいよ蒼介さん!」
「首………刎ねる………仁華の………首………」
蒼介は砂埃が晴れてきた前方に注意を向けながら呟く。
「昔俺と蓮二が瑞樹を怒らせた時は二人掛かりでやっと止められたけどな。頑張れよ仁華」
「う、うそーん………」
仁華はお化けでも見たような顔をしていた。
そんな瑞樹と仁華は放っておくことにして蒼介は辛うじて瑞樹の一撃を受けきった男たちの元に歩み寄る。
「たぶんね、お前らの力では瑞樹の一撃を耐えられるはずがないんだよ。どうして立ってられるんだ?」
赤松たちは無傷ではなかったが、確かに受け切っていた。
「流石に神德の大天狗レベル相手にはまだ早かったですかね。しかし受け切ったというのはいいデータが取れましたよ」
赤松たちは各々夢玉を取り出し潰していく。
「ですが、私たちの目的は貴方たちの足止めではなく狩ること、それとこの試作品の性能のテストなんですよね」
「試作品?」
「この玉ですよ」
そういって赤松は首から下げていた一回り大きめな黒に近い灰色の夢玉を揺らす。
「自己強化か?」
「よくわかりますねぇ、でもこれはそんなちゃちな物じゃあないんですよ」
男たちは両手を前に突き出し、紅蓮の奔流を蒼介に向けて放つ。炎は混ざり合い、その勢いを増して蒼介を包み込んだ。
炎の壁は蒼介が見えないほど厚く、火柱は天高く伸びる。
「やったか?」
一人がつぶやいた。
灼熱の渦は離れていても顔を焦がすほどに強く、それが男たちに勝利を予感させたが、それも一瞬のことだった。
「やったか………だって?この程度でか?舐められたもだなぁ………」
蒼介を中心として発生した爆発によって炎の渦は霧散してしまった。
ちなみに仁華と瑞樹は蒼介たちの方は全く見てません。
二人でじゃれてます。じゃれて………




