第捌拾肆閑 サマードリームジャンボ宝くじ
今日の昼食のメニューは、ビーチでも食べやすいようにとサンドイッチだった。
ラヴ特製のハーブを練りこんだパンに、エメラダの育てた畑の夏野菜がサンドされている。
「ラヴ、うまいなこのサンドイッチ」
「あ、当たり前よ」
最近はラヴもハーブの使い方が、本当に上手になってきた。
「のおアスタよ」
サンドイッチを、小さなお口で頬張りながらルージュ。
「何だ?」
「サンドイッチというのは、パンを食す、間の具を食す、そしてまたパンを食す、この三度の手間を一回に出来るから、サンドイッチと言うのかの?」
三度一ってか?
「いやそれは違うと思うぞ?」
「そうか」
と、さほど気にする風でもなく、また一口、サンドイッチを頬張るルージュ。
ふむ、サンドイッチの名称の由来は何だったか……聞いたことはあるような気がするけど忘れたな。
「まあババア、ババアの知恵袋のくせしてそんなことも分からないんですの? まあ年老いるくらい、年終えるくらい、誰でも出来ますものね。おほほのほ」
そう言ってルージュを挑発するネネネ。
「何じゃ!? ならおぬしには由来が分かるのか?」
「ええ、もちろんですの」
ネネネは自信満々に胸を張った。
「なら言ってみろ」
「それはこれを食べると、三度イッてしまうからですの」
「「……」」
無言で見つめ合う、俺とルージュ。
「バカを相手にしたワシがバカじゃった」
ルージュはネネネに哀れみの目を向けボソッと呟くと、再びサンドイッチに目を落とした。
ネネネ、君はホント一体、その回答のどこに自信があったんだ……。
「さあまおーさま」
そんな珍回答でも気にすることなく、更に続けるネネネ。
「何だよ、何をするつもりだよ」
彼女は、中身だけ食べたサンドイッチを、つまり食パンだけをを二枚、俺に向けている。
「まおーさまのまおーさまを、サンドしてイッチしようかと」
何だよサンドしてイッチって。
「三度してエッチ、ですの」
二枚の食パンを、俺の下半身に押し付ようとして来るネネネ。
「こらネネネっやめ――」
それを止めようと思ったがしかし、俺が止める前に
「ぎゃんっ!?」
エメラダがネネネの頭を殴った。
「痛いですの!」
涙目になるネネネ。
しかし泣いたところでエメラダが許してくれるわけでもなく、いつもどおりの平坦な声音でネネネに告げる。
「食べ物で遊ばない……」
「ハイ、ごめんなさいですの」
まおーさまエメラダちゃん怖いですの、と俺に助けを求めるネネネ。
「知らないよ、お前のせいだろ」
自業自得だ。
「仕方ないですの。ならまおーさまパンはあげますの」
彼女は二枚のパンを俺に差し出す。
よく分からないけど、とりあえず俺はそれを受け取った。
受け取ったはいいけど、パンだけ貰ってもね……。
「クゥニャ、もうその蛇焼けてると思うわよ」
蛇が焼きあがるのを楽しみに待っているクゥに、ラヴがそう告げる。
「やったのだ! アシュタお魚さん焼けたのだ!」
「おお」
丁度いい、それを挟んで食べるか、とルージュの作った火の前で、先早に蛇肉へとがぶりついているクゥの元に駆け寄った。
「どうだクゥ、お魚さんおいしいか?」
「う~ん、そこそこなのだ」
「そっか」
ラヴの言ってたとおりか。
おいしくも無ければ、まずくも無い。そこそこ。
「おそこなさんなのだ!」
おそこなさんって。
「アシュタもどーぞなのだ」
「ありがと」
クゥから木に突き刺さった蛇肉を受け取る。
でもこれじゃあ大きすぎてパンに挟めないな……切らないと。
「クゥ、ちょっとこれ持っててくれる?」
クゥにネネネから貰ったパンを渡す。
「ラヴ、剣借りるぞ」
「ええ」
地面に突き刺さっている勇者の剣を抜き、それで蛇肉を丁度いい大きさに切る。
それにしてもこの勇者の剣、戦いより、料理にばかり使ってるよな……。
「よし。ありがとクゥ」
蛇肉を切って挟み終わり、クゥから再びサンドイッチを受け取る。
そしてラヴとネネネとクゥ、三人の美女が触った、スーパーなサンドイッチを口に運んだ。
蛇肉の味は……やっぱり。
「微妙だな」
ルージュとエメラダにも触ってもらえば、もっとおいしくなるだろうか……グヘヘ。
「微乳なのだ?」
「あっこらラヴの前でそれは――」
「誰が微乳ですって!?」
案の定耳聡く反応するラヴ。
