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異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第終部 異世界で死にま章       【魔王LL LAST:終】
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第最終閑 アスタのアシタ

 あんな突然、騒然とした、壮絶な出来事があってからたった一日。

 魔王城は、昨日のことなどまるで嘘であったかのように、夢であったかのように、いつもどおりの朝を迎えていた。


「本当に行くのか?」

「当たり前でしょ!? もうお弁当も作っちゃったもの」

 城の玄関から出てすぐの場所で、ラヴがお弁当の入った籐のカゴを俺に突き出してくる。


「にしてもどうして山なんだよ」

 何でも、今日は皆で山登りに出かけるらしい。

 既にラヴ以外の皆も、準備万端で集まっている。


「プールはどうした」

 結局昨日はあんなことがあったので、プールの製作には取り掛かれなかったのだ。

 そんなわけで明日、つまり今日、仕切り直しで造ろうと思っていたのだけど、それは叶わず。

 朝起きてすぐ、理由の説明も適当に、俺はこうして城から引っ張り出されたわけだ。


「プールはまた今度造ればいいじゃない。まだしばらく暑い日は続くんだし、そ、それに夏は今年だけじゃなくて、これから何度も訪れるんだから」

「いやまあそうだけど……」

 そうなのだ。これから俺は死ぬまで、何度も夏を、異世界の夏を味わうことになるのだ。

 だって俺は、神の力ではなく、自分の力でこの異世界に戻ってきたのだから。

 いや、厳密には俺の力ではなく、あの、金髪女騎士さんたちの力だが、そんな細かいことは置いておいて。

 だから、もはや元の世界に帰らなくてはいけない理由が、帰らされる理由がない。

 もっと言えば現状、たとえ帰りたかったとしても帰る術がないのだけど。

 ともあれ、逸花がそうであるように、これからは何の障害もなく、この異世界で暮らして行けるのだ。


 ラヴはこの辺の事情を分かった上で、そんなことを言ったわけではないだろうけど。

 しかしそれにしてもそう考えると、素直に嬉しいと思う反面、若干怖くもあった。

 今まで夢のような現実だったのが、本当の本当に、自分の現実となってしまったのだ。

 ううむ……俺はこれからこの異世界で、うまく暮らして行けるのだろうか。

 数年後俺は、この異世界でどんな暮らしをしているんだろうか。

 いやいや待て、柄にもなく、そんなことに思いを馳せている場合ではない。

 まずは目の前の今日を、何とかしなくては。


「でも、どうして山なんだ?」

 俺はラヴからカゴを受け取りながら、問いかけた。


「だってあんた昨日“やっほー”って叫んでたじゃない。あれって遠回しに、山に行きたいって私たちに伝えようとしていたんじゃないの?」

「いや、あんな状況で山に行きたいことを伝えようなんて、普通考えないと思うけど!?」

「じゃあ何、遠回しに私の胸が小さいと言いたかったわけ!?」

「どうやったらそんなところに辿り着くんだ!」

 飛躍しすぎだろう。


「だって、やっほーと言えば山でしょ?」

「ああ」

「それで、山と言えば胸でしょ?」

「あ、ああ?」

 もはや無理がある。


「アンタの頭の中では、よ?」

 俺の頭の中での話なの!?


「で、胸と言えば貧乳でしょ? アンタの頭の中では」

「ええ!?」

 俺の頭の中はどうなってるんだ!


