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プロローグ:俺の、すこぶるつまらない最期

体中がだるい。


内臓が絞られるように痛いが、頭の中は靄がかかったようで、自分の痛みもどこか他人の体のようだ。


体に力が入らない。一体俺は、どうなったんだっけ---------------。




26歳の冬、俺は人生で初めて告白ってものをしたんだ。相手は新入社員の時から好きだった会社の女の子。少し地味だが清楚な感じがとてもいいと思っていた。


金曜日の夜に偶然にもお互い残業が重なって、同じフロアで二人っきりになって。仕事終わりにさりげなくラーメン屋に誘ったら快く承諾してくれたんだ。クリスマス前で世間は浮かれてて、でもその子はイブに何の予定もないって言ってて。だから俺も調子にのっちゃって、こんなチャンスはもうないかもしれないって思ったもんだから、帰り際に勇気を出して「ずっと好きだった」と言ったら、「ごめんね」って。


土曜日は一日家で悶々として、日曜日に気分転換しようと駅前に行ったら、好きだったあの子と既婚者の課長が腕組んで歩いてるの見ちまった。なんだよちくしょう、先に知ってりゃまだよかったのに。ショッピングモールに流れるジングルベルを聞いてたらいたたまれなくなったんで、その後は牛丼屋でメシ食って帰って寝た。


----------ああ、そうだ、これ先週の話だったわ。


月曜に無断で遅刻して午後出社したら、課長にこってり怒られて。なんだよてめえの秘密知ってんだからなって思ったけどそんなこと言えなくて。無気力に一日を終えた後で、職場に派遣で来てる20歳ぐらい年上のおばさんが「今日は大変だったわね」っていうから「疲れてるんです」って返して。おごってあげるから飲みましょうっていうんで、一緒に居酒屋に行って。


おばさんに失恋の話をしたら、親身に聞いてくれて。泣きながらついつい深酒して。泥酔して気づいたらホテルに来てて、おばさんにキスされて気持ち悪くなってちょっと酔いが冷めて。「初めてなんでしょ?リードしてあげる」なんだそれ。おばさんを突き飛ばしてふらふらする足で家まで逃げかえって………。


-------------------そんで、どうしたっけ。


そうだそうだ、翌日は何もかも嫌になって、会社行かなかったんだ。もちろん無断欠勤。上司から電話のひとつもかかってくるかと思ってたけど静かなもんで、俺なんか必要ないんだなって気持ちになって余計に凹んだ。家にひたすらこもってたら、夕方に下の階に住んでるアパートの大家さんが訪ねてきて、友達ときのこ狩りに行ったとか言って大量にきのこのおすそわけをもらったんだ。もう冬なのにきのこ狩りかよって思ったけど、とにかく何も食ってなくて腹が減ってたから鍋で煮て醤油で味付けて、腹いっぱい食った。それで、食ってしばらく寝てたら急にひどい吐き気がして、布団の中で下痢漏らしたんだよ。



-----------------ひょっとして、俺、死ぬのか……?


下痢だけじゃなく尿も漏らしてるかもしれない。下半身が生温かくてぐちょぐちょに濡れて、とにかく体の中身が猛烈に痛くて、でも手足が凍えそうに寒くて。


そういえば地元の保健所が「素人の採ったよく分からないキノコは食うな」ってポスターで警告してたな。まさにその通りだと今になっては思うが、食ってしまったのだから後の祭りだ。大家のおばさんも今ごろ同じように食べて死んでるかもしれないが、それももはや確かめようがない。


----------------------思えば、ろくでもない人生だったな。


女に振られて年増に迫られておばさんにもらった毒キノコで下痢漏らしながら死んで。かっこ悪いことこの上ない。こういうのが女難っていうんだろうか。モテないのに女難?いや、モテないから女難か。ひでえもんだな。


---------------------そういや、来世って、あんのかな


次があるのなら、もうちょっといい人生がいい。そうだ、俺を振ったあの子よりももっとかわいい女の子にモテモテで……なんて、徐々に曖昧に…なって……いく意識の中で……………俺は…………………考え……………・・・・・た。

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