表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異☆世界転生~愛すべきバカ共の戯れ!!~  作者: 高辺 ヒロ
第終部 異世界で死にま章       【魔王LL LAST:終】
217/224

第弐佰拾肆閑 延々と援軍 横

 今度はハーピーたちの頭の上、キューピーちゃんの肩越しに、にゅっと何かが顔を覗かせる。

 それは一軒家程の大きさのキューピーちゃんよりも更に大きい、三角お耳の黒い犬だった。


「こんにちわんわん、クゥのお母さんですよ~」

「これはこれはどうもこんにちはお母さん。と――?」

 その犬、もといケルベロスは、お母さん一匹だけではなく、彼女の後ろに、彼女よりも更に一回り大きな個体が存在した。


「あ~こっちはクゥのお父さん、私の夫です~」

「そ、そうですか、どうもはじめまして」

 無言で俺を見下ろすクゥの父に、俺は軽く頭を下げる。


「今日は魔王さまが危機だと嗅ぎつけて、駆けつけて来ました~」

「嗅ぎつけて? 凄い嗅覚ですね、そんなことも分かるんですか」

「嗅ぎつけてじゃありませんよ~聞きつけてですよ~魔王さま。うふふ」

「そ、そうですよね、はは」

 この人は相変わらずだなぁと思っていると、また違う声が聞こえる。


「婿殿ー! 婿殿は無事かー!」

 低く、腹に響くような男性の声。

 その声の持ち主は、エメラダのお父さんだった。

 銀髪の戦士然とした彼は、馬を駆り、後方に同じく馬に乗った銀髪エルフを数人従えこの場に訪れた。


「婿殿! どうやら無事のようだな」

「え、あ、はい。今はまだ無事ですけどお父さん、その婿殿って言うのはなんで――」

「そうか」

 話を聞いてくださいよ……。


「だが一応確かめておこう。何か面白いことを言ってみなさい」

「え? 面白いことですか?」

 出たよ無茶振り。しかもこんな公衆の面前で。恥ずかしいことこの上ない。


「いや、あの、お父さん?」

「早く!」

 クワっとめを見開くエメラダの父。相変わらず、凄むとめちゃくちゃ威圧感がある。


「え、えっと、じゃあいきますよ……土砂がどしゃー!」

「……。…………。………………。……………………。うむ、無事なようだ」

 大怪我だよ!


「だが危機に瀕しているのはまだ変らない。婿殿を守るため、私たちエルフも加勢しよう」

「あ、ありがとうございます」

 婿殿に関しては、言っても無駄そうなので放っておこう。


「私も忘れるなよな! 魔王!」

 エメラダのお父さんの後ろからひょっこり顔を出し、馬を飛び降りて来たのは、緑色の髪の毛をたっぷりと蓄えた小さな女の子。

 ドワーフの、ベルだった。


「ベル、君も来てくれたのか」

「あったり前だろ!? 親友なんだから。瀕死だって聞いたら駆けつけるに決まってる!」

「いやベル、瀕死じゃなくてピンチね」

 まだ俺死にかかっているほど、ダメージを負っていないし。


「ん、ああそうか、そうだな」

「と言うかベル、エルフの皆さんと一緒に来たんだな」

「ああ、途中で出会ったからな、乗せてもらった」

「エルフとドワーフは仲が悪いって聞いてたけど」

「そんなこと私には関係ねえ! 親友の変死に、いち早く駆けつける方が重要だ!」

 変死って……死に瀕しているどころか、死んでしまってるよ。


「そっか、ありがとう」

 俺がそう言うと、気にするな! と彼女は笑った。


「俺達も、力にはなれねえかも知れねえが来させてもらったぜ」

 しわがれた声がして目を向けると、そこにいたのは、農業に使う(クワ)を持った、肌の浅黒い細身のおじさんだった。


「よう、魔王の兄ちゃん」

「あなたはあのときの」

 そのおじさんは、以前絶町(ぜっちょう)で出会い、野菜をくれた、そしてこの騒動の発端であろう『勇者召喚計画』について教えてくれた、あのおじさんだった。

 彼の後ろには同じように農業用具を構えた屈強そうな男が数名と、腰の曲がった町長、そしてゲイルの妻であるカバ顔のウメコの姿まであった。


「い、いいんですか? あなたたちがこちら側について」

 人間である町人が、魔者である俺の側について。

 それだけでなく、散々痛い目に合わされた魔王の側について。


「まああんたらには色々世話になってるからな。世話と言ってもアッチの世話、エッチの世話じゃねえぜ? はっはっはっは」

「それは分かっていますけど……」

「なあにあれだ。兄ちゃん、町にとってあんたはまだ利用価値があるから、生かしておこうってだけだ。前も言ったろう、深く考えるな」

 しわの多い顔を、更にしわくちゃにする彼。


「はい!」

 ありがとうございますと、俺は素直にその好意を受け取った。

 しかしまあ、よくもここまで集まったものだ。

 駆けつけてくれた皆を見渡す。

 小人。妖精。人魚。巨人。ハーピー。ケルベロス。エルフ。ドワーフ。人間。

 加えて勇者に、吸血鬼に、夢魔。

 大きさや形の違う者たちが一同に会しているそのさまは、まさに圧巻。鳥肌が立つ。

 何だか漫画やアニメの、クライマックスシーンのようだ。


「皆さん、集まってくれて改めてありがとうございます」

 そしてこれだけの人を集めたのは――


「ゲイルも、ありがとう」

「いえ、礼には及びません。魔王様の側近である四天王としての私の、本来の仕事をしたまでです。それに魔王様、魔王様を倒し玉座を手にするのはこの私。それまでに魔王様に倒れられては困りますからね」

「見直したよ、ゲイル」

「ふっ惚れるなよ? 火傷するぜ?」

 前言撤回。


「まあこれで、魔王様には二度と“逃ゲイル”などとは呼ばせねえぜ」

「一度も呼んだ覚えはないがな!」

 せっかく見直したのに、コイツは……。

 まったくもうまったくもう。


「さあ、どうしますか? 騎士団長」

 ラヴが、これ好機と、落ち着く暇を与えず問いかける。

 もともと大きかった彼我の戦力差には、皆が来てくれたおかげで更に開きが出たのだ。

 もはやどう見たって、どうしたって、魔王討伐軍側に勝ち目はあるまい。

今日も読んでいただき、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