「それで、貧乳といえば私、みたいな感じかしらって――だ、誰が貧乳よ! この変態!」

「とんだ被害妄想だ!」

「じゃあどうして“やっほー”って叫んだわけ!? ちゃんとした理由を教えて!」

 言って、なぜか腰の剣を抜く彼女。


「さもないとKILL」

「せめて切るにしてくれないでしょうか……」

 おいおい何なんだよこの状況、俺はうかつに“やっほー”と叫ぶことも出来ないのか。


「さあ、早く答えて」

 答えてと言われましても、そもそも俺は“やっほー”と自分が叫んだことを覚えていないんだけど。


「あ、あれなんじゃないか? 俺が叫んだのは“やっほー”じゃなくて“やっぞー(やるぞー)”だったとか」

 何だほら、喧嘩の前と言うか、戦いの前よろしく鼓舞目的の雄叫びみたいな。


「え、何、じゃあアンタは別に山登りに行きたくて叫んでたわけじゃないってこと?」

 たとえ本当に“やっほー”と叫んでいたのだとしても、それに山に登りたいという意図はないと思うけど。


「ラヴは?」

「何よ」

「ラヴは、プールじゃなくて山でいいのか? 山登りに行きたいのか?」

「んー、まあそうね“山”なんて縁起がいいし」

「山に登っても胸は大きくならないぞ……」

 山の尾根とは言うが、“おね”は別に、“大きな胸”の略ではない。


「何か言った?」

「いえ、何でも」

 相変わらず胸のことになると、バカだなラヴは。


「ネネネはどうなんだ? 山登りに行きたいのか?」

「もちろん、山登りでイキたいですのよまおーさま」

「お前は山で何をするつもりだ」

「やましいことですの、おほほのほ」

 山だけにってか……コイツはどこでも同じだな。


「ルージュは? 山登りに行きたいのか?」

「何!? マヤの遺跡掘りじゃと!?」


「誰がマヤと言った、山だ」

「絵馬?」


「遺跡とか絵馬とか、どこか神聖な場所に行きたいのか?」

「破魔!」


「やっぱりそうだ! さてはお前、神社にでも行きたいんだな!?」

「夢魔!」


「なんと! 本格的にネネネの排除(おはらい)に取り掛かるつもりか!?」

「ああ、山、じゃの」


「何だよそれ、もうええわ」

「「どうもありがとうございました~」」

 伝説のコンビ、最後のライブだった……。

 って、結局行きたいのか何なのか分からないし。

 まいいや。略して“まや”。


「エメラダは?」

「行く……山菜採る」

「また?」

「……アスタロウは、また、三歳とる?」

「またって……その、一度でも俺が三歳をとってきたみたいに聞こえる言い方はやめてくれないかな」

 人聞きが悪い。


「山菜って言うから悪いんだな。エメラダ、これからは山の幸と言おう」

「サチちゃん……」

 まずい、三歳のサチちゃんが誘拐されている。

 俺に。


「じゃ、じゃあ、山の恵み」

「……メグミちゃん」

 ぐはっ! 今度はメグミちゃんが魔の手に。

 俺の。


「山の、味覚!」

「ミカ君……」

 ロリだけでなく、ショタ属性まで付与されてしまった!


「山の、恩恵!」

「……オンケイ君」

「いやいやエメラダ、さすがにそんな名前の子どもはいないだろ」

 いや、いないか?

 最近の世の中、もうそれは人名を超えてしまっているだろうと言う名前もよく聞く。

 恩恵君くらいどこかにいても、おかしくはなさそうだ。


「……アスタロウ?」

「ゴホン……俺の負けだよエメラダ」

 一体何の勝負をしていたのかは知らないが、俺がそう言うと、エメラダは満足そうに頷いた。


「クゥも行きたい? 山登りに」

「行きたいのだ! 山掘りに」

「いやクゥ、山掘りじゃなくて、山登りね。山は掘らないの」

 掘削機ならぬクゥ削機は、今回は使わない。


「でもアシュタ、山は邪魔なのだ」

 邪魔だからって山を生身で削ろうとする人間が、どこにいる。


「それに掘らないと、うまい物も食べられないのだ……」

「うまい物?」

「ラヴねーちゃんが言ってたのだ、砂ん中(さんちゅう)で食べるお弁当はうまいって」

 さ、砂ん中(さんちゅう)? 砂ん中(すなのなか)?


「いやいやクゥちゃん、それ、砂ん中(さんちゅう)じゃなくて、山頂じゃないか!?」

 何かもう、間違え方がエキセントリック過ぎる!


「山頂なのだ?」

「そう、山頂、山の頂上、(いただき)、頂でいただきますだよ」

「ふーん、よく分からないけど山踊りに行くのだ!」

 本当に踊りながら登りそうだから怖い……。


「逸花は? 山登りに行きたいのか?」

「まーそーだね、今は、山は登りたい場所だね」

「今はってどう言うことだよ」

「少し前までは、山は登りたい場所じゃなくて、放りたい場所だったからー」

 何を!? お前は一体何を隠蔽しようとしているの!?


