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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第一部 異世界で遊びま章
61/224

第伍拾捌閑 朝は奴隷で……。

「あっつい……」

 妙に足元が暑いと思い、目を覚ましたら…………。

 朝だった。

 うん、何も不思議じゃない。

 どうやら今日は天候が悪いらしく、窓からは朝日は差し込んでいないし、ドラゴンの咆哮も聞こえない、でも朝だ。

 朝なのはいいといしよう。

 どうして、足元がこんなにも暑いのか、まるで布団の中に湯たんぽでも入ってるかのように熱い。

 そんなことを思いながら、原因を探るべく掛け布団を持ち上げると、そこには湯たんぽがいた。

 クゥという名の湯たんぽが、俺の足元で丸まって寝てる、そりゃ熱いわけだ。


「クゥ、そんなところで何してるんだ?」

 確か彼女はソファの上で寝ていたはずなんだけど。


「ん? あしゅた?」

 寝ぼけたような声を出しながら、顔を上げるクゥ。

 布団の奥の闇で、銀色の瞳がギラリと輝く。


「んに~~~~」

 クゥは四つん這いで犬のようにのびをした後、またコテンと力なく布団に寝転がった。


「おはようクゥ」

「う~ごろごろごろごろ」

 彼女は布団からズボッと抜け出すと、器用にベッドの上を転がり回り、俺のお腹を枕にして大の字になった。

 そして一言。

「おはようなのだ」

「どうしてあんなとこで寝てたんだよ」

 俺は質問しながら、クゥの真っ黒三角お耳をいじくりたおす。


「う~ん……あそこが落ち着いたのだ?」

 だからなぜ疑問系?


「そっか」

 まぁ何でもいいんだけど、人に引っ付いて寝るのが落ち着くって、こりゃ本格的に犬みたいだな……。

 こうなってくるとご主人様の意味が変わってくるよ。

 奴隷としてのご主人様じゃなくて、飼い主としてのご主人様に。

 まぁ『お帰りなさいませご主人様』って丁寧に言われなくとも、玄関開けたらお『お帰り! お帰り!』ってしっぽ振って飛びつかれるのも悪くないか。

 それがこんな可愛い犬ならなおさら……グヘヘ。


「クゥ」

「何なのだ?」

「お座り」

 彼女はシュタっと起き上がり、ヤンキー座りならぬ犬座り。

 俺も起き上がって、彼女に手を差し出す。


「お手」

「ポンなのだ」

「おかわり」

「ポポンなのだ」

 そう言えば犬の芸で、“ちんちん”なるものがあったような気がするけど……それはやめておこう。

 クゥは期待に目を輝かせ、しっぽを振る。


「よし、じゃあ朝飯でも食べに行きますか」

「餌なのか?」

 餌がいいのか……?



 と、いうことで、餌、ではなく食事をとるため、クゥのお尻を眺めながら食事の間へ向かう。

 いや、別にお尻に興味があったわけじゃない、ないわけでもないけど、そうじゃない。

 ただ単に彼女のお尻辺りに生えている、ユラユラと俺を誘う尻尾が気になるだけだ。


「クゥ、尻尾をさわらせてくれ」

「ダメなのだ」

 クゥは、ひょいっと股の間に挟み隠す。


「どうしてだよ」

 ネネネは尻尾を触っても、何も言わなかったけど。

「ゾクゾクして気持ち悪いのだ」

「ゾクゾクするぜぇ~」

「ゾクゾクするのだぁ~」

 がお~、と芝居がかった低い声でクゥ。

 何それ可愛い……そしてなぜか楽しそうだ、嫌なんじゃなかったのかい?

 仕方ない、今日の所は諦めておとなしく歩いておこう。

 窓から外を見てみると、どうやら空は笑いすぎて涙が出てきたみたいだ。

 食事の間へ続く廊下には、クゥのよく分からない鼻歌と雨の音が響いた。

 


 食事の間へ入ると、そこにはエメラダが一人席に座って、ボーっと窓から外を眺めていた。


「おはようエメラダ」

「おはようなのだ!」

 彼女はゆっくりと俺達の方を向くと

「普通」

 と、応えた。


「ふつう?」

「早くない普通」

 なるほど、起床時間としては早くもなく遅くもなく、普通だと。

 なら挨拶としてはこう言えばいいのかな?


「ふつう、エメラダ」

「……普通」

 何か違うような気がしないでもないけど。


「朝食にする……? それとも……」

 それとも? も、もしかしてこの展開は!

 『それとも……わ・た・し?』なのか!?

 ゴクリ……。


「餌にする……?」

「朝食デオ願イシマス」

「そう……」

 彼女は立ち上がり、厨房の方へ向かう。

 今日はエメラダが用意してくれるのだろうか?

