神德時の位3
少し長めになってしまいました。
弥生銀治郎
黒玉
黒夢
丑三
光が叩き割った黒い夢玉の破片が散ると、まるで逆再生を見ているかのように元の形へと戻って行く。
夢の世界には三種類ある。
一つは「丑三」と呼ばれている午前零時から三時までの世界。
現実世界との違いは多種多様な夢喰いが存在するだけで、他の点は現実となんら変わりはない。
しかし古代からの積み重ねにより所々不思議な場所も存在していた。
二つ目は個人の夢の中。
丑三と繋がっているが、誰の中でも入れるというわけではない。
そして三つ目は「黒玉」を使って出来る「黒夢」だった。
これは他と大きく異なり、黒夢の拘束時間は一時間。現実世界ではものの十秒ほどである。
また黒夢は必ず黒玉が必要で、割られた場所から極近距離にいる者にしか効果がなく、黒玉の原料は貴重なためなかなか使用する機会がない。
「勝負しやがれ蓮二!」
光が吠える。
「そうだなー。まぁそれもいいんだが、今日の本題はそっちじゃないからな」
そう言いながら蓮二は煙草に火を付けた。
「じゃあこうしよう。燈に勝てたら勝負してやるよ」
蓮二は大きく煙を吐く。
「て、てめぇ………舐めてんのか?」
「大真面目。燈の実力もわかるし光は俺と勝負ができるかもしれない。一石二鳥じゃない」
光は完全に頭に血を上らせていた。
「神狩和尚、止めなくていいのですか?」
進藤が神狩に耳打ちする。
「勝手にやらせておけばよい」
言葉とは裏腹に神狩は何処か楽しげだった。
蓮二は燈に向き直る。
「燈、手加減は無用だ。光も神德の位を持つ程の実力者だから自分の身は自分で守れる。いつも通りやれ」
「わ、わかりました」
そう言いながら燈も立ち上がり、蓮二の前に立つ。
「双方準備はいいな?じゃー始め」
蓮二の気の抜けたスタートの合図と同時に二人とも動き出した。
光は左手で右の掌に押し付けるように、燈は両手で包み込むように夢玉を押し潰す。
変化は一瞬。
光の右腕は一気にスパークし、手首から肩にかけて、肌が見えているのは肘の上あたりまでだが、服越しでもわかる程に輝く黄色の刺青が入る。
荒々しく、そして力強い雷の象徴が刻まれていた。
一方燈の変化は光ほどの派手さはなかった。
胸の前で合わせた両腕に、深紅と橙の二色が螺旋状に這うと、こちらも肩口まで複雑な二色の刺青が入る。
両腕からは熱が漏れ、仄かに赤く炎が燃えていた。
「蓮二も小癪な技を教えているようやな」
沈黙を保っていた七位、弥生銀治郎が口を開く。
「桐生は万能型なんか?」
「内緒だよ銀治郎」
そんな二人の会話は光と燈には聞こえてなかった。
狭い本堂の、更に十三人で円形に座っている中で先に動いたのは光だった。
右腕を突き出すと親指と人差し指以外の指を握り拳銃のような形を作る。
「ばーん!」
子供のような掛け声は轟音にかき消され誰も聞くことはなかった。
光の指先から放たれた雷は床を焼き焦がしながらギザギザに燈へと向かい直撃する。
光の速度より幾分遅いが人間に避けられる代物ではなかった。
雷は燈を通り越し、座っていた進藤、蓮二、蒼介、瑞樹を襲う。
「この程度で何が俺より強いだ。寝言は寝て言えよ」
燈の全身は激しいスパークに覆われていた。
しかしそれもほんの数秒で収まり、燈の声が聞こえる。
「蓮二さん大丈夫ですか?」
燈は蓮二を雷から守っていた。




