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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第一部 異世界で遊びま章
46/224

第肆拾参閑 日曜朝8時30分

「これが……」

 俺は息を呑んだ。

 だっておまっ……おい、これ、おいっ!

 『これがドラゴンの巣です』とか簡単に言っちゃってるけど、お前っ……。

 嘘だろ? あ? い? う? え? お?

 その洞窟……この岩山に穿たれた大きな穴はどれだけ深いのか、先は真っ暗でまったく見えない。

 大きさで言えば入り口は十五メートルほどだろうか、もしかしたら中はもっとすごいことになってるかもしれない。

 もしこれが自然に出来た穴に勝手にドラゴンが住んでいるわけじゃなく、ドラゴンが自分で作った巣だった場合……とんでもない大きさのドラゴンが出て来そうなんだけど。


「マ、マジですか」

「さあ早くドラゴンを呼んできなさい魔王」

 いや、呼んできなさいってねラヴ……そりゃないでしょ。


「どうして俺なんだよ」

「アンタが受けた依頼でしょ?」

 確かにそうだけど。


「……さっきまで一番前を歩いてたくせに」

「何か言った!?」

「いえ! 何でもありません隊長殿!」

 ビシッと敬礼をしてやろうかと思ったけど、ルージュのせいで俺の手は頭の上にある。

 だから凄く不恰好な敬礼になってしまった。


「バカなこと言ってないで早く呼んできて!」

「はい」

 ラヴのジトッとした視線を横目に、穴の入り口へ向かう。

 フル装備、つまりネネネとルージュとエメラダを連れて。

 インターホンはないので、入り口から中へ大きな声で叫ぶ。

 『どーらごーんくーん! あーそびーましょー!』とは言わない。


「だ、誰かいませんか!?」

「せんか~せんか~か~か~ですの」

 ん?


「何をやってるのかなネネネ?」

「こだまですの」

「しなくていいから!」

 そんな小学生みたいなこと。

 しかもネネネが演出しなくても、声ちゃんと響いてるし。


「したいですのぉ」

「……っ!?」

 もう放っておこう。


「誰か~いませんか~!?」

 しかし何度呼んでも、洞窟の中には俺の声が反響するばかりで、中から何かが出てくる様子はない。


「どうしたんだろ」

 不在か? 不在届でも入れておけば、後から連絡が来るかな?


「まさかまおーさまのことを恐れて、逃げたんではないんですの?」

 ふむふむなるほど、さながら昼間に鳴ったインターホンには怖くて一切出ない引きこもりのように、来客から逃げ出したのか。

 まあそうなると居留守ですけどね。


「さすがまおーさまですの」

 俺はネネネにおだてられて少し気持ちよくなった。

 いや、気分がだよ?

 だから大きな声で叫んだ。


「そうかそうか俺に恐れをなしたか!」

「きゃーまおーさまかっこいいですの~!」

「はーっはっはっはっはっはっは!!」

「しびれる~ですの~!!」

「わーっはっはっはっはっはっは!!」


「……アスタロウ何かいる」

「えっ?」

 エメラダの声で正気に戻って、洞窟の奥を見つめる。

 そして暗闇の中で、キラッと何かが光ったと思った瞬間

「グァァァァァァァァ!!」

 突如とてつもない咆哮と風圧が俺達に襲い掛かる。


「ひぃやぁっ!! な、何だ!?」

「バカ魔王! ドラゴンよ、早くこっちに戻ってきなさい!」

 ラヴが叫ぶ。

 どうやらドラゴンは、本当にただの居留守を使ってたらしい。


「マジですか!?」

 俺は頭の上から手を引っこ抜き、ネネネとエメラダを両脇に抱え一目散にラヴの横へと逃げ出した。

 俺が洞窟から距離をとって間もなく、そいつは現れた。

 どしんどしんと地響きを立てて。

 現れたのは、高さ十メートルはあろうかというほどの巨大なドラゴン。

 この灰色の岩山に同化するかのような、真っ白なドラゴン。


「凶暴なドラゴンって白亜の飛龍だったの!?」

 ラヴはドラゴンを見上げながら、驚いたように声を上げる。


「なんなんだよその白亜の飛龍って」

「あんた知らないの?」

 はいネバネバですので。


「ホワイトドッラゴーンよ」

 何それ可愛い。

 それにしてもラヴの驚きよう……。


「何かまずいのか?」

「いいえ、おいしいわ」

 おいしいの?

 何が?