 珍しいな、普段朝食を用意するのは、ほとんど、おラヴちゃんなのに。


「ラヴはどうしたんだ?」

「勇者は倉庫」

 と、立ち止まり振り返るエメラダ。


「倉庫?」

「お菓子作る材料取りに」

 彼女はそれだけ言うと、厨房へ入っていった。

 ふ~んお菓子を作るのか、楽しみに待っていよう。

 貰えるかは定かじゃないけど……。


 そうしてクゥと二人で席に着き、エメラダが朝食を持ってきてくれるまで待つこと数分。

 エメラダが厨房から出てきて、俺達の前に置いたのは一品。

 逸品じゃない、一品だ。

 底の深い器に盛られた“それ”一品。

 “それ”は、小さくて、薄くて、丸っこくて、茶色くて、まるで……。

「エサなのだ!」

 そう、餌、ドッグフードみたい。


「エメラダこれは……?」

「朝食」

 いや、それはわかってるんですけど。


「何ていう食べ物なの?」

「……? シリアル」

 何を言ってるの、と言いたげに首を傾げるエメラダ。


「シリアル?」

「畑で取れたコーンと薬草を使った」

 な、なるほど、畑で取れたコーンと薬草を使って作った、オリジナルのシリアルというわけだ。


「そ、そう、分かったよありがとう」

「そう」

 てっきり、本当に餌を出されたのかと勘違いしたよ。

 そうとなれば一安心、スプーンを取ってシリアルに手をつけようとする。

 が、しかしそんな俺に、エメラダはいつもどおりの平坦な声音で、こう告げるのだ。

「アスタロウ待て」

「いやいやエメラダ、ちょっと待ってくれよ……俺は犬じゃ――」

「待つのは私じゃない、アスタロウ」

「はい……」

 仕方ない、テチテチしてようか。

 言われたとおりにしていると、エメラダはテーブルの上にあった白いビンを持ち上げ、その中に入っていたミルクをシリアルに回しかけると

「アスタロウよし」

 と、言った。


 そのための待てだったのか……もっと他に言い方はなかったのでしょうか。

 まぁ別にいいんだけどね。

 エメラダは、クゥにも待てと言った後、彼女にはもれなくお手とおかわりもつけた。

 そしてミルクをかけると、よしと言って頭を撫でる。

 見た感じでは、エメラダよりクゥの方がお姉さんなんだけどね……。


「「いただきます」なのだ」

 クゥの用意が出来るまで待って、一緒にいただきます。

 ようやく食べ始めることが出来た。

 さすがに牛乳入りのシリアルを手で食べることは難しいようで、クゥはエメラダにスプーンの使い方を教わりながら、おいしそうに食べていた。

 味はいつもどおり悪くない。


「これおいしいよ、エメラダ」

「知ってる」

「そ、そう」

「……そう」



「ごちそうさまでした」

 と、手を合わせる。


「もう食べたのか?」

「ん? ああ」

「アシュタ食べるの早いのだ」

 クゥのお皿を見てみると、シリアルはまだまだたくさんあまっている。

 スプーンが使い辛いのか、彼女の食べ方は物凄くぎこちなく遅い。

 そのせいで、シリアルは牛乳を吸ってしまい、ブヨブヨになっていた。


「うにゃぁぁぁぁっ!」

 犬なのに『うにゃぁぁぁぁ』って鳴くなよ……猫みたいじゃないか。

 それにさっきは『がお~』って鳴いてたし、何かの合成獣なんだろうか。


「もうめんどうくさいのだ!」

 クゥはとうとうスプーンをポイしてしまう。

 そして、犬や猫がするように、顔を皿に近づけかぶりつこうとする。


「お、おいおい待てクゥ、やめろ」

「どうしてなのだ?」

 そんなことをしたら白濁液、もとい牛乳で顔がベタベタになってしまうじゃないか。

 とは言えないので。


「ゴホン……お行儀が悪いだろ?」

「だってめんどうくさいのだ」

「ダメだ」

「ならアシュタが食べさせてくれればいいのだ」

 そう言うとクゥは、あ~んと口を大きく開く。


「え? 俺が?」

「そうなのだ」

 クゥの口からは、鋭い牙が顔を覗かせている。


「わかった……とりあえずスプーン下に落ちちゃったから、新しいの取って来るよ」

「スプーンならそこにあるのだ」

 クゥが指さしたのは、俺のスプーン。


「い、いや、これ俺が使ってたスプーンだよ?」

 いいんですか? あれだよ? 間接キスになっちゃうよ? 間接接吻だよ?


「何でもいいのだ、早くするのだ!」

 ご主人使いの荒い奴隷だ……。


「わ、わかった」

 俺は、自分の使っていたスプーンで、クゥのお皿に入ったシリアルをすくい、彼女の口に近づけていく。

 な、何だかドキドキしてきた……。

 だってだよ? この、俺の口の中を這いずり回ってたスプーンが、今度はクゥの口の中を駆けずり回ろうとしてるんだよ?

 徐々にスプーンはクゥの口に近づいていく。


 ……あの、プルンとした唇のついた口の中に。


 ……あの、妙に艶かしい舌のついた口の中に。


 とうとう……。


「あ~ん」

 パクリ。

 は、はいったぁぁぁぁ。

 うは~何だろう、この何とも形容しがたい背徳感のようなものは。

 エメラダは興味を失ったのか、窓の外をじっと見ている。

 今なら何をしてもバレない。

 もちろん、このクゥのお口を探索したスプーンで、俺の口の中を冒険しても……バレない。

 ゴクリ。

 い、いや、この辺で自重しておこう。

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