第参拾弐閑 第二回魔王争奪水球大会?
キュッキュッ。
風呂には蛇口をひねればお湯が出てくるシャワー付きの、我が魔王城。
う~ん……。
どうなのそれ。
キッチンのレベルに比べて水道関係が発展しすぎてるような気がする。
だってコンロとか未だに薪だよ?
水道があるってだけでも微妙なところなのに、お湯まで出てくるとは。
まあ異世界だしね。
きっとアレだよ、どこかで火を噴くモンスターが二十四時間、交代でお湯を温めてたりするんだ。
そんなことを考えながらシャコシャコと頭を洗う。
ふと隣を見ればテキトーに頭を洗うルージュ。
その深紅の髪はほとんど泡立ってない。
「こらルージュちゃんと洗わないと、今日は外でいっぱい遊んできたんだろ」
と、九百九十七歳にお説教をする俺。
「やじゃ、めんどくさい」
「そうじゃないと紅い髪が垢い髪になっちゃうぞ」
「うむ……じゃあアスタが洗うのじゃ」
「ダメ、自分で洗いなさい」
「全く、わがままな奴じゃのう」
どっちが!?
「仕方ないのぉ……」
めんどくさそうな顔をしながらもシャンプーを手に取り、頭を洗うルージュ。
シャンプーまであるのかって?
これは何かの木の樹液なんだって。
香りもいいし泡立つし、ちゃんとシャンプーだ。
しかも百パーセント天然素材!
「まおーさま、ネネネも髪洗って欲しいですの」
そう言ってきたのはルージュとは逆隣にいるネネネ。
「どうして髪の上にむねってルビがふってあるんだよ、おかしいだろ」
「ですがまおーさま、しっかり洗わないとネネネの桜色の髪が駱駝色になってしまいますの」
「黙るんだ、自分で洗いなさい」
「わがままですわねまおーさま」
これこそどっちがだ!!
「仕方ないですの……」
嬉しそうに目を輝かせながら俺の下半身に手を伸ばそうとするネネネ。
「何してんだよ!」
「いえ、洗剤をとろうかと」
「やめろ!」
とか何とか言い合いをしつつ、体を洗い終え湯船につかる。
「はぁ~あ~きもちい~」
「骨身に染み渡るようじゃの~」
ボケーッとした顔でルージュが言う。
「まぁ何て年寄りくさいセリフですの? おっと……実際年寄りでしたのね」
おほほほとネネネ。
「黙らんか骨身から水分の抜けきった年増が」
「何ですって!?」
もうほんと……俺を挟んで喧嘩するのはやめて欲しいんですけど。
「あ? 何じゃやるのかのぉ?」
「やってやりますわよ!」
おいおいマジかよ。
「こんだけ広いからのぉ、水球勝負でもするか」
「受けて立ちますの!」
水球っておい、人数どうすんだよ、ニ人でやるのか?
ゴールキーパーは?
そもそも……。
「あ、じゃが玉が無いの」
そうそれだよ。
「玉ならありますの。二つほど」
ん? そんなのあったかな?
「ほう、そうじゃったか」
「ええ、ネネネが用意しますの。ね? まおーさま」
ネネネは俺の方を向いてにこっと笑う。
「何が『ね?』だ! ふざけんじゃねえ! 何でするつもりだ!」
あれか? あれなのか!? いやいやこれなのか!?
「さあさあ、まおーさま」
「やめろ! やめてくれ!」
パ~パパパ~パパパ~、ジャジャジャジャン、チャラララ~ン、ジャジャジャジャン、チャラララ~ン。
「間もなく試合開始となります、第二回魔王争奪水球大会。司会は四天王素早さ担当ゲイル・サ――」
「始まらねぇよ!!」
どこから出てくるんだよまったく。
とこでもいつでも好きなときに出て来て、好き勝手しやがって。
それにこれは俺の争奪戦じゃない。
「とにかく、ネネネもルージュもおとなしく風呂に入ってくれ」
その言葉を聞き入れてくれたのか、二人は俺の左右に腰を下ろした。
「仕方ないのぉ、その代わり夜いっぱい遊ぶのじゃぞ」
「はいはい」
どうせ今日はおねむだからすぐ寝るだろう。
「仕方ないですわね、その代わり今夜いっぱいいけない遊びを――」
「しないよ!?」
「ではイケる遊び――」
「しない!」
とまぁ、これでひとまずゆっくり普通にお風呂に入れるなと、ほっとした矢先……。
「どぉぉぉぉしてなのぉぉぉぉ!?」
隣の女湯からラヴの叫び声が聞こえる。
「信じられないっ!」
「なんだ? 騒がしいな非常事態か?」
「騒がしいのはいつものことじゃろ」
「そうですのよまおーさま」
誰のせいだと思ってるんだ君たちは……。
「ま、そうだな」
非常事態といえば、女の子二人に挟まれて風呂に入ってること事態が、既に異常事態だ。
どっちが女湯かわかんないよ。
そして、『やっとゆっくり普通にお風呂に入れる』とか言っちゃってるけど、この状況が普通だと思えてきてしまっている俺は、既に異常変態なのかもしれない。
ほんと、不自然な光や湯煙が彼女たちの体を隠してるからいいものの。
まぁとにかく……。
「はぁ~」
風呂はいいなぁ。
今回は水の上を走ることも滑ることも、壁を突き破ることもなければ、女湯に行ってしまうこともなく、無事風呂を入り終えた。