第参拾捌閑 緑のフルコースアウト
朝、目覚めると珍しく俺のベッドには俺以外誰もいなかった。
ネネネもルージュもジャッ君も。
なんだかいるのが当たり前になってきてるから、いないと逆に怖い。
何考えてんだろう……って。
でもいたことは確かだと思う。
ベッドの脇に置いてあったミルクの入ったコップが空になっている。
夢魔、つまりネネネ対策のミルクは、その効果を十二分に発揮してくれているみたいだ。
それと床にはルージュの黒いリボンが落ちている。
自分で結ぶのが面倒だったのか? 今まではいったいどうしてたんだ。
「ぅ~ん」
俺はベッドから出て伸びをし、ルージュのリボンを拾い上げた。
そして匂いを……嗅がない。
舐めも……しない。
「朝ごはんでも食べるか」
ラヴのおいしい朝ごはんを食べて目を覚まそう。
そう思って食事の間へ向かった。
「嘘だろ……」
食事の間に入ってすぐ、脳内を駆け巡る光景と香りに、俺は思わずそうつぶやいた。
「あら、おはよう魔王」
「お、おはようラヴ……」
「どうかした?」
料理を盛り付けながら、訝しげに俺を見る彼女。
どうもこうもねえよ……。
「何だこれは?」
長いテーブルいっぱいに並べられた料理。
それは昨日のエメラダが作った夜ご飯と同じく、緑だった。
「なんだって、何よ。これは師匠に教えて貰った薬草料理の試作品よ」
師匠?
ああ、エメラダか。
「へ、へ~」
教えて貰った?
絶対嘘だ。
エメラダの料理は緑は緑でも、綺麗な緑だったし香りもよかった。
でもラヴの料理は何だかくすんだ緑で、そして香りも葉をすり潰したようなにおいがする。
だから俺は苦虫を噛み潰したような顔をしてみた。
「朝ごはんは?」
「これよ」
ラヴは当然のように試作品を差し出した。
そうですよね~。
「さっ早く食べて、感想を聞かせて」
彼女は珍しく目からキラキラを出している。
そんな視線を向けられれば断るに断れない、仕方ないか。
椅子に座り、差し出された緑の揚げ物みたいなものを一口。
ぱっくん。
モグモグ。
ラヴは期待半分、不安半分といったような表情で、俺の感想を待つ。
ラヴのご飯を食べて目を覚まそうと思った俺は、彼女の料理を食べて本当に目が覚めた。
その料理は案の定……。
「苦いよ~」
目が覚めるほど苦いよ~。
眠りたい……もう眠りたい。
「え、うそぉ」
落胆するラヴ。
嘘じゃないよ自分で食べてみなかったの?
お世辞を挟む暇もない位に、苦いし青臭い。
いかにエメラダが薬草について長けていたかが分かる。
薬草、これは安易に使っちゃいけない食材だ。
いつぞやの超特急難特殊調理食材より、危険だ。
ゲームとかで傷を負ったとき安易に薬草とか使っちゃうけど、あれも極力避けたほうがいいね。
キャラがかわいそうだ。
「じゃあこっちは?」
次は薬草の天ぷらのようなもの差し出した。
俺はそれを恐る恐る口へ運ぶ。
「苦いよ~」
「こ、これは?」
その次は薬草のパスタ。
「苦いよ~」
「次はこれ!」
もう何か分からない。
「苦いよ~」
苦い、苦い、苦い、苦い!
「ラヴ、飲み物をくれ……」
もうだめだ意識が飛びそう、本当に眠っちゃいそう。
しかも永遠に……。
「はい」
「あ、ありがとう」
俺はコップに入った水分を一気に呷った。
そして……。
「オウェェェェ!!」
吐き出した。
「にっげぇ……何だよこれ」
「薬草ジュースよ?」
コップの中を見るとそこには、緑の液体が入っていた。
「ラヴ、苦過ぎるよ」
「う、うるさいわね! 師匠に教わったばかりでまだ修行中なの!」
別に無理して薬草使わなくてもいいじゃん、ラヴの普通のご飯が好きだって言ったのに。
「大体ねえ、朝ごはん作って貰えてるだけでも感謝しなさいよね!」
まぁ確かにそこら辺のことについてはすごく感謝してるけどね、実験台にされるこっちの身にもなってくれ。
でもそんなことは言わない、決して言わない。
その代わりに
「ありがとう、お母さん」
とだけ言っておく。
「誰がお母さんよ!」
「ふぅ……」
ただの水を飲んで口直し。
でも何杯飲んでも口の中の苦味は、こびりついてなかなか放れようとしない。
「で、そのお師匠様とやらはいずこへ?」
俺はまだ起きてからエメラダの姿を見ていない。
ネネネとルージュも見てないけど、さっきからちょくちょく城が揺れてるから、また二人で何かやってるんだろう。
「師匠ならご飯食べてすぐ畑に行ったわ」
「畑? 何しに?」
「さぁ。でも、朝畑の話しをしてたとき『どこにある?』って言うから、場所を教えたら出て行ったのよ」