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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第一部 異世界で遊びま章
54/224

第伍拾壱閑 ケモ耳奴隷とモッフモフ

 はい、それではこのケモノ耳ちゃんを、醤油に着けて、冷蔵庫で一時間ほど寝かせます。

 こちらが一時間冷蔵庫で、寝かせたものになります。

 いい感じに醤油が染み込んでますね、色もしっかり着いています、褐色です。

 ではこれを、先ほどの具材と共にお皿に盛り付けていきます。

 おっと間違えた、これは『三分で出来るとは一言も言ってませんよ? クッキング』の台本だった。

 ケモノ耳ちゃんをベッドに寝かせ……こっちが本当。


 奴隷商との交渉が終わり、ケモノ耳ちゃんを抱えて城に戻ってきた俺とラヴは、ケモノ耳ちゃんの手足の鎖を取り、城の客室のベッドに寝かせた。

 城に戻ってきて体内時計で約三時間程だろうか、未だにケモノ耳ちゃんはすやすやと眠っている。

 この六畳ほどの客室には、ケモノ耳ちゃんと俺の他にラヴ、そして薬を盛ったと奴隷商が言っていたので、念のためエメラダも呼んでおいた。

 エメラダはベッドの上で寝ているケモノ耳ちゃんを見て、診察をするまでもないといった様子で『寝てるだけ』と言った。

 なるほど、だから息をしてるのか、と思わされたね。


 それにしてもそろそろ起きては下さらぬだろうか。

 拙者退屈でござるよ。

 ラヴとエメラダは、薬草の勉強とかしてるからいいけど。

 俺は約三時間程ずっと、寝ているケモノ耳ちゃんを見つめてるだけだぜ?

 ケモノ耳ちゃんのショートな漆黒の髪の毛は、窓から差し込む午後の日差しを吸い込む程に黒かった。

 そんなことを考えながら、ケモノ耳ちゃんを更に三十分ほど見つめていると、突然彼女の目がパチッと開いた。

 第三の目じゃない、二つの普通のお目々だ。

 いや普通じゃないかもしれない。

 ケモノ耳ちゃんの目、それはどんな暗闇でも全てを見抜き、全てを射抜くかというような鋭い銀色をしていた。


「ゴザル!?」

 俺は思わず飛び上がった。


「ふん~~~~」

 ケモノ耳ちゃんは起き上がると、犬や猫がするように、四つん這いになってのびをした。

 そして部屋と俺達を一通り見渡す。


「ここは誰なのだ? あなたはどこなのだ?」

 一発目からかましてきやがった……。


「ここは魔王で、俺は魔王城だ」

「それじゃあ私たちが魔王の中にいるみたいになるでしょ!」

「いたいっ!」

 何も叩くことはないだろうにラヴよ……。


「ゴホン、ではあらためて。ここは魔王城で、俺は魔王アスタだ」

「まおうじょう?」

 ケモノ耳ちゃんは、あぐらを解いたような座り方で、首を傾げている。


「そうだよ、魔王城だ」

「どうしてボクはそんなところにいるのだ?」

 彼女は困り顔で、あれ? あれ? と、左右に首を振る。


「それはね、俺が奴隷商から君を買ったからだよ」

「買ったのか?」

「そう! つまり俺は君のご主人様ってわけだ! はーっはっはっはっはっは!」

 ここでお望みどおりの展開に持っていくために、しっかりとご主人様アピールをしておく。

 ラヴとエメラダがイタイ奴を見るような目、というか、イタイ奴を見る目で俺を見ているが気にしない。

 気にしたら負けだ!


