天狗の面
実は子供の時に天狗をみたことがあります。
神德寺の帰り道、燈は進藤にもらった夢玉の原料を片手に歩きながら、蓮二に聞こうか、それとももう少し自分で考えた方がいいのか迷っていた。
それは先の黒夢の中の出来事。
日々の蓮二の鍛錬に燈もなんとなついていけるようになったのはそう昔の話ではない。
毎日のように蓮二に叩きのめされながら精進していた。
故に光を圧倒したのは決して偶然というわけではない。
光の雷撃と燈の炎との相性もあったが、それを差し引いても燈に軍配が上がっただろう。
元々才能のあった燈は蓮二の元で驚異的なスピードで成長していた。
それもあり今日の一幕に納得いかなかった。
「……おーい。燈ー。聞いてるかー」
「は、はい!すいません。ぼーっとしてました」
どうやら蓮二に話しかけられていたようだ。
「どうせ仁華にさっきのを防がれた理由がわからなくて考えてたんだろ?」
どうやら蓮二に見透かされていたようだ。
「そ、そうなんです。僕の炎の威力が足りなかったのでしょうか………?」
燈はうつむきながら蓮二に尋ねる。
煙草を咥えながら蓮二は夕焼けを見つめる。
「でもよ、燈の炎なんて俺に直接当たったことないだろ。まして俺に傷つけるなんてぜーんぜん」
「そ、それはそうなのですが………」
蓮二が燈の鍛錬の面倒をみているのは単に自分のためだった。
丑三に潜る時、いくら神德の一位といっても高位の夢喰いに遭遇してしまえば苦戦は免れない。
しかし蒼介や瑞樹と言った寺の者に手を借りるのは蓮二の性に合ってなかった。
そこで何故だかついてきた燈を利用しようと考えていた。
「そういえば仁華は夢玉使ってなかったな」
「そ、そうなんですか………僕の炎は碓氷さんの素手以下と………」
燈はどんどん落ち込んで行く。
夢の中では全てイメージの強さに比例していると考えられている。
敵を屠る、攻撃を防ぐ、無効化する、武器を形にする、等々、その性能や効果の付加は自分次第というわけだ。
「あいつは特殊だから気にすんなって」
「気にしますよ………戻って来てからも碓氷さんの左腕には何も変化がないし………」
夢の中、精神への直接攻撃。
それは時に現実世界でも攻撃を受けたという傷をつける。
しかしそれも相手の攻撃が自分を傷つけるイメージだから、燈の全力は仁華の内部までには届いていなかったということになる。
「まぁ今日の夜にでも教えてやるよ」
燈は本当に落ち込んでる様子だった。
「ったく。明日行くつもりだったけど今日行くか。新しい面を作りに」
「ほ、本当ですか!やった!」
落ち込んでいた燈は一瞬のうちに消えていた。
「蓮二さんの面すっごく好きなんですよ。神德寺の面を僕も作ってもらえるなんて感激です」
ショーケースを眺める中学生より目を輝かせていた。
神德寺では天狗の面をして丑三に潜る。
顔が知られてしまうと後々面倒ごとが増えるからであった。
「でも俺あそこ行きたくないんだよなぁ………」
「あそこって、神德寺で作ってもらうんじゃないんですか?」
「まぁ、寺って言えば寺なんだけど。まぁ行ったらわかるよ」
そう言って帰路とは違う道に足を向けた。




