第陸拾陸閑 端材の山へ連れてって
「ねぇまおーさま、ネネネとまおーさまの念願のマイホームは、どんなお家になるんですの?」
レッツゴーとか言っておきながら、どこに行って何をどうすればいいのかまったく分からない。
俺はとりあえず、左肩にヴァイオレットを乗せ、右腕にネネネをぶら下げ、城の外へ向かう。
「ネネネ、作るのは俺達のマイホームじゃない、ヴァイオレットの家だ」
それに俺にはもう魔王城というマイホームがある。
まああそこはホームと言うより、アウェイな気もしないでもないけど……。
そう言う意味ではお家と言うより、凹地の方が漢字的にも感じ的にもしっくり来る。
「ヴァイオレット、家を建てるって木でか?」
俺はいまいち見辛い感のある、左肩のヴァイオレットへ視線を向けた。
「ええそうです、木です。ですが今年は、その木がなかなか集まらず、作業が進まないんですよね」
ならまずやるべきことは、木材集めということか。
ふむ、小人に丁度いい大きさの木ね。
身長五センチ程度の彼女に、丁度いいサイズと言えば枝くらいだろうか。
と、そんなことを考えながら城の門を出ると、前から城に向かって歩いてくる人影が見えた。
その人影は、久しぶりに登場する、四天王最速、括弧逃げ足の男
「ようゲイル久しぶりだな」
ゲイル・サンダークラップだった。
「やや、これはこれは魔王様、お久しぶりでございます」
何て言って、ゲイルは珍しく深々と頭を下げた、珍しくね。
「城に何か用か?」
「ええ、報告に参ろうかと思いまして」
「それも久しぶりだな」
随分前から、報告が途絶えてたような気がするんだけど。
「申し訳ございません、村の人口増加に伴って、新たに家を建てたり道を綺麗にしていたりで、忙しくてなかなか時間が出来ず」
新たに家を建てていた……?
「それにしても魔王様、相変わらずのハーレムっぷりで、ウラヤマシイ」
肩に乗るヴァイオレットと、腕にぶら下がるネネネを見て、ゲイルはそう言った。
ハーレムねぇ……もしこれが本当にハーレムだとするなら、このハーレムは俺に優しくない。
俺からすれば、ハーレムと言うよりハーデスだよ。
ここは異世界じゃない、冥界だ。
まぁ飛び降りて来たことと、実際に悪魔がいること、ケルベロス(自称)がいることも踏まえれば、ここが冥界だというのも、あながち間違いじゃないのかもしれない。
「それに現在では、私がいたときにはいなかった、新たなメンバーまで手に入れたとか……本当にウラメシイ」
恨めしいって……。
「その手に入れたっていうのやめてくれよ、それじゃあまるで俺が故意に女の子たちを集めてるみたいじゃないか、そういうわけじゃないんだ」
誤解を招くのは嫌なのではっきり言っておくけど、そういうわけでは決してない。
「やや、そうでしたか、それは失礼いたしました。……チッどうだかな、このゲス野郎が」
「……ゲイル、今何か言ったか?」
「いいえ何でもございません、ゲス様」
「何だよゲス様って!」
ゲストか? ゲスト様の略か!?
「やや、魔王様のお名前は“ゲス”ではございませんでしたか?」
「違うよ! どんな間違いだ! 俺の名前はアスタだ!」
“ス”しか合ってねぇ!
せめて『ゲスタ』くらいにしやがれ!
いやそれも嫌だけども。
「やや! そうでしたか、申し訳ございません」
「その『やや』って言うのも、やめろよ!」
まったくもう、まったくもう。
「そんなことよりゲイル、さっき新しい家を建ててるって言ったな?」
「ええ、言いましたがそれがどうかなさいました?」
「えっと、その家を建てるときに使った木の、切れ端とかあまりとかないか?」
「あります、あまりと言うか、端材でしたら、山積みになってますが」
よし、これはラッキーだ。
「それって、貰って行ってもいいか?」
「構いませんが、どれも小さすぎて使い物にならないものばかりですよ?」
「それでいいんだよ」
綺麗であればそれで構わない、むしろその方が好都合だ。
「悪いがその木の山に案内してくれ」
「分かりました」
ゲイルは、分かりましたとは言ったものの、よく分からないといった表情で踵を返し、俺達を引きつれ村へと向かった。