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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第二部 異世界で暮らしま章      【魔王SUMMAR:夏】  
79/224

第漆拾陸閑 魔王様? NO! 魔王SUMMER!

 そしてルージュの舌が、俺の頬を這おうとしたとき

「待って吸血鬼……」

 と、ルージュを止めたのはエメラダ。

 エメラダは紺色のスクール水着を着ていて、胸元には強そうな文字で『師匠』と書かれてあった。

 ラヴが書いたんだろうな……。


「何じゃエルフっ

「……私、薬持ってきた」

「薬じゃと?」

 太陽の光に照らされ、より一層ポワポワした雰囲気を纏ったエメラダの手には、緑色の何かが入ったビンが。


「……」

 そして彼女はそのビンを、『これ』と言いたげに、無言で俺達に見せる。


「そんなもん要らんわい、こんな傷唾つけとけば治る」

「ダメ、それじゃ治り遅い。アスタロウ痛い」

「アスタ、痛いのか?」

「ん、ああ、まあ痛いかな」

 そこでラヴをチラ見する。


「な、何よ! 悪かったわね! あ、謝るわよごめんなさい!」

 などと一人でわめくラヴなど、気にも留めないルージュとエメラダ。


「ふむ、なら仕方ないの。エルフっ娘、アスタに薬を塗ってやれ」

「言われなくても塗る……」

 エメラダのその言葉にルージュは少し渋い顔をしたが、どうにも言い返せないようで、黙った。

 エメラダ恐ろしい子。


「……」

 スク水姿のエメラダが、無言でこっちに来てというので、彼女に近づく。

 するとエメラダは、ビンのふたを開けて、ぬとっとした緑色の薬を手のひらの上に取り出した。

 そしてビンを地面に置くと、彼女はなぜか薬を持った方の手を後ろに引き、思いっきり俺の頬の傷口目掛けて――


「いってぇぇぇぇ!!」

 え? 何? どうして今の状況でビンタ!?

 どうしてですかエメラダさん、俺何かしました!?


「落ち着いてアスタロウ、薬が塗れない」

 これが落ち着いていられる状況だろうか……。

 そして更にエメラダは、傷口にゴリゴリと薬を擦り込む。


「痛い痛い痛い痛い!」

 痛いですよエメラダさん!? アスタロウ痛いですよ!?

 この薬めちゃくちゃしみる、ってかもうちょっと優しく――


「大丈夫、すぐに薬が効いてくる、痛いのは初めだけ」

 とんでもない三回目だ!

 エメラダは俺のことなど意に介さず、更に傷口に薬を押し込む。


「ひぃぃぃぃ……」

 痛すぎる……涙が出ちゃう……。

 良薬口に苦しじゃない、良薬傷口に痛しだ。

 というか、もうこれ我慢できない……。

 いや別に、手を動かすたびにたゆんたゆんと揺れるエメラダの胸に我慢が出来ないとか、そういうわけじゃない。

 痛みに我慢が出来ないんだ。

 何とかエメラダの動きを止めないと……。

 ということで、俺はエメラダの背中に手を回し、彼女を抱きしめた。


「んっ……」

 耳元で彼女が小さく息を吐くのが聞こえる。


「アスタロウ、めっ、これじゃ薬塗れない」

 こんな状況でも、エメラダの声は当然いつもどおり平坦だった。


「はい、ごめんなさい」

 何だかそれが逆に怖いので、俺は彼女から手を離した。


「いいこいいこ」

 するとエメラダは、頭を撫でてくれた。

 わ~い! これが適正なアメとムチってやつだ。

 と言うか犬扱いされてるだけな気も、しないでもないけど。


 あれ? そういえばさっきから静かだけど、家の愛犬はどこへ行った?

 エメラダが薬を塗り終わり、よし、と言うので辺りを見渡す。

 クゥはすぐに見つかった。

 静かだと思ったらあんなところに……。

 彼女は大きな岩の前にしゃがみながら、黒い尻尾をパタパタと振っている。

 何だか楽しそうだけど、何をしてるんだろうか。

 いやあそれにしても、褐色の肌と黒い髪に、真っ白なセパレート水着がよく映えるな。

 と、そんなことを考えながらクゥのもとへ近づく。


「クゥ、何してるんだ?」

「見て見てアシュタ!」

 クゥは、嬉しそうに岩の間を指差す。


「カミさん見つけたのだ!」

「カミさん?」

 女将さん? こんな岩の間で、高級旅館でも営まれているんだろうか?

