第2章 第10話
半重力物質を採掘精製し販売するタンダード・エディット社の本社は、まさに空に浮かんでいます。小規模の商業的な施設はすでに空で営業を行っていますが、ここまで本格的に空中に浮いている巨大施設はまだ数社に過ぎません。
普段、地上から眺めていたこの空に浮かぶ緑の球体に入るのはなんだかとても緊張します。四足カプセル型タクシーに乗り込むと、自動的にその球体へと導かれいきました。
近くでみる緑色の球体は、何層もの円盤状のものが重なって球体となっていました。中に入ってしまうと普通の建物とかわらない雰囲気です。警備だけはものすごく厳重で、タクシーのカプセルごと空中でしばらく探知された後、降りることができました。
そして、個室に入って専用の白い服に着替えさせられた上に持ち物はすべて預けられました。
ただ、パシーナは父の形見の宝石ということで探知でも異常が見つからずに携帯が許可されました。カメラは撮影許可場所のみで警備のヒューマノイド型ロボットから手渡されるという厳重さです。
「お待ちください。いま、社長がみえますので。」天井の高い真っ白な部屋に入ると秘書らしき女性が私を椅子に案内しながら声をかけてくれた、と同時ぐらいに奥の扉が開いて中から銀色の大きな円盤ようなものが宙を浮いてスーッと入ってきました。
何かのロボットだろうかと思って近づいてくるのを見守ると、目の前で平らな面がすっと傾き、中から青年の顔が現れました。驚いて立ち上がるとその青年は笑顔に変わっていました。
「いや、驚かしてすまない。そんなに驚くとは思わなかったよ。私が社長のフェラーです。こんな格好で申し訳ないが、私には生まれつき手も足もないもので。」
「はじめまして。アイザックプレスの七海です。」
「あなたが七海さんですね。大樹博士の特集号を拝見しましたよ。あの博士が何でも話してしまったように確かに魅力的な方だ。私もいつか世間に姿を現さなければと思っていたのですが、そのデビューをあなたに任せることにしました。どうぞ写真も撮ってください。」
私がカメラを用意すると、フェラー社長は自ら話し始めました。「私の父がタンダード・エディック社を創設したのは、大樹博士の論文が発表された直後でした。当時3歳だった私には、ロボットの腕と足がついていましたが、大地を自由歩くほどに操ることは容易ではありませんでした。父はそんな私のために、半重力物質の採掘を始めたのですよ。」
フェラー社長は回想するように話しながら、壁面のほうに向かうと白い壁に立体映像が浮かび上がってきた。「おそらく読者の皆さんは反重力物質エディットの採掘と精製の仕方に興味があるのでしょうから、今日はその方法を簡単にご説明いたしましょう。」社長は詳しくその製造の過程を話し始めたが、私の疑問に対する答えは入ってなかった。
「あの、フェラー社長、私から質問してよろしいですか。」なかなかペースがつかめないので、一段落したところで声をかけてみた。
「すいません、インタビューに慣れないもので、つい自分ばかりしゃべってしまいました。」人はよさそうである。
「採掘方法はわかったのですが、なぜ、採掘後を埋め立てて、沖に進んでいくのでしょうか。」
「さすが、七海さんだ。もう核心を突いてきましたね。」
続く
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