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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王SUMMAR:夏】  
80/224

第漆拾漆閑 美獣女扇風機&美女クーラー 始

「あっついなあ」

「あついのだ~」

 異世界へ帰ってきて、数日が経った朝。

 長くて長い机の置かれた食事の間で、ラヴの作った朝食をとり終えた俺とクゥは、あまりの暑さに、机の上にだらんと力なく倒れ込んでいた。

 クゥなんて耳もしっぽも、そして舌までもがだらしなく垂れ下がっている。


 そんな俺達の前で、涼しい顔して本を読んでいるラヴ。

 それと同じくいつもどおりのすまし顔で、ボーっとポワーッとしているエメラダ。

 この子達は暑さを感じないんだろうか……。

 それにネネネとルージュも、いつもどおり庭を駆け回ってるはずだし。

 あれだけ日が照ってても外で駆けずり回るなんて、さすが子供だ。

 まぁルージュなんて日じゃなくて、火にも飛び込んで平気な顔してたくらいだからな……。

 と、そんなことを考えていると、ふわっと浮き上がるようにエメラダが席を立った。

 そして部屋の出口へと、歩いて行く。


「どこ行くんだエメラダ」

「植物に、水やり……アスタロウも行く?」

「いや、遠慮しとくよ」

「そう……」

 この暑さで、外に出ようなんて気が起きない。

 朝でこれだけ熱いんだから、昼間はどうなるのか分かったもんじゃない。

 最近は特に暑さが酷くなってきたからな……。


「行ってらっしゃいエメラダ」

「行ってらっしゃいなのだ」

「……」

 エメラダは無言で部屋を出て行った。


「いやぁそれにしても、本当にあっついなあクゥちゃんよ」

「暑いのだ~」

 う~、と唸るクゥ。

 クーラー欲しい……せめて扇風機でも……。

 扇風機!? そうだ!


「クゥちゃんクゥちゃん」

「何なのだアシュタ」

 彼女は最小限の動きだけで俺の方を見る。


「君のしっぽ、振り回してくれよ」

「どうしてなのだ?」

「そうしたら風が起きて、涼しいだろ?」

「なるほど! 凄いのだアシュタ!」

 クゥは、ぱっと、笑顔で笑顔で起き上がる。


「やっぱりアシュタは天災なのだ!」

 いや、天才ね……俺を災いみたいにしないで……。


「よし、やってみよう」

「みようなのだ!」

 そうして椅子から立ち上がり、俺に向かってお尻を突き出すクゥ。

 そしてその突き出されたお尻に、顔を近づける俺。

 ……何だか、理由を知らない人が今の状況を見たら、明らかに変態野郎と勘違いされる構図だった。

 まぁ背に腹はかえられない。

 そ、それにこれはいかがわしい行動なんかではない、決してない。


「じゃあいくのだアシュタ」

「おう、よろしく頼んだ」

 クゥのしっぽがゆっくりと動き始め、尾風と言うか、微風が肌で感じられる。


「おお、いいぞ、もっともっと」

 しっぽの振りが大きくなるに連れて、風もどんどん強くなる。


「ひゃ~涼しい~」

 こりゃあいい、何という発明品だ。

 更にこれが美獣女の起こした風だと思うと、余計に心地よかった……グヘヘ。

 しかし風はすぐにやんでしまった。


「ん? あれ? どうしたクゥ」

「アシュタ。これ、涼しいのはアシュタだけで、ボクは全然涼しくないのだ……」

 むしろ動いてる分余計に暑いのだ、と、彼女はしっぽを振るのをやめ、床に寝転がった。


「うにゃぁぁぁぁ~」

 あらあら本当だ、そのことを考えてなかったな。

 こりゃ大変だ、とんだ欠陥品を発明してしまったもんだ。

 確かにこれじゃあクゥ以外の人は涼しいけど、クゥ本人はまったく涼しくならないじゃないか。

 更に動く分暑くなるとか……ダメだなこれは。


「あついのだ~」

「あついな~」

 俺もクゥを真似て、床に寝転がってみる。

 気休め程度にはひんやりしていて、気持ちよかった。

 それでもやっぱり暑かった。


「暑いな……」

「ぶ厚いのだ……」

 何が……!?


「あー暑い!」

「あーついのだ!」

「アンタたち、暑い暑いうるさいのよ!!」

 ドンっと机を叩き、叫んだのはラヴ。


「ひいっ!」

「私だって暑いの我慢してるの! 横で暑い暑い言われたら、余計暑くなるでしょうが!」

 ラヴは俺達の寝転がってる方までやってきて、腰に手を当て仁王立ちで俺達を見下ろす。

 もし彼女がスカートをはいていたら、パンツが見えそうな角度だけど、彼女はスカートをはいていないし、そもそも今はそんなことを言っている場合じゃなさそうだ……。


「ご、ごめんなさい」

「ごめんなのだ」

 彼女の目には、暑さのせいでイライラしてたのか、いつも以上に殺気がこもっている。


「ゴクリ……」

 いつもどおり冷気とも取れるその殺気に、肝を冷やした。

 この冷気を使えば……とは思ってみたものの、肝は冷えたけど、そんなものを冷やしたところで体はやっぱり熱い。

 第二の発明品にすることは、不可能そうだ。


「分かったらもう少し静かにして」

「でもさ、やっぱり暑いよラヴ」

「七月なんだから仕方ないでしょ?」

「七月?」

 この世界に暦や季節なんかの概念はあるのか?。

 今まで暮らしてきて、それっぽいのは多々あったけど。


「そうよ、何? 私何かおかしなこと言った?」

「七月って、あの七月?」

「ええ、だって空に七個月が出てるでしょ?」

「ん? ああ」

 そういえば、最近は空に月が七個くらい出てるな……明るくて仕方ないんだけど。


「だから七月じゃない」

「月が七個出てるから、七月?」

 そうよ、と、頷くラヴ。

 月の数と、暦の月との間に何か関係性があるのか……?

 よくよく考えれば、あの月どんどん増えてるんだよね……俺が来たときってもっと少なかったと思うし。


「月が七個だと、七月七日? いや、七月なのか?」

「そうでしょ? アンタ本当に何言ってるの?」

 ラヴは首をかしげ、眉をひそめた。


「いやぁ、その辺詳しく教えて貰えると、助かるんだけど……」

「え、嘘、アンタそんなことも忘れちゃったの?」

 信じられないと、ラヴはバカを見るような目でこっちを見る。

 実際バカを見ているのだ……。

 いや、忘れたわけじゃなくて、ネバネバが……ね。

 もういちいち言わないけど。

 大体こういうことって、来たばかりの時に聞くべきと言うか、聞きたくなるものだよな。

 まぁ本当は前から気になってはいたんだ、でもそれ以上に気になることが多過ぎて、聞きそびれてしまっていた。


「まぁいいわ、詳しく教えてあげる。詳しくって言っても、そもそも簡単にしか説明できないくらい、子供でも分かるくらい、単純なことなんだけど……」

 心底呆れた顔で、席に座りなおすラヴ。

 俺も彼女の話を聞くべく起き上がり、椅子に座る。

 俺が向かいの椅子に座るのを確認すると、ラヴは話し始めた。

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