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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第一部 異世界で遊びまSHOW!
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第漆拾閑 Re:verse あまローグ

 目を覚ますと俺は真っ白な空間にいた。

 ここはどこだ? 俺はいったい……?

 トンネルの向こうは雪国だった、と言わんばかりの白くて白い空間。

 どこまで続いてるのか分からない、前後左右に、東西南北に、ただただ広い、ともすれば果てなんてないんじゃないかというような空間で一人、ポツリと立ち尽くしていた。

 いや、正確には今も尚立ち尽くしている。

 そしてより正確を期すというか、記すなら、ここにいるのは俺だけじゃなかった。

 俺の目の前にはいつの間にか、真っ白な服を着て真っ白な羽を生やした女性と、同じく真っ白な服を着て真っ白な髭を蓄えたおじいさんが並んで立っていた。

 と、いうかまず白すぎだろってつっこみたい、そりゃ背景と同化して気付かなくても仕方がない。

 わざわざそんな服着て、同化してるというよりも、どうかしてるぜ!


「「……」」

 がしかしそれにしてもこの人たち、それとこの空間、どこかで見たような……。

 誰だったかな、このニヤケ面のじーさん。


「随分と異世界生活を謳歌しとったみたいじゃの魔王アスタ。いや、桜満明日太おうまあすたよ」

 ああ! 思い出した!

 ピコーンと頭の上で電球が光った気分だ。

 このじーさん、俺を散々バカにした神様だ。どおりで見たことがあると思った。

 とすると、横のお姉さんはナースの天使さんだな。

 なんだかあの神に様をつけるのも嫌だな、呼び捨てで神……いや神と呼ぶのも嫌だな。

 ようし、紙にしてやろう。コイツのキャラクター性なんて、せいぜい紙一枚の薄っぺらなもんだろう。

 いやもういっそのこと香美にして――


「ゴホン、もうよいかの桜満明日太……悪いがその悪口は全部聞こえておる」

 げ……そういえば香美、じゃなくて神様心が読めるんでしたね。


「そうじゃよ、テヘッ」

 相変わらず可愛くねえな……。

 ちょっと待って下さい神様、ここに神様がいるってことは、ここは天界ってことですよね?


「ちょっと待て桜満明日太よ」

 何です?


「いくらわしが心を読めるからといって、黙るなどという横着をするな」

 ああ、はい、そうですね。分かりました。

 で、神様。


「……」

「いや冗談ですって神様、イッツ ゴッド ジョークですよ!」

「……」

 ヴァイオレットのように『HAHAHA!!』とはならなかった。

 これぞオーマイゴッドだ。


「神様、とりあえず質問があるんですがいいですか?」

「何じゃ? ここが天界かということなら、それで正解じゃ」

「いや、それはもういいんです」

 ここが天界かどうかなんてのはただの確認だっただけで、神様がいる時点でここが天界なのは分かっていた。


「そうか」

 ん? これ喋っても聞こえて、心で思ったことも聞こえてるんだよな?

 とすると、使い方によっては、強力な武器になるんじゃないか?

 ほら二重攻撃というか、同時攻撃というか。

 よし、やってみるか。

「バカ神!」

 バカ神!


「ぬぐ……」

「アホ神!」

 アホ神!


「ぬぐぐ……」

 案の定神は顔をまっ赤にし始めた……今回は恥ずかしさからじゃない、怒りでだ。


「おのれ桜満明日太おうまあすたよ、神であるわしを愚弄するか!?」

「え? 紙? 和紙?」

「ぬぐぐぐぐ……」

「冗談ですよ冗談、謝りますって」

 ご

「め」

 ん

「な」

 さ

「い」

「神、桜満明日太様、いいかげんにしてください」

 と、割って入ったのは、元ナース現天使のお姉さん。

 まぁ元から天使なわけだけど。


「天使よ、様の付け所間違っておらんか?」

「神は黙ってて下さい」

 彼女は相変わらずきつかった。


「異世界へ行って大分成長されたみたいですね、桜満明日太おうまあすた様」

「え?」

「神のいじり方が素晴らしかったです」

 確かに異世界に行って、あんな奴等と毎日毎日一緒に過ごしてたからな……そこら辺のスキルはとんでもなく上がってるかもしれない。

 かもしれないけど、そこを褒められてもあまり嬉しくないと言いますか、何と言いますか。


「ですが今はそんなことをしている場合ではありません、さっさと先に進めてください」

「はい……」

 ちょこちょこ言葉に棘があるような気がするんだよな、この天使。

 やっぱり全然天使なんかじゃ――いやぁ凄い殺気だ……。


「ゴホン、それで桜満明日太よ、質問とは何じゃ」

 と、神は話を元に戻す。


「どうして俺は、また天界に呼ばれたんですか?」

「……?」

 無言で首を傾けたのは、天使さんだった。


「どうして天界に呼ばれたのか分からないんですか?」

「ええ、まぁ」

 俺がそう答えると、天使さんはキッと神を睨みつけた。


「まさか神、あなた連絡しなかったんですか!?」

 連絡?