「でもたっくんと心中するなら、山より森だよねー」

 何の話をしているんだ!?


「だってよく言うでしょー? 森心中って」

「無理心中だよ!」

 と言うか本当に何の話をしてるんだ……?


「死を隠すなら森とも言うしー」

「木だ」

「山と言えば、姥捨山かなー?」

「……」

 俺はコイツとはあまり山に行きたくないなぁ……。


「まあとりあえず、皆山に行く気満々と」

「そうよ、アンタがやっほーと言っていようがなかろうが、山に行きたかろうがなかろうがね」

「ネネネは行くき満々なのではなく、マンマンがイク気なんですのよ? まおーさま」

「ネリッサ、アンタは黙ってなさい。とにかく、だから、ゴチャゴチャ言ってないで早く山に行くわよ」

 ラヴは言うが早いか、俺の返事など待たず歩き出した。

 他の皆も足取り軽くそれに続いていく。


「あっおい」

 あっけにとられた俺は、離れていく彼女たちの背中をボーっと見つめていた。

 しばらくするとそんな俺に気付き、皆して俺を振り返る。そして揃って言うのだった。


「な、何してるの、早く行くわよ、魔王」

「早くイキましょう、まおーさま」

「早うせんか、いや早う乗せんか、アスタ」

「ハヤクシロウ……アスタロウ」

「早くいくぅのだ! アシュタ!」

「早く逝こうよー、たっくん」

 相変わらず、めちゃくちゃな奴らだ。

 まったくもうまったくもう。


「よし!」

 数年後俺は、この異世界でどんな暮らしをしているんだろうか。

 きっとこれまでと変らず、このバカみたいな家族(やつら)と、バカみたいな生活(にちじょう)を送っているに違いない。

 数年後どころか、十年後も。何十年後も、死ぬまでずっと。

 バカやって笑って、バカやって怒られて、バカやって喧嘩して、バカやって仲直りして。

 そんな当たり前で、当たり前に素晴らしい毎日を繰り返すのだ。

 何も恐怖することはない、だって俺には家族がいるのだから。

 ラヴが、ネネネが、ルージュが、エメラダが、クゥが、逸花が、いるのだから。

 だから今は未来のことなんて考えず、バカはバカらしく、目の前の今をバカみたいに楽しむことだけを考えよう。


「行きますか!」

 愛すべきバカ共と戯れることだけを、考えよう。

これにて本作品の連載は終了となります。

作者の未熟さゆえ、意味不明な場所やつまらない点など多々あったと思いますが、それでもここまで読んで下さった読者の皆様、ありがとうございました。

月並みなセリフしか吐けなくて申し訳ないですが、ここまで連載を続けてこられたのは、皆様の存在があったからです。

それは連載中もそうでしたが、完結した今より実感しております。本当にありがとうございました。

そんな皆様に、もし少しでも楽しんでいただけていたのなら、それに勝る喜びはありません。


もっと謝辞を述べたいところではありますが、あまり長々と書くのもそれはそれでみっともないと思いますので、以下前回のあとがきで宣言したといいますか宣伝していた、最新作の情報を載せたいと思います。


タイトルは【異世界で奴隷商人になったけど、商品が可愛すぎて売れない!】です。

既に本日より投稿を始めております。


URLはこちらです【http://ncode.syosetu.com/n1498da/】


内容は、本作品にに改良を重ねたものですので、本作品を気に入っていただけた方になら、必ず楽しんでいただけるものになっていると思います。

ですので、お時間が許すようでしたら読んでいただけると幸いです。


【あらすじ】

ある日突然異世界に召喚され、店の主をやってくれとお願いされた主人公の少年。

何の店かと尋ねた彼に示されたのは人間、それも異形の体を持つ亜人。

つまり彼が任されたのは奴隷ショップだった。

今店にある商品を全て売り捌くことが出来たら元の世界に帰してやると言われ、泣く泣く引き受けることになったのだがしかし、問題の商品たちが可愛すぎて全然売ることが出来ない。

これはそんな、商品を売ることの出来ない奴隷商人な主人公と、売られない奴隷なヒロインたちの日常を描いた、異世界ハーレムコメディファンタジー。


それではここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。ご縁があればまた。

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