第3話
大樹博士へのインタビューですけど、私はカメラマン兼任なので、研究室に入ると挨拶もそこそこに、カメラのセッティングから始めました。
最近はあまり見なくなった紙製の本のにおいがすこし鼻に来るのを我慢しながら、フラッシュを2本、天井と壁に向けてセット。窓の外のツタの合い間に広がるサトウキビ畑を背景にして、座ってもらうことにしました。
カメラは最新のニコン3D3。パシー技術のおかげで、これを首から下げておけば私が見たとおりにまばたきするだけで、ちゃんと立体映像として記録してくれるんです。
私は生まれつきの眼力があるって、よく言われました。目がちょっと緑色っぽいので、相手が私の目を注視してくれて、人物撮るのは結構得意なんですよ。
大樹博士も出会って早々に興味深そうに私の瞳を見つめてくれているので、この仕事も上手くいきそうです。まあ、使えるものは使わないと。
「先生、パシオはB階層まで開放していただいていいですか。」陸が念のため博士に尋ねておきます。
「私はCでもDでも、どこまでも開放してもいいけど、そんな雑念まで拾ったら、かえって編集が大変だろう。」博士は、意地悪そうに笑って応えてくれました。
脳波を拾うことの出来るパシオには、4段階のレベル設定があるんです。こうやって、しゃべるレベルをA階層。しゃべる内容を考えるレベルがB階層です。
CやD階層になると本人も制御できていない雑念まで拾うことが出来るのですが、こういう正式な場での利用はふさわしくないのです。
「では、さっそく伺います。今回は月刊「アイザック」創刊30周年記念として、反重力物質発見30年を迎える博士の特集ですので、様々な角度で博士の内面に迫りたいと思います。」陸がいつもにない緊張した面持ちでインタビューを始めました。
「そもそも、反重力物質を研究されたきっかけから、教えていただけますか?」
「私は、子供のころからSF映画が好きでして、ちょっと古いですが、スターウォーズのエピソード9は何度も見ましたよ。あのシリーズに出てくるランドスピーダーという宙を走る乗り物があるんですが、あれをつくるのが夢でした。」子どものような瞳で語る博士の姿に私はカメラアイで何度もフラッシュを焚きました。
「私もその古典的名画を見させてもらいましたが、いまの乗り物を実によく予想していますね。」映画好きの私は思わず相槌を打ってしまいました。
「そうじゃないですよ。技術者もデザイナーも、みんなあの映画に影響されすぎて、それ以上のものが生み出せないのですよ。」博士は少し不満そうでした。
「ところで、それまでモノを宙に浮かばせるには飛行機やヘリコプターのように空力を利用しようと考えるのですが、反重力物質というものに着目されたのはなぜですか?」陸がすぐに話を戻していった。
「光と影の原理ですよ。重力があるからには、反重力があるはずで、重力のある地球のどこかに存在してるはずなんです。」
『・・・それを地球から聞いたとは、信じてもらえないだろうが・・・』
「え、最後なんていわれました?」パシオが拾ったB階層の声に二人は耳を傾けた。
続く
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