第7話
「はい、でも私には父の記憶が何もないのです。もの心ついたときにはもう父はいませんでした。スキャンダルのせいで、母は何も語りませんでした。ですから父が誰であるかは伏せて生きてきました。でも、まだ生きていたなんて。会わせてもらえますか。」
「実はノーベル賞を受賞してから、その後、空博士に連絡が取れなくなったのですよ。これが空博士と連絡を取る唯一の手段のパシーナだ。あなたのお父さんから借りていたので、あなたに預けますよ。あなたなら使いこなせるしょう。」大樹博士は、パシオよりも小型で緑色の水晶のようなきれいな装置を手渡してくれた。
「パシーナ?」
「空博士が、パシオを進化させたものだ。パシオは燃料電池を必要としたので、パワーが限られて、送信範囲に限界があった。専用の中継所が必要なので海では使えない。
このパシーナは生体エネルギーを使うので、自分の体からいくらでもエネルギーを供給できる。遠くに離れたところと通信するためには多少体力がいるが、可能性は無限大だ。
それと、私はうまく使えなかったが、パシオを持たない相手の脳波が読める機能が組み込んである。」
「勝手に相手の脳のなかへ?パシー技術でもそれはできないはずよ。」
「くじらと、どうやって会話したと思う?」
「くじらにパシオを取り付けることは可能ですよ。それに水を介してなら少しぐらい離れていてもできそうだだし。」
「雑誌上はそうしておいてほしいが、実は空博士は可能にしてしまったのだ。今までは理論上は可能と思われていたがパワーがぜんぜん足りなかった。生体エネルギーを利用できるようになったおかげで実現したのだ。
ただ、意識を集中して、相手の波長にあわさないと入っていけない。私は何度か試みたが、まったく無理だった。」
私はパシーナを手のひらに包むように優しく握ってみた。すると透けていたパシーナが淡い緑の光に包まれていった。ひんやりとした感触が暖かいぬくもりに変わっていった。そしてその緑の光は、自分の心臓の鼓動に合わせて脈動を打ちはじめた。
続く
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