「そうなのか」

「そうだよ、でも俺は君を……えーっと君の名前は……」

「ボクの名前はクゥニャ・サー・ベラスなのだ!」

 ケモノ耳ちゃんが元気よく自分の名前を答えると

「思い出したわ!」

 と、突然ラヴが大きな声を出して立ち上がった。


「どうしたんだよ急に」

「どうしたもこうしたもないわよ! その子どこかで見たことあると思ったら、ケルベロスよ!」

「ケルベロス?」

「アンタまさか忘れた何て言わないわよね?」

 忘れたと言われましても、そもそも覚えてすらいないんだけど。

 ……確かケルベロスと言えば、なんちゃら神話のどこぞの番犬だったような――


「忘れたのね? あきれたわ」

 考え込む俺を見て、ラヴはそう言った。


「その子は、魔王の領地に入る前にある関所の門番でしょ!?」

「門番?」

「そうなのだー!」

 ケモノ耳ちゃんを見ると、彼女は楽しそうに両手を上げる。


「ちょ、ちょっと待って。ってことはだよ? 今その門とやらはがら空きになってるってこと?」

「まあ、そういうことになるわね」

「え……マジかよ……ダメじゃん」

 関所が何のためにあったか知らないけど、必要だから関所があって門番がいたわけでしょ?


「大丈夫よ、その子どうせ寝てて門番の意味なかったもの」

「余計ダメだよ!」

 人選ミスも甚だしいな。


「私も魔王城に来る前にこの子と激しい戦いをする予定だったけど、素通りできて楽だったわ」

 そのせいでこの魔王死んだのかもしれないんですけど……。


「そもそも関所を通らなくても、来ようと思えばどこからでも来れるんだけどね」

 根本的なところからダメだ、一体何のために関所を作ったんだよ。


「ん? ちょっと待って、この子ってそんなに強いの?」

 勇者であるラヴに激戦を予想させるほど。


「当たり前じゃない、だから最後の防壁としてこの子を選んだんでしょ?」

 結果はどうであれ……と、ラヴ。


「じゃ、じゃあこの子別に俺が助けなくても、普通に奴隷商から逃げられたのか?」

「そうなのだ。ボクは退屈だったからあのおじさんについて行ってただけで、逃げようと思ったらいつでも逃げられたのだ」

 え? ちちちちっちょーっと待ってね、はいはい、今整理中だから……ふむふむ。

 つまりだよ? 

 この後、奴隷を奴隷のように扱わないご主人様に奴隷が惚れて、ご主人様ありがとうございます、大好きですラブチュッチュ何て展開は……。

 ケモノ耳ちゃん、いやクゥニャだっけか、彼女を見ると俺の心を見透かしたように、ニコッと笑った。


「ないぃぃぃぃぃ!?」

 そうですよね、俺の考えが甘かったですよね。

 この異世界で俺の思惑がうまく行ったなんてこと、一度もありませんもんね。

 そもそもそんなことを考えた時点で終わり……いやいや諦めるにはまだ早い!

 まだ何か方法があるはず。

 諦めるなアスタ! 頑張るんだアスタ! 


