第4話 油断は禁物。
最初に遺跡に入った日の翌日から、俺は本格的に遺跡の探索をすることにした。とはいってもまだ慣れないうちは無理をしたくないので、日が落ちる前に探索を切り上げて帰ることにしている。朝遺跡に向かい、夕方には帰る。規則正しい生活だ。
5回ぐらい挑戦して、現在、地下3階層目ぐらいまでは行けるようになった。早くはないが悪いペースではないだろう。浅い層なのでまだたいしたものは手に入れていないが、今のところそれほど強い敵は出ていないし、手こずるような罠もない。きわめて順調だ。
……これはもう少し進んでも大丈夫かもしれないな。
遺跡の中は入る度に構造も敵も違うので「何階までなら絶対安全」とは言い切れないが、基本的に下の階層ほどやっかいで強い敵が出てくる傾向がある。それとともに、お宝も奥の方がいいものが手に入りやすくなるとのことだ。
どういう理屈かは分からないが、おそらく遺跡の持っている魔力みたいなものが各階層に平等に分配されているわけではなくて、浅い層よりも重要度の高い奥の層の守りを重視する仕組みになってるんじゃないかと俺は勝手に思っている。
宝も一番奥に全部仕舞っておいては途中の階層を一切無視して奥まで突破しようとする侵入者ばかりになるので、あえて浅い階層には比較的廉価なものを置いておくのではないか。そのつまらないもので鞄をいっぱいにして奥まで行かずに帰ってくれる盗賊もいるだろうし、この「つまらない宝」そのものが罠みたいなものなのかもしれない。俺みたいなかけだしにとっては、そういうつまらないものも貴重な収入源なんだけどな。
地下3階層を抜けて、4階層目に続く階段を降りる。この先も今までと同じような石造りの壁が続いているようだ。遺跡によっては水だらけのフロアもあると聞いているが、今までずっとかわりばえしない様子が続いているのはありがたい。
このフロアはぱっと見あまり敵がいないようだ。いくつかの小部屋を通り抜けるが、敵の気配は感じない。今のところ落とし穴のような罠もなさそうだ。
ある小部屋の中に入ったとき、隅の方に小さい箱が置いてあるのに気付いた。
(……お、あれはひょっとして)
念のため罠に気をつけて慎重に近寄り、箱の様子を見る。おそらくこれは『宝箱』と呼ばれるものだ。鍵がかかっているので鞄から『七つ道具』を取り出し、鍵開けを試みる。
遺跡のお宝はこんな風に箱におさまっていることが多い。箱の見た目やサイズはさまざまで、小さな宝石箱のようなものから、長持のようなものまでバラバラのようだ。いいものは見た目の良い箱に入っていることが多いようだし、ひょっとしたらこの『宝箱』というやつは昔の人が使っていた収納用の家具そのものなのかもしれない。
箱の奥からかちりという音がして、鍵が外れる。そっとふたを開けてみると、中から出てきたのはハンカチサイズの布数枚だった。不思議な模様のレースがあしらってあったり、つるつるした手触りのよい素材が使われている。大昔のものなので布なんかは劣化していそうなものだが、全く黄ばんだ様子もない。これも『宝箱』の効果のひとつらしい。どういう仕組みかは分からないが、中身を劣化させない保存魔法に近い魔法技術が使われているのではないかと思う。
この布は素材はなかなかいいものだが、金持ちにとってみれば日用品のレベルだろう。綺麗だがおそらく高くは売れない。宝の中ではハズレのようなものだが、あまりかさばるものではないからもらっていくか。
布を鞄にしまい、別の部屋に向かう。次にみつかった部屋はがらんとした何もない場所だったので、その部屋には立ち入らず、次の部屋をのぞいた。
(お、今日はついてるかも)
その部屋の奥にはまた小さな小部屋らしきスペースがあって、そこに箱らしいものが2つか3つ置いてあるのが見えた。一応周囲を見渡してから小部屋に入り、中を確認する。
『宝箱』は全部で4つあった。あまり大きな箱ではないのでそんなにすごいものは入っていないだろうが、そのうちの1つは留め具に装飾がついており、これまで見てきた箱よりも少しばかり高級感がある。
(これは期待できるんじゃないか?)
敵が来ないことを確かめてから、鍵開けに取り掛かる。高級そうな1つは後回しにして、まずは簡単そうな3つから先に開けてしまおう。
地味なほうの箱はたいした鍵はかかっていなかった。俺が少しいじると次々に開いていく。連続だから少し疲れたが、時間もそんなにかかってはいない。中身はやっぱり日用品レベルのもので、ちょっとした置物や服だった。服も貴族がパーティで着るようなものなら高く売れると思うが、仕立てはいいものの装飾品は少ないので部屋着のようなものだと思う。服は家で使ってもよさそうだから、できる限り鞄に詰め込んで持って行こう。
見つかったものを一通り鞄に突っ込んでから、俺は本命の箱に取り掛かった。やっぱり他の3つとは違って少しやっかいな鍵がかかっている。俺は『七つ道具』から最適な1本を選び、『力』を発動させた。これを使うと魔石を消費するのであまり使いたくないんだが、物理的な方法だけでは解除できそうにない鍵なので使わないわけにはいかない。今までに戦った魔物から回収した魔石がいくつかあるから、ちょっとぐらいはかまわないだろう。
しばらく、鍵開けに集中する。結構複雑な鍵だ。でもこれだけ厳重なら中身は期待できるかな?
初めての挑戦するタイプの鍵だったせいか、鍵開けにはなかなか手こずった。2回失敗したので、3つも魔石を消費してしまった。でも最終的には開いたのだからいいだろう。できれば消費した魔石の分も取り返せるようないいものが入っていてくれたらいいんだが………
祈りながら箱を開けてみると、中には小さなイヤリングが入っていた。海で採れるという白く輝く天然の宝石をあしらったかわいらしいものだ。小さいのでそこまで値は張らないと思うが、使われている宝石は丸く形のよいものだし、質はいい。使った時間を考えると「これだけか~」とは思うが、服なんかよりも『宝』を手に入れたって感じはするな。
そうだ、このイヤリング、実家に寄った時にファーラさんにプレゼントしてもいいな。きっと喜んでくれるだろう。俺がはれて一人前になったというアピールにもなる。そうしたら俺のことを大人の男として見てくれるかもしれないし、ひょっとしたら素敵なお礼をしてくれたりするかもしれないし……むふふ。
ファーラさんのみごとな巨乳を思い出しながら、俺はちょっとしまらない顔で箱からイヤリングを取り出した。その瞬間。
…………………………カチッッ
箱の奥のほうから、何だか不吉な音がした。背後からブゥゥンという音がした気がして振り向くと、そこには……………大量の魔物が溢れていた。