 まあドラゴンについてはどうでもいいや、とにかく凶暴なドラゴンなんだろう。

 その白亜の飛龍ホワイトドッラゴーンと呼ばれる目の前のドラゴンは、二枚の大きな翼、鋭い角と爪と牙を持ち、背中から尾にかけて無数の針のようなものが生えている。


「グォォォォォォォォ!!」

「ひぃぃぃぃっ……」

 完全に穴から出てきたドラゴンは、身がすくんでしまいそうなプレッシャーを放ち俺達を睨みつける。

 辺りに緊張が走った。 

 ラヴは剣を抜き、ネネネは俺の手を離し、ルージュは俺の頭から降り、エメラダは俺の服から手を離す。

 全員がドラゴンと向き合い戦闘態勢に入った。

 しかしそんな張り詰めた空気を切り裂いたのは村長の声だった。


「さあ倒せ! ビームでっ!」

 ビームでね……あくまでそこにこだわるんだ……。


「魔王早くやりなさいよ!」

「え? 俺!?」

 いや~無理だよ?


「何もたもたしてるのよ!」

 ラヴは引き抜いた剣の切っ先を、ドラゴンではなく俺に向けている。

 そんなことを言われてもな……やり方がいまいち……。


「もういい私がやるわ!」

 そう言うとラヴは体に黄色いオーラのようなものをまとう。

 そして手を腕を突き出し

「ラヴビームッ!!」

 なんて恥ずかしいことを叫んだ。


「え……」

 かざされたラヴの手からは、黄色い閃光が放たれる。


「グォォォォ!」

 そしてそれはドラゴンの顔面に直撃。


「「「「……」」」」

 俺もネネネもルージュもエメラダも唖然とした。


「ま、まおーさま……あのプライドの高い愛ちゃんが、あんなことを……」

「ラヴリンがビームなどと叫ぶとは思わんかったの」

「あ、ああ、ありゃまずい」

 ラヴの顔は恥ずかしさのあまりか真っ赤になり、足はガクガクのブルブルだった。


「アスタロウ、早くしないと勇者が……」

「そ、そうだな」

 こうしている間にもラヴの顔は赤くなり続けている、そのうちポンって爆発しそうだ。


「よし! 俺達もやろう!」

「はいですの!」

「おうじゃ!」

「うん……」

 ネネネ、ルージュ、エメラダの三人は返事をすると、ラヴ同様その身にオーラのようなものをまとう。

 ネネネはピンクのオーラを。

 ルージュは赤いオーラを。

 エメラダは緑のオーラを。


「まずはワシからいかせて貰おうかの」

 ルージュはそう言うと、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。

「我が体内に流るる熱き血よ!」

 するとルージュの髪の毛は、そこだけ重力をなくしたかのようにフワフワと浮き始める。

「紅蓮の業火となりて、全てを大いなる血の流れへと帰せ! 陽如の火柱ロリビーム

 叫びながら突き出されたルージュの腕からは、赤い火柱が立ち上り、そしてドラゴンを襲う。

「グォォォォ!」

 ドラゴンは火柱に体を焼かれ、怒り狂うようにほえる。



「次はネネネですの!」

 ネネネは両手を真横に広げ、案の定こう叫んだ。

乳腺(チクビーム!!」

 彼女の胸の辺りからは二本のビームのようなものが放出されている。

 まさかいつかの夢が正夢になるとわ……唯一違うところと言えばビームの色が白ではなくピンクだということだ。

 何だか逆にいやらしい。

「グォッグォグォォォォ~」

 しかもドラゴンそれ食らって嬉しそうだし。


「……?」

 エメラダは、ネネネとルージュを見てキョトンとしながら、ドラゴンに向かって手を伸ばした。

「ビーム……?」

 首をかしげながら、軽々しく手から放ったその緑色の光の柱。

 しかしそれは異世界の素人である俺から見ても、他とは明らかに威力が違った。

「グォォォォ!」

 ドラゴンはたくさんの強力な攻撃を食らい、悶え苦しむように低くうなる。


 それにしても黄色にピンクに赤に緑って何かこれ……あれみたいだな。

 プリティでもありキュアキュアでもある、あの女の子の戦闘集団。

 プリ○ュア……。

 っとそんなことを考えている場合じゃない。


「俺もやってやる!」

 どうやってビームを出すかは分からないけど、やればどうにかなるだろう。

 とりあえず皆がやっているのを真似して、手を突き出す。

「魔王ビームッ!!」

 あれ? 出ない……。

「ビーム!」

 出ないよ?

「ビッ! ビッ! ビッ!」

 何度も何度も手を振りかざしてみるものの、まったくビームは出ない。

 マジか……なんなんだよこんなときに。


「はぁ~」

 俺は上を向き大きな口を開け、ため息をついた。

 するとため息をついた俺の口から……。

 え?

 黒い炎のようなものが出始める。

 何? 一体何?

