長い一日の始まり
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「起きてくださいよ。そろそろ九時になりますよー」
そういって燈が軒先で寝ている蓮二を揺する。寝ぼけた顔の蓮二は動く気配を見せない。今日だけで既に四度寝という素晴らしい記録だ。
「もう少し寝かせてくれよ。昨日ちょっと仕事しすぎたんだって」
気だるそうに言うと、燈はさらに気だるそうに返事をした。
「何言ってるんですか。昨日は定休日ですよ。ほら早く起きる!そして今日の分の依頼を片付けましょうよ」
燈に起こされ軒先から作業場まで引きずられて行くのも毎朝の風景だった。
「燈ー。今日の依頼はどれぐらい?」
「ざっと百ぐらいですね」
「無理。絶対無理。無理だよー燈君」
「はいはいそうですねー」
このやりとりも毎日のこと。燈は蓮二を作業場まで連れてくるとてきぱきと準備を始める。
蓮二と燈の働く「蓮池」では、主にアクセサリーを作って売っていた。蓮二の作る「夢玉」は小さは球状のアクセサリーで、鎌倉ではちょっとした名物になっている。
「そんじゃ、やっちゃいましょうか。燈ー、てきとうに持ってきて」
小さな作業場の四方は様々な色の液体が入った容器がつまった棚で囲まれていた。
青や赤はもちろん、黄金に光り輝くものまで多種多様な液体が並び、その中から燈は深い緑色のものを取ると蓮二に渡した。
作業卓の上で蓮二がその液体の入った容器の栓を抜き横に倒す。緑色の液体は容器から流れ出て上から下にゆっくり落ちると、座っている蓮二の胸の前の空間で不自然に止まった。
大小様々な水玉は互いにぶつかりながら一円玉ほどの直径の玉に形を整えていく。
パチン
蓮二が指を鳴らすとジャラジャラと音を立てて不思議な水玉は卓へと落ちていった。
「じゃあ次行きますよー」
落ちたビー玉ほどの大きさの夢玉を集めながら今日も燈のハキハキとした声が蓮池に響いた。




