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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王SUMMAR:夏】  
94/224

第玖拾壱閑 ラヴ・リ・ブレイブリアの場合 丁

「分かればよし。はい、じゃあもうこのお話は、私の過去をほじくるのは、もうおしまい」

 ラヴはポンッと手を打った。


「さぁ、次は――」

「ああラヴ、言わなくても分かってるよ。次はあれだろ? ラヴのへそをほじくる! ぎゃっ――!」

 案の定俺は頬に傷を負った。


「どうしてそう命を賭すわけ?」

「そこにへそがあるからさ。いてててて」

 当たり前の作業のように、エメラダの薬を頬に塗りながら俺は言った。

 まるで名言でも吐いたかのように、低くカッコいい声で言った。


「はぁ……もう死ね何て言わないわ、生きろ! 生きてその恥を晒しまくりなさい!」

「いや、何かもうホント、ゴメンナサイ」

 早々に謝ることになってしまった……。


「でもさラヴ、次って何だよ。ちゃんと言ってもらわないと、俺もわからな――」

「アンタが遮ったんでしょ!?」

 そうだっけか? 物忘れが酷いな。

 もしかしてアレか? えーっと何だ、弱酸性アルツハイマー? いや、そんなどっかのボディーソープみたいなやつじゃなくて……ああそうそう、若年性アルツハイマー。

 まあそれが何か、よくは知らないけど。


「次は、私の質問に答えてって言おうとしたのよ」

「質問?」

「そうよ、家族ってどんなのって、私聞いたわよね?」

「あ、あぁあぁ、あ~……そうだったな」

 そう言えばそうだった。

 そんなこと、うっかり、しっかり、すっかり、ちゃっかり、忘れていた。


「アンタまさか忘れてた、何て言わないでしょうね?」

「そ、そんなわけないだろ? ほんと、バカだなラヴは。はははは」

 かっきり、くっきり、すっきり、はっきり、忘れていた。

 完全に、忘れていた。

 クリアランスセールが、透明の槍を売っているわけじゃないっていうのは、覚えてたのに。


「誰がバカよ。何でもいいけど教えてよ、家族ってどんなの?」

 ラヴは自分の過去を語っているときよりもまじめな顔をして、三度俺に問いかけた。

 長い長い金髪のポニーテイルを体の前に持って来て、いじくりながら。

 女性が髪の毛を弄くってるのは欲求不満の表れだとか、にわかに信じがたい情報が世間では流れてたけど、それを信じるならば、今のラヴは欲求不満なんだろうか。

 欲しくて欲しくてたまらないんだろうか。


 熱くて。


 大きな。


 俺の。


 答えが。

 でも俺に、そんな夢のように大きくて、本気な熱い答えが、出せるだろうか。


「家族ねぇ……」

 家族がどんな感じと聞かれてもな……いまいち答え辛いと言うか、何と言うか。

 分からないって言うのが、正直なところかもしれない。

 生まれたときから当たり前のようにそこにいたから、そんなこと考えもしなかったことだし。

 まあこんなことラヴの前では口が裂けても言えないけど。

 そもそも口が裂けたら言えないけど。


 とにかく、当たり前が当たり前じゃない人間に、当たり前がどんなものなのかを伝えるのは、当たり前が当たり前な側の人間からすると酷く難しい。

 もし生まれつき耳が聞こえない人に、目が見えない人に、聞こえるって、見えるって、どんな感覚? って聞かれたとしても、聞こえるのが、見えるのが、当たり前の俺には、きっと何も答えられない。

 ただの十八歳でしかない俺には、そういうものだという認識しかないんだから。

 答えられるとすれば、聞こえるのが聴覚で、見えるのが視覚だ、くらいだろう。

 そしてその後に『そういえば俺、小さいときに人間には触覚があるって聞いたとき、昆虫についてる触角と勘違いして、自分にはそんなのもがないって、泣いたことがあったらしいんだよね』なんて、くだらないトークを繰り広げるので精一杯だ。


 だからと言って、答えないわけにもいかない。

 ラヴは俺の答えが欲しくて欲しくて、欲求不満でたまらないんだ。

 この場合『欲』という字は『答欠』と書くのかもしれなかった。

 『答欠よく』つまり『答欠求不満よっきゅうふまん


「どんなもの、か……」

「そういえば、アンタも小さい頃から両親がいなかったんだったわよね?」

「え? あ、ああ……」

 そういえばそうだったか。いや、それは俺じゃなくて魔王のことだけど。

 ゲイルが確か、幼くして両親を失っただとか何とか言ってた気がするな。


「ならアンタに聞いても、アンタも分からなかったりするの?」

「そ、そんなことはない」

 まあ、分からないって言うのは、そのとおりなんだけど……。


「本当かしら?」

 訝しげな目で俺を見つめるラヴ。


「ほ、ほんとだよ! 今すぐ教えてあげるから、大船に乗ったつもりで待っていてくれたまえ」

「泥舟の間違えじゃない?」

「ならなおさら安全だ。泥舟はそもそも浮かないから、乗ることもない」

 不安すらない。そもそも何もないんだから。


「それって、最初からアンタに聞くなって事じゃないの?」

「ギクリ……」

 確かにそういう解釈が、出来なくもない。


「ま、まあラヴ、そう急かすなって、ちょっと待っててくれ」

 はてさて、家族、家族とはどんなものか。

 どんなものだっかかな……。

 ひとまず、俺の家族のことを思い出してみる。


「……」

 がしかしそれにしても、何も浮かんでこないな……結構それなりに、順風満帆な十八年をおくってきたつもりだったけど。

 家族ともまあまあうまくやってきたつもりだったけど。

 特に何も思い出せない。

 どうしてかは考えるまでもなかった。

 異世界で暮らしたたった数ヶ月の方が、俺が元の世界で歩んできた十八年よりも、濃いからだ。

 濃い、圧倒的に濃い。

 それまでの十八年間を捨て、今までいた場所を捨て、たった数ヶ月の異世界に戻りたいと思ったほどに、すがりついたほどに。

 濃い。

 恋でもなければ鯉でもないけど、故意ではあったし請いもした。

 十八年間の家族との思い出よりも……。


「そうだ!」

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