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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王SUMMAR:夏】  
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第捌拾伍閑 死神の鎌と書いてサイドテールと読む!?

「そう、とても愉快な夢だねーたっくん」

 逸花いつかは言う。


「だろ?」

「うん、愉快だよ、とーっても愉快だよ」

 彼女は真っ黒な瞳で、貼り付けたような笑みを浮かべ笑う。

 ニッコりだ……。


「あ、あは、あはは、あはははは……」

 まずい……。

 今更ながら、どうして逸花にこんな話をしてしまったのだろうと、後悔してきた。

 どうしてこんな情報を公開してしまったんだ俺……。


「愉快愉快、ホント不が付くほどに愉快だよ」

 人はそれを不愉快と呼ぶのだ、とは、さすがにこの状況では言えなかった。


「ねーたっくん?」

「ハイ、ナンデショウ」

「どうしてたっくんはたっくんの癖して、私以外の雌そんなに楽しそうにしてるのかなー?」

 俺の癖してって何だ、とももちろん言えなかった。


「答えて? ねーたっくん、どうして?」

 そう言って、いつもどおりの暖かい笑顔で、逸花はりんごを剥いていたナイフを俺の首筋に突き付けた。


「ちょ、ちょっと待ってよ逸花いつか、まずナイフを片付けてくれ。そ、それはモノを切ったりするためもので、決して人に向けるものじゃない。な?」

「何言ってるのたっくん、たっくんは私のモノじゃない。でしょー?」

 ならそのナイフは、俺を切ったりするためのものなんだろうか……。


「それにねーたっくん、これはたっくんが悪いんだよ? たっくんが私以外の雌と仲良くしたから私は怒ってるの。本当は私だってこんなことしたくないの」

 私はたっくんを愛してるんだから、と彼女は言う。 

 こんなことをしたくないだって!? 嘘だ、絶対に嘘だ。

 親が怒りたくなくても子供を叱らなければいけないのとは、わけが違う。


「分かってくれるよねー?」

 分からない、まったくもって分からない。


「でもさ逸花、さすがの俺でも夢はコントロールできな――」

「それは私への愛が足りないからじゃないのかなー? 本当に私のことを愛してるなら、修行してコントロールしよーとか普通は考えるよね?」

 普通は考えない。

 修行って……まあ確かに訓練すれば夢も思いどおりになるとか何とか、聞いたことはあるけど。


「それを考えないってことは、たっくんは少しおかしいんじゃないかなー?」

 おかしいのはお前で、それを考えない俺はきっと普通だ。


「あ、そっか、そーだよたっくん。私ひらめいた!」

 と、目を輝かせる逸花。


「何を?」

 何をひらめいたにしろ、あまり聞きたくはないような気が、しないでもないけど。


「もういっそのこと、たっくんが夢を見られないようにすればいいんだよー!」

「よくないよ!」

 ツッコんではみたものの、逸花は全く聞いていなかった。


「ホント名案!」

 名案じゃないよ! 命安めいあんじゃないよ! 俺の命、全然安全じゃないよ!


「どうすればいいのかなー? 植物状態とか?」

 どうやら逸花は、完全に自分の世界に入り込んでいるらしい。


「あのー逸花さん?」

「あ、でも植物状態でも脳は生きてたりするんだよねー、確か」

 俺の言葉など、全く聞く耳持たない彼女。


「おーい」

「なら脳死状態にすればいいのかな。どうすればいいんだろう、後で先生に聞いてみよーっと」

 何だか凄く怖い言葉が聞こえてきた気がするんだけど、気のせいだろうか。


「これでたっくんは夢も見なくなる。なにより、脳死状態の彼の元へ毎日毎日通い妻のように通い続ける私」

「……」

「何だかとってもステキじゃない!? ねーたっくん」

 やっと自分の世界、逸花の世界、い世界から帰ってきた彼女は、俺にそう問いかけた。


「そ、そうだね色々ステキだね……」

 本当にステキすぎる。コイツの頭の中はきっとお花畑だ。

 ただそのお花畑は、不吉な花しかないお花畑だろうけど。


「でしょー!? たっくんならそう言ってくれると思ってた!」

 逸花は機嫌を良くしたのか、俺の首からナイフを離した。


「そうだたっくん、そうなったら一応聞いておきたいんだけどー」

「何でしょうか」

「もし脳死に失敗とかしちゃって普通に生きてたとしても、後遺症が残って、介護が必要になったときの話しをしておきたいんだけどー」

「そんな場合の話は、俺はしておきたくはないけどな」

「でも、後遺症で会話が出来なくなってからじゃ困るでしょー?」

 そもそもそんな状況にされること自体、困るんだけど。

 まあでも仕方ない、一応聞いておくしか今は手がない。


「わかったよ、で、何だ?」

「介護する場所はお家にするとして、お部屋は中か外どっちがいーい?」

「おかしいだろ!」

 どういう選択肢だ!