 その黒い炎は勢いよく口から吐き出される、俺の意思とは関係なく。

 まるで吐瀉物としゃぶつみたいに。


「オウェェェェ」

 そしてみるみるうちに大きくなっていき、炎はやがて一体の龍のような形になる。

 今の俺の状態はさながら金色こんじきのアイツみたいになっていた。

 何じゃこりゃぁぁぁぁ!! これは魔法ですか? 俺のビームですか?

 俺の吐き出した、というか今も尚吐き出し続けているその黒炎龍は、大きくうねりホワイトドッラゴーンへと襲い掛かる。

 俺の口から放たれた黒炎龍と白亜の飛龍が、ぶつかり合ったその瞬間。

 目を開けてはいられないほどの閃光と、凄まじい爆風が辺りにほとばしる。

「クッ……」






「ゲホッゲホッ」

 しばらくすると、ラヴの咳き込む声が聞こえる。

 閃光がおさまり目を開けるがしかし、爆風により巻き上げられた砂埃のせいで依然として視界が悪く、敵を倒せたのかどうかが分からない。

 だから俺は、こういうときに言うべきセリフを言うことにした。


「倒した……のか?」

 周囲に緊張は走……らない。


「ゲホッゲホッ……アンタね! こんな場所でそんな大きな魔法使うんじゃないわよ!」

「え……あ、ごめんなさい」

 いやでも、そんなことを言われましても……自分でもよく分からないんですよ。


「あぁ~ん、まおーさまおっきいですの~」

「黙まれ!」

 砂埃がだんだんとおさまり、視界が開けてくるにつれ皆が集まってくる。


「はっはっは! さっすがアスタじゃのう」

「アスタロウ強い……」

 そして視界が完全にクリアになり、ドラゴンの姿もあらわになる。

 そこにいたのは真っ黒焦げになった白亜の飛龍ホワイトドッラゴーンだった。


「どうやら倒せたようですな」

 ゲホゲホと少し咳き込みながら村長。

 『や、やったー! 倒せた!』とわ言わない。


「あ、当ったり前じゃないですか!」

 腰に手を当てエッヘン。

 だって俺はアスタロウですよ?

 村の平和を脅かす怪獣なんて三分以内に倒して見せますよ。

 インスタントラーメンが出来るのを待っている片手間に倒して見せますよっ!


「はっはっはっはっは~!」

 まさに即席ヒーローがここにはいた。

 俺は男だからカップメンだ。

 いや裸男ラーメンかもしれない。


「何がはっはっは~よ気持ち悪い」

 と、さげすむような目でラヴ。

「気持ち悪くない!」


「では気持ちいいんですの?」

「気持ちよくもない!」


「では何なのじゃ?」

 と、俺に問いかけるルージュ。


「普通だよ普通」

「不通?」

「そうだねネネネとは通じ合えてないような気がするよ」

「ネネネとまおーさま通じ合ってますのよ!?」


「腹痛?」

「それはいつぞやのラヴかな?」

「なっそれは言わない約束でしょ!?」


「複数?」

「そ、それは複数の女の子とイチャイチャしている俺のことかな……?」


「吹く?」

「いや君は吸血鬼だから吸うんだろ?」


「浮く?」

「確かにエメラダはポワポワ浮いてるみたいだね」

「浮いてない……」


「ああ、普通じゃな普通」

「何だよそれもうええわ!」

「「「「「どうもありがとうございました~」」」」」

 伝説のコンビ、ゲストを招いてのライブだった……。



 ふう、こんなことをしている場合じゃない。

 まあでも何にしろ倒せてよかったよ。

 十二時はじゃなかった、一時はどうなるかと……思ってないか……。

 本当の意味で倒せた当たり前なんだよな、きっと。


「よし! 皆、依頼も達成したことだし帰るとしよう!」

 ポンッと手を打つ。


「還ろう?」

「もうやらないよルージュ」

「何じゃつまらんのう」

 ルージュはそう言うと器用に俺によじ登り、首にまたがった。


「さあ、帰りましょうまおーさま」

 来たときと同じように、ネネネに腕を一本持っていかれる。


「うん」

 そして踵を返し、ドラゴンを背に来た道を戻り始める、がしかし


「アスタロウ……」

 ほんの少し歩いたところで、後ろからエメラダに服を引っ張られ引き止められた。


「どうしたエメラダ?」

「勇者が来てない」

 エメラダにそう言われラヴの方を見てみると、彼女はドラゴンの前でなにやら固まっている様子。


「どうしたんだよラヴ!」

「おいしいのよ」

 ラヴは振り返ると、ポツリとそう呟いた。

「へ?」

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