第伍拾伍閑 第四回魔王城食事の間自己紹介 後
さてさて、紹介が遅れました、ここら辺で司会者である俺の紹介をさせていただきましょう!
待ってましたー! どんぱふ~どんどんぱふ~。
え? 誰も待ってないって?
まぁまぁそんなこと言わないで、待っててくださいよ、未来ででも。
すぐ行きますから、走っていきますから。
「俺はアスタ、魔王だ」
「アスタなのだ!」
そうだよ~アスタだよ~。
なんだろうこの子、本当に犬のように愛くるしい。
ネネネの愛は苦しいけど、クゥのこの雰囲気は癒されるなぁ。
「アスタはボクのご主人様なのだ」
「あ、ちょっクゥ、ここでそれを言っちゃ――」
「ど・う・い・う・こ・と・で・す・の・?」
ニッコリとネネネ。
遅かった……。
「ボクはアスタの奴隷になったのだ!」
あちゃ~……。
「まおーさま、どういうことか説明してくださいます?」
「ご、誤解だよ!? 奴隷として売られてたクゥを買ってきたのは確かだけど、だからって奴隷として扱おうってわけじゃ――」
「もう五回もなさったんですの……?」
「ネネネ、それわざと言ってるだろ?」
「技でイッてる!? どんなプレイをなさったんですの!?」
君の耳こそ、どんな技をかけられればそんな風になるんだ。
「クゥが遊んでくれるなら俺の奴隷になるって言ったんだよ。で、奴隷にするつもりはなかったけど、遊んではあげるってことでOKして、今に至るわけだ」
「そうやってネネネでも弄ぶんですのね」
話にならない……。
「離さないで欲しいですの」
「もう話さないで!」
まったくもう、まだ俺の自己紹介の途中だっていうのに……。
「俺の好きな食べ物は……」
「は?」
首を傾げるクゥ。
「は……?」
それに釣られて、俺も一緒に首を傾げる。
好きな食べ物か、なんだろう、よくよく考えてみるとこれと言って思い浮かばないな。
嫌いな食べ物が特にない代わりに、好きな食べ物も特にない。
強いて言えば……。
「ラヴの作った料理?」
かな、おいしいし。
「な、何言ってんのよバカ魔王。褒めても何もでないわよ!?」
「そうだね、褒めても胸は出なひぃっ! ご、ごめんな謝意!」
な、なんて殺気だ、いやもうこれは殺気と言うより冷気だ、寒気を感じるよ……。
ガクガクブルブルだ。
「アスタロウ……私のは?」
「あ、ああ、もちろんエメラダの料理も好きだよ」
「そう」
そう、おいしいからね。
「まおーさま、ネネネは?」
『ネネネは?』ってなんだよ、言うとしたら『ネネネのは?』だろ。
『の』が抜けてるよ、『の』が。
それとももしかして、ネネネのことが好きかどうかの質問なのか?
大体……。
「ネネネは料理作らないだろ?」
「ええ、でもネネネは子供をつくりますの」
「はいはいそうですか……」
その上誤解まで生みやがって、本当に迷惑極まりない。
さぁ、司会者の紹介はここら辺で終わりにしまして。
……というか、ほとんど関係ない奴が喋ってたような気がしないでもないけど。
まあいいや。
満を持して登場、ラストバッターはこの仔。
真っ黒黒の短髪に、ひょっこり生えた三角お耳、フサフサ尻尾の褐色肌。
服が透ければ見えるけど胸については不透明、あることだけは確かです。
ケモ耳少女のクゥだ。
「ボクはクゥニャ・サー・ベラス! ケルベロスなのだ」
「ケルベロスじゃない……犬」
「犬じゃない、ケルベロスなのだ」
椅子から立ち上がり、エメラダに反論するクゥ。
でもエメラダに
「お座り」
と、言われると、素直に席に着いた。
完璧だ……。
「好きな食べ物は、遊ぶことなのだ!」
先生、遊ぶことって食べ物ですか? 遊ぶことはおやつに入りますか!?
そんなことをどこぞの小坊主……名前は何だったかな、確か一体さんだったか二体さんだったか、アイツならこう言うに違いない。
『ならまずその遊ぶことっていうモノを持ってきてくださいよ』って。
それから、見定めてあげるたらどうたらこうたらと。
それでどうしようもなく困り果てた将軍様ならぬ、魔王様の顔を見て喜ぶに違いない。
「ワンちゃん、そんなに遊ぶことが好きですの?」
「大好きなのだ」
ワンちゃんについては、反論しないんだね。
「でしたら……」
ネネネがすっごい悪い目をしてる、目が悪いわけじゃない、何かよからぬことを考えているって感じの目だ。
「あそこにいる、ロリババアが遊んでくれるそうですのよ」
ネネネが指さしたのは、もちろんルージュ。
「本当なのか?」
「ええ、本当ですの」
それを聞いてクゥの顔はみるみる明るくなっていく。
それに対しルージュの顔はみるみる暗くなっていく。
「やったのだ!」
席から立ち上がり、ボールに飛びつく犬のように、ルージュの方へ走って行くクゥ。
「や、やめい、来るでない!」
ルージュも慌てて椅子から飛び降りると、クゥから逃げるように距離をとる。
「遊ぶのだ~!」
「嫌じゃ~遊ばんわ~い」
二人してテーブルの周りをグルグルグルグルと、追いかけっこ。
いつものネネネとルージュみたいだ。
まぁ嫌がってるのは、ルージュの方だけど。
「覚えておれよこの年増が!」
ルージュは涙目で、ネネネに悪態をつく。
「おーほっほっほっほ、いい気味ですの」
「あはははは! 待て待てなのだ~」
「うわ~ん、あすたぁ~」
ルージュは助けを求めるように、俺によじ登り肩の上に立つ。
「こら二人とも、食べ物の周りで暴れっ――」
「ボクも登るのだ!」
「っ!?」
気付いたときにはもう遅かった。
クゥは床を蹴り、四足獣並みの脚力と跳躍力で、両手を伸ばし俺に飛びつきにかかる。
頭の中で、この状況を切り抜けられるか式を立ててみた。
椅子に座っている+頭の上にはルージュがいる≠勢いを殺せる。
クゥの大きさがルージュ程度なら、まだ何とかなったかもしれない。
でも彼女はそんなに小さくない、式を使ったから学校で言うと、高校生くらいはある。
そうつまりこの式の解は揺らぐことなく、勢いは殺せない、だ。
「うぎゃっ………………いてぇぇぇぇ!」
クゥの勢いにルージュと自分の体重も合わさり、床に打ち付けた頭にはとてつもない衝撃が走る。
死んじゃいそうなんですけど! 一瞬気を失ってた気がするんですけど!! ドラゴンよりもよっぽどこいつらの方が、脅威なんですけど!!!
「楽しいのだ~」
「楽しくなんかないわい!」
「お~ほっほっほっほっほ」
食べるときですら、静かに出来ない魔王城の愉快な仲間たちだった。
愛すべきバカもここまでくると愛しきれないな……。
愛は軽いけど、バカが重過ぎるんだよ!!