「し、した、したわい!」

 天使の威圧に狼狽する神。


「お、おおい、桜満明日太。嘘をつくな、わしはしっかり連絡したじゃろう?」

「いや、まったく身に覚えがないんですけど」

 少しも、ミニも覚えがない。


「いつぐらいですか?」

「そうじゃの……ほれ、雨の日で……トランプをしとったときじゃったかのう」

 トランプ……?

 ああ、ああ! 思い出した、あの時確か変な声がした。


「それじゃ」

「あれかよ!」

 超短いじゃねぇか、しかも……。


「ほとんど聞き取れなかった気がするけど!? はっきり聞こえてたのって、確か『テヘッ』の部分だけだったような気がするけど!?」

「テヘッ」

 そのペロッと出した舌、切り落としてやりたいよ。


「神、相変わらず仕事が雑ですね」

 まったくだよ、俺を間違えて殺してしまったことといい、まぁそのおかげで夢の異世界へ行けたわけだけど。

 それにしても、本当にどうして俺は天界へ呼ばれたんだ? 連絡の内容は何だ?


「そんなことは考えずとも分かるじゃろう?」

 ……俺が天界に呼ばれる理由?

 あっ、もしかしてっ!


「そうじゃ」

 神は静かに目を瞑り、ゆっくりと頷いた。


「毒キノコを食べて死んでしまったから……」

「違うわい!」

「違うのかよ!」

 なら先回りして、『そうじゃ』とかそれっぽい雰囲気醸し出しながら言うなよ。

 まったくもう、まったくもう。

 うぅん、俺が天界に呼ばれる理由ねぇ……いまいちピンとこないな。

 頭の上の電球が点灯しない。


「まぁよいわい、それが嫌で無意識に触れないようにしとるのかもしれん……」

 神は、ぶつぶつと何かを呟いている。


「少しヒントをやろう、神の見えざる手ではないが、全くないが、思い出すのに手をかしてやろう」

 ヒント?


「お主はなぜ異世界へ行った?」

「行きたかったからですよ」

「そうではない、なぜ行くことになったか、と聞いておるのじゃ」

 ふむ、確か神様が間違えて俺を殺してしまった。

 で、元に戻そうにも神のせいで色々ややこしくなってしまっていたので、それには時間がかかる。

 でも人の魂は天界では長く留まっていられない。

 だからいったん異世界へと飛ばされた。

 まぁ大体こんな感じだったかな?


「そうじゃ、そこまで行けばもうどういうことか分かったじゃろ?」

「ということは……」

「今度こそ、そうじゃ」

 元の体に戻る時が来た。

 元の体への帰還、元の世界への帰省ならぬ帰世きせい

 それすなわち、異世界とのお別れ、彼女たちとのお別れ、ラヴとの、ネネネとの、ルージュとの、エメラダとの、クゥとの……。


「お別れ」

 うむ、と頷いた、神も天使さんも。


「そんな……」

「いやぁやっとじゃな、まったく。他の神にばれんように、お主が元の体に戻る準備をするのは苦労したわい」

「急すぎですよ! それに俺は元の体なんかに戻りたくない!」

 異世界にいたい!


「ダメじゃ、元から戻れるようになるまでの約束じゃったじゃろう」

「そうだけど、選ばせてくれたっていいじゃないか、元の世界に戻るか、異世界に行くか」

 天界に留まって消滅するか、異世界に行くか選択させたみたいに。


「それではわしが苦労して準備した意味がなかろう」

「まぁ準備したのは私ですけどね」

「うっ……」

 今だけは天使さんが、女神に見えた。


「お主を元の体に戻さねばいずれわしのミスがばれてしまう。今回は一秒たりとも時間はやらん」

 神は俺を異世界に送ったときのように、手を高く振り上げた。

 すると俺の体は発光し始め、視界は徐々に白い光に埋め尽くされてゆく。


「そんなバカなことがあるか! 全部アンタの都合じゃないか! バカ! アホ!」

 間違えて殺して、ミスを隠すため異世界へ送り、最後には仲間たちと無理やり、いきなり引き離して。

 確かに異世界に行かせてくれたことは感謝している。

 元の体に戻る準備が出来るまで、という条件を忘れてたのも俺だ。

 でも、これは……あんまりだろ……。


「神とはそういうものなのじゃよ。自分勝手で、気まぐれ。すまぬな桜満明日太よ。テヘッ」

 舌をペロッと出した神の顔は、やっぱり全然可愛くなかった。


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」






 ここで叫べば、ここで涙を流せば、もしかしたら桜満明日太の、魔王アスタの、秘められた力が開放される、何ていう都合のいいことが起こるかなと、中二病患者のように少し期待してみたりしてみた。

 けど、そんなことは起こるはずもなく、俺の叫びと、涙と、意識は、光の中へと飲み込まれていった。

 とんだ名ばかり主人公だ。

 こうして俺の異世界生活は、唐突に幕を下ろした……。

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