「え? 聞き方がおかしかったかな? ならこう言えば分かって貰えるかな? お部屋は室内がいーい? 室外がいーい?」

「おかしいのはそこじゃない!」

 俺が言いたいのはなぜ人が暮らす場所の選択肢に、室外があるかということだ。

 大体室外ってもうそれお部屋って言わないよね!?


「あー、あぁ、あぁわかった、ごめんねたっくん。こう聞けばよかったんだねー」

 逸花いつかは、ひらめいたとばかりに手を打った。


「室内犬になりたい? 室外犬になりたい?」

 可愛く小首を傾げて見せるのはいいけど、それも違う……。


「はぁ、室内犬でよろしくお願いします」

「わかった、室内犬だねー。そうだ。後、何本欲しい?」

「何本欲しい? 何がだ?」

 いったい何が何本欲しいと問われているのか、話の流れから全く推測できない。


「手足だよー」

「だよー、じゃねえ! どういうことだ!」

「だって介護するのも大変じゃない? どうせ使わないならなくてもいいと思うんだけど、たっくんがどうしてもって言うなら、残してあげてもいいかなーって」

 いいかなーって……。


「全部欲しいです、全部残してあげてください」

「ん~まぁ仕方ないかー。分かった、全部残してあげる」

「……」

「あ、性処理の心配はしなくても大丈夫だよー?」

 そんな心配は今のところしていない。


「ちゃーんと去勢してあげるから。しょりしょりって切ってあげる。なーんてね」

 いや、まったく洒落になっていないんですけど。


「大丈夫だよ、去勢はちゃーんと子供をつくってからにするから」

 そんな心配も、今のところはしていない。


「……」

「ふふっ。ホントたっくんは私ナシじゃ何にも出来ないねー」

 嬉しそうに笑う逸花。

 誰のせいだ、誰の……。

 ほとんど逸花の独断で、俺の未来が決まっていく。

 俺の寿命は二十歳までと神様に聞かされて様な気がするけど、そりゃこんな奴が近くにいれば、それも頷けるってもんだ。

 神様は、俺が死ぬとき神経衰弱をしてたって言ってたけど、絶対その相手、逸花だよな……。


「でも、本当は出来ることなら、そんなことせずに一緒に暮らしたいの」

 逸花はポツリと呟く。


「そ、そうだよ逸花、そんなことはしないで普通に暮らすことは出来ないのか?」

「私とたっくんが、普通に暮らすこと?」

 誰もお前と、とは言っていない。


「そうだねー……もしたっくんが修行して、私以外の雌の夢を見なくなれば、私の夢しか見なくなれば、そんなことをしなくても普通に暮らせるねー」

 どうして夢を見たくらいで、こうも命の危険に陥らなければいけないんだ……。


「す、するよ修行。俺、夢を操れるようになるからさ。そんなことしないでくれ」

「わぁ」

 逸花の目は、ぱぁ~っと花が咲いたように明るくなった。

 ただやっぱりそれは、不吉な花だとしか思えない。


「たっくんがそんなに私と暮らしたがってるなんて、私嬉しい」

 俺はお前と暮らしたいわけじゃなくて、生きたいだけなんだけど。


「でもダメ……」

「な、どうして?」

「だってたっくん飛び降りないって言ったのに…………嘘ツいタもノォォォォォォォォ!!」

「……っ!?」

 その声は、既に逸花のそれではなかった。

 そしてその姿も。


「なっ!?」

 気が付くと目の前の逸花の体は、全身黒、真っ黒、漆黒になっていて、目だけが妖しく赤く光っていた。

 手にはなぜか、体と同じで黒い大きな鎌を握っている。


「ひいっ……」

 そして次の瞬間彼女の体は形をなくし、ぼやっとした、まるで影のような、炎のような物体となり、揺らめき始める。

 鎌だけはしっかりと持って、ゆらゆらと。


「い、逸花?」

 何だ!? わけが分からない!


「タァァァァッッッックゥゥゥゥン!!」

 逸花、いや逸花であったその揺らめく黒い物体は、俺の名を呼ぶと巨大化し

「テンゴクデアイマショォォォォ!!」

 こっちが泣き叫びたくなるような、おぞましい雄たけびを上げ、黒い鎌を振り上げた。


「ひぃぃぃぃえぇぇぇぇ!!」

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