第5話 ボーイ ミーツ ????
おまえはツメが甘い-------------。
部屋いっぱいに出現した魔物を見た瞬間、頭の中でじいさんの声が聞こえた気がした。俺も分かってる。分かってはいるが、後悔してももう遅い。
鍵開けに成功し、お宝を目の前にした喜びから俺は警戒をといてしまっていた。全然気付かなかったが、お宝そのものが罠のスイッチだったんだ。大量の魔物を召喚する罠。こういう逃げ場の少ない場所ではそういう罠がたまに仕掛けられていることがあるというのは知っていた。入る時はきちんと警戒していたはずなのに、鍵開けに夢中になるうちにそれを忘れていた。
俺は目の前でうごめく魔物たちを見て、短剣をかまえる。いろいろな種類の敵がいるが、だいたいは今まで見てきた弱い魔物のようだ。腕にそれほど自信のない俺でも1匹1匹は倒せるが、まとめて来られるとなると話は違う。同時攻撃されれば対応できないし、もし麻痺や毒などの特殊攻撃を持っている敵が混ざっていれば他と戦っている間に無力化されてしまう。それに何匹か見たことのない強そうな敵も混ざっているような気がする。
正面から戦って俺が勝てる見込みはまったくない。ほぼ100%殺されるだろう。では、逃げることはできるだろうか。俺が今いるのは奥の小部屋で、行き止まりだ。他の場所に移動するのは魔物の群れを突っ切って、向こうの出口にたどり着くしかない。それができるのかどうか……。
ここで様子をうかがっていても、いずれは魔物の海にのみ込まれる。魔物は今もどんどん送り込まれているようだ。突っ切るなら、なるべく早いうちがいい。今もざっと見て20匹以上はいるが、まだ多少の隙間はある。何発かは攻撃を受けるかもしれないが、魔物をはねのけながら走って……抜けられるかどうか。
目の前で蠢いている魔物の群れに突っ込む……もはやそれしかないと分かっていても、考えるだけでつい足がすくんでしまう。得体のしれないやつらの中に飛び込んで押しつぶされ、何も分からないままに指だの耳だのを喰いちぎられてしまうかもしれない。そんな気がしてぞっとする。
ええい、考えるな!
覚悟を決めて目を瞑り、短剣を振り回しながらひたすら前へと突進する。ひざががくがくして転びそうになるが無理やり動かして前に出る。魔物たちは突っ込んで来る俺に反応し、押し寄せる。
体が大渦に飲み込まれたように様々な方向から圧力が加わり、揉みくちゃにされはじめた。生臭い香りや液体の垂れるような音、腕や肩のあたりにちくちくとした痛みを感じ、恐怖で心臓が握りつぶされるかのように苦しくなる。嫌だ、怖い、怖い。俺はこんなところで死ぬのか。
そのとき。
『…………こっち。こっちに来て』
誰か、人間の言葉が聞こえたような気がした。こんなところで?空耳だろうか。
しかし、心なしか前のほうから押してきていた圧力が弱まった気がする。それに気付くとともに、誰かのひんやりした手が俺の手を引っ張るのを感じた。俺は引っ張ってくれる誰かをしっかりつかんだまま、まわりの魔物たちを振り払うように必死でもがき続けた………
俺は奇跡的に魔物の群れから脱出することができたようだ。
『もう大丈夫ですよ』
誰かの優しげな声が聞こえた。たぶん、俺を引っ張ってくれたひんやり柔らかい手の持ち主だ。
「ありがとう。おかげで助かった」
俺は礼を言いながら目を開けた。そこにいたのは………
「な、な、なん………?!」
ピンク色の半透明のぶよぶよした塊だった。