第伍拾肆閑 第四回魔王城食事の間自己紹介 前
「自己紹介をしよう」
「またやるの? それ好きねアンタ」
そう、またやるんです、好きなんです。
「と言っても、毎回名前と種族だけだから、今回は他のものも入れようと思うんだけど……」
何がいいかな……年齢は女性ばかりだから、聞かない方がいいのかな。
じゃあスリーサイズ、ひぃっ!! ラ、ラヴの殺気が……。
よし、じゃあ当たり障りのない……。
「好きな食べ物にしよう」
と、いうことで始まりますよ『第四回魔王城食事の間自己紹介』
司会は俺がやらせていただきましょう。
トップバッターはもちろんこの人。
金髪碧眼、胸は岸壁、彼女にかかれば胸も、無ね! ポニーテールのラヴだ。
「私は、ラヴ・リ・ブレイブリア。勇者よ」
さらっと応えるラヴ、彼女もこなれてきたもんだ。
「ラブっ」
と、確認をするように、ラヴを指さし名前を呼ぶクゥ。
「違うラヴよ、ブじゃなくてヴ」
ラヴは下唇を噛み、大げさに“ブ”と“ヴ”の違いを説明する。
なんかいたな、こういう英語の先生。
唇を噛めだとか、下を上顎につけろだとか何とか……。
「ラブなのだ!」
しかしラヴの指導は意味がなかった。
「……まぁいいわ。好きな食べ物は、そうね……食べれるものなら何でも好き」
「食べられない物まで食べてたくせに」
九十度茸とか、九十度茸とか、九十度茸とか。
「何か言った!?」
「いいえ、何でもございません」
二番バッターはこの人、人と言うかこの悪魔。
桜色のウェーブがかかったセミロング、涙ボクロは落とし穴、年がら年中発情期、ネネネだ。
「私はネイドリーム・ネル・ネリッサ、妖精ですの」
またすぐにバレるような嘘を……。
「何の妖精なのだ?」
「まおーさまに、エッチなサービスをする妖精ですの」
それを聞いて、首を傾げるクゥ。
ほらやっぱりバレた――
「よく分からないけど、分かったのだ。妖精さんなのだ!」
騙せた!?
「そうでの、妖精ですの。おほほほ。好きな食べ物は、まおーさまのまおーさま。ちなみに趣味はまおーさまのまおーさまを、まおーさますること。将来の夢はまおーさまのまおーさまに、まおーさますることですのよ」
おいおいおいおい、どうなちゃってんだよ!
ツッコミどころ多すぎだろ!?
どこからツッコめばいいか分からないよ!?
「やっぱり何だかよく分からないけど、凄いのだ!」
何が!? 一体何が凄いの!?
「おほほのほ。もう一つちなみに言うと、ネネネはまおーさまの妻ですので、まおーさまには手出しなさらぬよう」
「奥さんなのだ?」
「そうですの」
「凄いのだ!」
だから何が!?
「おほほほほ、あなたとは気が合いそうですの」
「うん、毛がありそうなのだ!」
毛がありそうじゃないよ、気が合いそうだよ……。
それに、ありそう、じゃなくて、毛はあるんだよ。
「あらあらまおーさま」
「何だよ」
「ネネネ、下の毛はありませんのよ?」
「やめろっ!!」
まったくもう、まったくもう。
さあ次だ次。
三番バッターはこの人、人というよりこの幼女。
幼女だって人だけど、この幼女はひと味違う。
深紅のロングヘアーにまっ赤な瞳。
乳はちちちち、ちっちちちー、ルージュだ。
「ワシはやらんぞ」
ルージュは目を瞑り、プイッとそっぽを向いてしまう。
やれやれ仕方ない、ならばこうだ……。
「ルージュちゃ~ん、自己紹介してくださ~い」
まるで保育園児をあやすかのように、甘ったるい延びきった声で優しく。
どうだ!?
一パーセントの勇気と、九十九パーセントのノリで生きている彼女なら、乗ってこられずにはいられまい!
案の定彼女は、うっすらと片目を開く。
でもおちない、もう一押しだ。
「あれれぇ~おかしいなぁ~」
薬で体が小さくなちゃった、名探偵のように白々しく……。
「ルージュちゃ~ん、自己紹介してくださ~い」
「……」
「……」
「は~い!」
片手を挙げ、笑顔で元気よく返事をし、椅子に立ち上がるルージュ。
さすが……ノリノリだ。
「お名前は?」
「ブラッドレッド・ボルドー・ルージュじゃ」
「種族は?」
「ロリ吸血鬼じゃ」
ロリは必要だったのか? そこにどんなこだわりが?
「好きな食べ物は?」
「もちろん血じゃな」
腕を組み、胸を反らすルージュ。
先生、血は食べ物ですか? 血はおやつに入りますか!?
「ちなみにスリーサイズは?」
「上から、B-5、W-7、H-9、じゃ」
へこんでやがる! ボンキュッボンならぬキュッキュッキュだよ。
いや、ベコンッベコンッベコンッか?
むしろ違う場所が出ちゃってるよ!?
「好きなものは?」
「アスタじゃ」
「じゃあ嫌いなものは?」
「年増とケルベロスじゃ」
グループに嫌いな子が二人も……これが女子の恐ろしさだ。
「どうしてボクが嫌いなのだ?」
「きっと嫌いなのではなくて、怖いだけですのよ。おほほほほ」
「そうなのか?」
「そうですのよワンちゃん」
いつの間にか、すっかり意気投合した様子の、ネネネとクゥ。
「な、ばっバカなことを言うでない! 怖くなどないわい! あまり調子に乗っておったら、おぬしらの血を全部吸い出してしまうでのう!」
二人を指さし、脅すようにそう宣言するルージュ。
「何なのだ? 楽しそうなのだ!」
しかし、そんな脅しは逆効果だったらしい……。
「ひいっ……!?」
ルージュは信じられんと言った様子で、踏み台にしていた椅子にへたり込んだ。
まあ、この子達は追々どうにかしよう。
というか、ほっといてもそのうちどうにかなるだろう。
ではでは四番バッターはこの子。
短かめの銀髪は寝癖のような癖毛、緑の瞳のマイペース。
声は平坦だけど、胸は凹凸大、でも物静かな雰囲気と同じで、隠れてる。
そんな彼女、エメラダだ。
「私はエスメラルダ・エバー・グリーン。……エルフ」
「エルフなのか?」
「……そう言ったはず、これも躾けないとダメ?」
いや……それはどうだろう、聞き返したのはただの確認だったんじゃないのかな?
「ちゃんと三回言えたら、これあげる」
エメラダは、自分の肉をフォークで突き刺しクゥの前に持っていく。
もちろん『待て』も忘れずに言う。
「エルフ」
「エルフなのだ」
「エルフ」
「エルフなのだ」
「エルフ」
「エルフなのだ」
三回言い終わると、エメラダは『よし』とクゥに合図を送り、クゥは肉にかぶりつく。
そしていい子いい子。
実に熟練した調教師だ……。
「好きな食べ物は、嫌いな食べ物以外」
何だよその遠まわしな言い方……。
「嫌いな食べ物は何なのだ?」
「ない」
つまり、何でも好きということですね。
まあ自然と共に生きるエルフだ、命を粗末にするようなことはないんだろう。