 しかし覗き込んだ岩の間にいたのは、女将さんなんかではなく小さなカニ、カニさんだった。


「カニさんだね」

「カミさんなのだ」

「……」

 岩の間覗き込んだら女将さんがいるとか、考えてみればどんなシュールな状況だよ。


「ミ、じゃなくてニだよクゥ。スリーじゃなくて、トゥー」

「ボクはワンなのだ」

 まぁ確かにそう教えはしたけどね。


「それじゃあカーさんになるね」

「お母さんなのだ?」

「違う!」

「違うのだ!」

「……っ!?」


「蚊さんなのだ?」

「違う!」

「違うのだ!」

「……っ!?」

 よく分からないけど、にひひ、と笑いしっぽを振るクゥ。

 よく分からない、本当によく分からないけど、可愛いは正義だということだけはよく分かった。


「まおーさま、ワンちゃん。お母さんと聞こえましたが、ネネネを呼びまして?」

「呼んでないわ!」

「呼んでないわん!」

 まったくもうまったくもう。

 ネネネはいったいいつから、誰のお母さんになったって言うんだ。


「アシュタ、カミさんあげるのだ」

 そう言って、カニを手で取り、俺に渡してくるクゥ。


「カニさんね」

「カーさん? カニさん? カミさん?」

 クゥは、ん? ん? と首を傾げる。


「カミさんなのだ!」

 結局そこに落ち着くんですね……。

 まぁいっか。


「ありがとう」

 そして、クゥが差し出すカニを受け取った瞬間だった。

 別に急に空が曇り出してきたとか、海が荒れ始めたとか、そういうわけじゃない。

 カニに指を挟まれた。


「いってぇぇぇぇ!!」

 またですか!? 今日何回目ですか!?


「にゃははは、大丈夫なのだアシュタ、痛いのは初めだけなのだ!」

 最高の四回目だ!


「このクソ!」

 俺は急いで手を振り回し、カニを振り払った。


「ああ、アシュタ! カミさん飛んでいちゃったのだ」

 女将さんが地方に飛ばされた……。


「はぁ、はぁ……クゥ、カニさんはかわいそうだから、逃がしてあげよう?」

「……分かったのだ」

 砂浜に無事着地し、岩場の隙間に戻って行くカニさんに、クゥは

「バイバイなのだ~」

 と、挨拶をする。


「ふーふー……えらい目にあった」

 カニを取って、挟まれた指を見てみるとそこからは血が出ていた。


「アスタロウ、薬塗る?」

「いえ、結構です……」

「そう……」

 そう、その薬を塗る方が痛い。


「ならアスタ、その指の傷はワシに舐めさせろ」

「え? あ――」

「はむ……」

 ルージュは言うが早いか、その小さな両手で俺の手を掴み、これまた小さなお口で、俺の血のついた人差し指を咥えた。

 そしてチューチューと、俺の人差し指を吸う彼女。

 何だか傷口から出た血を舐めてると言うより、傷口から体内の血を吸われてるような気がする。

 何といいますかこう、前のときとは違う妙な感覚が……。


「あ、あのルージュ?」

「ぷはぁ~、いやあすまんのアスタ。これだけ暑いとしっかり水分補給せねばならんからの。ちと血液をわけて貰ったわ」

 やっぱり血はうまいのぉ、とルージュ。


「やめて!? 俺の血で水分補給とかやめて!?」

 俺が貧血になったらどうする。


「まおーさまネネネもチューチュー吸いますのぉ」

「やめろ!」

 どこ触ってやがるんだまったく。


「どうしてですの? ああん、ネネネも水分補給しないと、この暑さでヤられてしまいますの」

「やられてしまえ!」

「ヤって?」

「やるか!」

 とかまぁ、何とかありつつ。

 いや、それにしても俺は幸せだな。

 こんな、美人に美女に美幼女に美少女に美獣女と一緒に海に来ることが出来るなんて。

 と言うか……。


「お前らどこから水着出したの?」

 海に来るまでは、車で来るまでは、皆普段と同じ服だったのに。

 あ、ちなみに車というのは自動車ではなく、リヤカーだ。

 もちろん運転手は俺。


「道具袋よ」

 と、ラヴ。

 うん勇者らしい回答だ。


「まおーさまの玉袋ですの」

 と、ネネネ。

 出してない、決してそんなものは出してない。


「知恵袋じゃ」

 と、ルージュ。

 その知恵で作り出したんだねきっと……。


「寝袋……」

 と、エメラダ。

 ね、寝袋につめて持ってきたのかな……?


「ホクロなのだ」

 とクゥ。

 うん、もう袋でもないねそれ。

 結局よく分からないんだけども。


「おいアスタ、そんな細かいことは気にせんでよい。海に来たのじゃから、ペチャクチャいつまでも喋っとらんで、さっさと泳ぐぞ」

「いや、そんなことより――」

「そうですのよまおーさま、早く泳ぎましょう」

 久しぶりに意見の合った、ネネネとルージュ。


「そうじゃの、海といえばやはり水上鬼ごっこじゃ!」

 何それ、初耳。


「それ!」

 ルージュはジャンプすると、ネネネの巻貝水着を取って、海へと駆けて行く。


「何するんですの!? 返しなさい!」

「返して欲しかったら、追いかけて来い。はっはっはっは!」

「キィィィィ! 待ちなさいですの!」

 上半身真っ裸のまま、タユンタユンと乳を揺らしルージュを追いかけるネネネ。


「にゃはははは! ボクも行くのだ!」

「私も浮く……」

 う、浮くって何ですかエメラダさん……。


「あぁあぁ、行っちゃった……」

 まぁいいんだけどさ、まずはどうして海に来ることになったのかってのを説明しないと。

 『ということで俺達魔王城の愉快な仲間たちは、いつだったか来ようと思っていた、海へやって来ていた』

 なんて言ってるけど、どういうことだよって話だ。

 そんなわけで、ちょっと回想。

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