「君、えっと……クゥニャ」

「クゥでいいのだ」

「よしクゥ!」

 俺は正面から彼女の肩を掴んだ。


「……俺の奴隷にならないか!?」

「なに言ってんのよこの変態がっ!」

「いてっ!」

 またもやラヴに思いっきり殴られた。

 ですよね、ダメですよね……もう諦めよう。

 俺の夢は掃かれた塵のように、儚く散った。

 やはり人の夢は儚いもの、そして俺のイかれた夢もまたイ夢はかないものなんだな……と思ったがしかし

「ボクと遊んでくれるのだ?」

 という、クゥの言葉で儚いは再び夢へと変わった。


「遊ぶ?」

「そうなのだ、ボクと遊んでくれるなら奴隷になってもいいのだ」

 彼女はボールを投げてもらう前の犬のように、その銀の目に期待をたっぷりと浮かべ、千切れんばかりに尻尾を振り回している。

 いや、もうこれは犬の“よう”じゃない……。

「犬だ……」

 座り方も完全に犬のそれと同じだ。


「ボクは犬じゃないのだっ!」

「いいや犬だ、なあ? エメラダ」

 エメラダいつの間にか横に来て、興味津々にクゥを見ている。


「……」

 彼女はいつもどおり無言で数回頷く。


「ボクはケルベロスなのだ!」

 ふむ頑なだな、でもそろそろ現実を見せてやらないと、自分はケルベロスなんていう神話の生き物じゃなく、ただの犬に過ぎないということを。

 そもそも同じものが定かでないにしろ、神話の生き物が出てくる時点でこの世界はイカれてやがる。

 と、いうことで……。


「じゃあ俺が今から、君が犬だということを証明してやろう」

「なんなのだ? 楽しそうなのだ!」

 ブンブンと尻尾を振るクゥ。

 ふん……よし。


「スリー、トゥー?」

「ワンッ!」

 クゥは元気よく大きな声で、犬のように鳴いて見せた。


「アスタロウ……犬」

 と、クゥを指さしエメラダ。


「ああ、犬だ」

「犬じゃないのだっ」

 ふむ、まだそう言い張るのか強情な子だ……仕方ない。


「お手」

「ポンなのだ」

 俺が右手を差し出すと、クゥは俺の手の上に右手を乗せる。


「おかわり」

「ポンなのだ」

 俺が左手を差し出すと、クゥは俺の手の上に左手を乗せる。

 そしてその後、『何くれるの?』と言わんばかりに目を輝かせ、尻尾をパタパタと動かす。

 これは完全に……。

「犬だな」

「犬……」

 しかもしっかり躾けられた犬だ。


「犬じゃないのだ! ケルベロスな――」

「お手」

「ポンなのだ」

 話してる途中でも、彼女はしっかりお手をした。


「よく躾けられた犬だ」

「犬。いい子いい子」

 エメラダはクゥの頭をナデナデする。


「にひひ」

 ワンコは少し嬉しそうだ。


「ってそんなことはどうでもいいのだ、それよりもボクと遊んでくれるのか?」

 十分遊んでいるような気がするんだけど……まぁいっか。


「ああ、遊んであげるよ」

「ホントなのか?」

「ああ、本当さ」

 遊んであげる。

 君“と”じゃなくて君“で”ね。


「やったのだ! じゃあボクは今日から奴隷なのだっ」

 と言って彼女は俺の首に飛びついた。


「おおっと」

 はっ……こ、これは!

 彼女が飛びついてきたおかげ、いや、飛びついてきたせいで、今俺の目の前には三角のケモノのお耳が。

 そしてその先に見えるのは、ゆらゆらと揺れるフサフサ尻尾。

 もう我慢できない!


「ク、クゥ」

「どうしたのだ?」

「その耳をさわらせてくれないか?」

「別にいいのだ、ハイ」

 俺は差し出された黒い頭についた、三角のお耳に手を伸ばした。


「ふにゃぁ~」

 そう声を上げたのはクゥ、じゃない、俺だ。

 何だこの動物特有の滑らかで、柔らかい毛は……さわり心地がよすぎるではないですか。

 耳だけじゃない、彼女の髪の毛自体もモフモフ。

 最高だ!

 俺は彼女の頭をなでくり回した。


「にひひ」

 クゥは頭をなでられるのが嬉しいのか、そんな声を漏らしながら尻尾を振る。


「クゥ、尻尾もさわっていい?」

「しっぽはダメなのだ」

 なぜだ!? でももう我慢できない!

 俺は魔王パワーを使い、クゥの尻尾に飛びついた。

 うわぁ~こっちもモフモフだ~。

 ネネネにも尻尾は生えてるけど、これは……ゴクリ。

 手をウネウネ、頬をすりすり。

 幸せだ、天に昇ってしまうほど幸せだ。


「あぁ……らめ、しっぽはらめらのらぁ~」

 クゥも天に昇ってしまうような声を上げていた。


 この後ラヴとエメラダに白い目で見られたのは、言うまでもないことだ。

 こうして俺は、奴隷を手に入れた。

 いや別に奴隷が欲しかったわけじゃなくて、その先の展開が欲しかったわけなんだけど……まあいいやモフモフだし。

「あぁ~らめぇ~らめなのらぁぁぁぁ~」

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