「ああいや、ラヴ。クゥは勘違いをしたんだ、漢字違いをしたんだ。クゥは微乳じゃなくて美乳って言いたかったんだよ。それにそんなに気にしなくても、ラヴの胸は完璧だって言っただろ?」
「ええ言ったわね、完全に壁だって言ったわね」
「でもよく考えてみろよラヴ、完全に壁に比べたら、微乳の方がまだあるだけマシじゃないか、っておっと」
「○ね」
実に単刀直入だった。
それから昼食を食べ終わった俺達は、時間なんて忘れて遊びまくった。
ネネネがかなりハイクオリティーな砂のお城を作ってみたり。
「さあまおーさま、とうとう二人の愛の巣が出来ましたの」
「何気に凄いな……でも番犬立てといた方がいいと思うぞ」
「どうしてですの?」
「だって……」
「何がアリの巣じゃ! 幼女に踏まれるという栄光!!」
それをルージュがラ○ダーキックで壊してみたり。
「キィィィィエェェェェ!!」
「はっはっはっは!」
エメラダにわけの分からない草集めをさせられたり。
「アスタロウ……拾って」
「喜んで」
クゥと貝殻を拾ってみたり。
「見て見てアシュタ、おっきなカニさん拾ったのだ」
「またカニさん? いやそれカイだよ、貝さんだよ」
「海産なのだ?」
「……う~ん、それネネネの巻貝水着だしな……人工物じゃないか?」
ラヴの遊泳に付き合わされたり。
「さあ、私もちょっと泳いでこようかしら」
「いってらっしゃーい」
「さあ! 私もちょっと! 泳いで来ようかしら!」
「耳元でうるさいな! 素直に引っ張ってって言えよ!」
定番のスイカ割りなんてしてみたり。
叩くのはラヴ、叩かれるのは置かれたスイカか……埋められた俺。
「ラヴリンよ、もう少し左じゃ」
「愛ちゃん! 右! 右ですのよ!」
「上なのだ!」
「……そこ」
「わかったここね」
「ちょ、ちょっと待てラヴ、違う! もっと右だ!」
「アンタの言うことなんて、信じるものですか!」
「あぁぁぁぁそれは俺の頭だぁぁぁぁ!」
エメラダが何気に酷かった。
「大分薄暗くなってきたわね」
ラヴの一言に、皆が空を見上げる。
既に日は海に沈みつつあり、遠くの空だけ真っ赤に燃え盛っていた。
「ババアのせいで疲れましたの」
「年増のせいで疲れたのじゃ」
「ボクも眠いのだぁ」
仲良くだらんとしなだれる、ネネネとルージュとクゥ。
「アスタロウ……」
「そうだな、帰るとしますか」
リヤカーで……。
「お?」
「どうしたのよ?」
俺の声にラヴが振り返る。
「いや、今海に何かいなかったか……?」
人間のような、魚のような、よく分からないシルエットのものが飛び跳ねたような、とラヴに説明する。
「さあ、見てないわ。でもそれ人魚じゃない?」
当たり前のようにそう言うラヴ。
実際人魚なんて存在は、この世界では当たり前なんだろう。
俺だって驚いたりしない。
「そうか、いるって言ってたもんな」
「まおーさま、呼びまして?」
と、さっきまで疲れて元気の無かったネネネが、目を輝かして俺の方を振り返る。
「ネネネは人魚じゃないだろ」
「いやんですのまおーさま、ネネネはまおーさまのお人形ですのよ?」
「はいはい……」
ネイドリーム・ネル・ネリッサ、略してドールってか。
どちらかというと俺はネネネの名前を初めて聞いたとき、子供の頃大好きだったお菓子の『ねるねるねるね』、ねるねるの略かと思ったんだけど。
まぁ、ねるねる、一緒に寝る寝る、な悪魔なわけだから、あながち間違いじゃないのかもしれない。
「ほれ、アスタが言っておるのはこれのことじゃろ」
今度は眠たそうにウトウトしているルージュが、カボチャの人形、ジャッ君を俺に差し出してくる。
「違うよルージュ、それは人魚じゃない。それこそ人形だ」
「そうか」
「そうだよっと。ま、何でもいいや、帰ろう」
こっくりこっくりと、今にも倒れて眠ってしまいそうなルージュを抱き上げリヤカーに向かう。
帰りも、魔王城までの長距離運転を覚悟していた俺だったが、しかし
「ぶぅぅぅぅんなのだ~!!」
なぜか眠たいと言っていたクゥが、突然運転したいと言い出し。
ネコ○スならぬイヌバスに乗って、超特急の超高速で、ジェットコースターなみに絶叫しつつ
「ひぃぃぃぃやぁぁぁぁ!!」
魔王城へと帰った。
「っていう夢を見たんだよ」
俺はベッドの上に座って、隣でりんごを剥いてくれている栗毛のサイドテール。 幼馴染の遊佐逸花、逸花にそう言った。